気が付いたらぼっちの俺は……
※この作品は、公式企画『夏のホラー2023』参加作品です。
※またしても怖くないホラーです……怖い描写など苦手な方でもお読み頂けると思います。
もともと友達が少なかったという事もあるし、高校生になったからと言って性格が直ぐに変わる事もない。いや、高校デビューという言葉が有るのだから、出来ない事は無いのだろうけど、元が陰な俺では、急に目立つことなど出来るはずもなく、入学前からあきらめてはいた。
だからと言って、目の前で起きている事に関して何も思わないという事は無い。
俺は名島翔也。クラスの中で独りだけの時間を過ごしている。
行けるとは思っていなかった高校へと進学し、ようやく授業の進むペースにも慣れ始めた6月。
俺の周囲では陽キャも陰キャと言われる人達も、数人のグループが出来上がり、それぞれに盛り上がりを見せつつ、休み時間などを過ごしている。
但し、窓際一番後ろという特等席を確保している俺の周りには誰もいない。時折俺の側を通るクラスメイト達はいるものの、その大半が何とも言えない表情をしながら通り過ぎていくのだ。
――何かしたかな?
当然日頃の行いを振り返るけど、思い当たる事は無い。しいて言うなら――。
あれはゴールデンウィークに入る少し前。
学校で必要になったものを買いに町へと繰り出した俺は、少し気が早いと思いつつ買った夏用の服と、文房具、そして発売日に買えなかった小説を手にできた喜びを胸に、家路についていた。
大きな町とは言えない場所に住んでいるとはいえ、それでも駅前などには人が多く行きかう。
しかしそんな大通りを一本逸れれば、道夫幅も狭く少し暗い細い路地があり、噂では結構危ない人達がたむろする場所と言われていた。
急ぎ足でそのばうぇお通り過ぎようとした時、数人の言い争う声が聞こえて来た。
よせばいいのにその声のする方へと近寄ってみると、その細い路地の奥でクラスメイトの女子数人と、少しばかり年上と思われるチャラそうな恰好をした男性数人の姿が目に入る。
そして言い争いはその人達がしているのだと気が付いた時、何も考えずに体が動いてしまっていた。
どうやってその場を切り抜けたかは覚えていないけど、路上に座り込む俺を、クラスメイトの女子達が座り込んだり覗き込んでいたり、そこに居た人みんながとてもうろたえていて、涙を流している人たちまでいた。
――助かって良かった……。
少しばかりの安堵と共に、そんな感情が生まれ、そのまま俺は気を失う。
そして週が明けて学校へと登校してみれば、そこで有ったのはそれまでとは全く違う俺への対応で有った。
それまでは教室へと入って行けば、何人かは挨拶などをしてくれたし、休憩時間や昼休みになれば俺の席の近くによって来たり、場所を移動して皆で盛り上がったりしていたのに、その日を境にして、俺の周りには誰ひとり近づいてくることがなくなった。
まるでそこには誰もいないかのように。
俺から話しかけても誰も返事をせず、しかし俺の方を見る皆は凄く複雑な表情をする。
そしてあの時俺が助けたと言っては烏滸がましいかもしれないけど、その時にいた女子達が何故か俺の方を向きながら泣いたりする。
――え? 生理的に無理って事か? 見るのも嫌なのか? 俺なにしたんだ!?
ショックを受けつつ、あまり見ない様にと窓の外へ視線を向けた。
それからしばらくすると更に事態は大幅に変わっていく。
俺が座っていた俺の席のはずの机も椅子も、教室の中から無くなっていた。教室に入ってその事に気が付くと俺は呆然とその状況を見ていた。
――え? なに? 俺ってまさか……いじめ……られているのか?
考えれば考えるほど、胸の奥が締め付けられるようにギュッとなる。
いつまでたっても誰もそのことについて話をする事が無いと分かり、俺は教室を静かに出て普段は立ち入る事すらしない屋上へと続く階段を、ひどく重く感じる足を精一杯に動かしながら登っていく。
――どうしてこうなったんだろう……?
外へと出て、空を見つめながらそんな事をずっと考えた。結局は答えなんて出るはずもなく、時間だけが過ぎていき、昼休憩になって生徒が屋上へと来ても、誰も俺の事など気にすることなく、話しかけられるような事すらなく、休憩が終わるチャイムと共に皆姿を消した。
太陽が傾き、山裾へと消えかけて、空がオレンジ色から紫色へと変化を始めた頃、整理の付かない心と共に、俺もその場を離れることにした。
いつも一緒にいたはずの友達は既に帰ったのか、校舎の中は静まり返り、運動部の生徒がグランドで出す声が、静かな廊下で木霊し、静かに消えていった。
とぼとぼと独り家路につく。
家に帰るには数通りの道があるが、俺は沈んだ気持ちを少しでも浮上させるため、あえて人が多くいる場所を選び変える事にする。
すれ違う人たちもまた、俺の存在など気にした様子もなく、黙ったまま何事も無かったような様子で通り過ぎていく。
――俺の存在って何なんだろう……。
立ち止まりふとそんな事を考える。
その拍子に視界に入り込む黄色いもの。
――ん? なんだ?
その色の方へと確認のために移動していく。
――あれ? ここって……。
辿り着いた場所で息をのむ。
そこは数日前に俺がクラスメイトの女子達といた細い路地の入口となる場所。そして俺が気を失った場所でもある。
――どうして規制線が張られているんだ?
黄色いテープがそこかしこに張られていて、それ以上は立ち入る事を拒んでいる。
――うっ!?
急に胸が重苦しくなる。
胸に手を当てるも、段々と重苦しさが増していく。
「はぁ、はぁ……。な、なんだよ!! どうなってるんだ!!」
とうとう立っていられなくなり、その場へとしゃがみ込む。そして誰に憚ることなく大きな声で叫んだ。
じゃり……。
「っ!?」
近くで砂利を踏みしめるような音が聞こえる。慌てて体を起こすと、そこには見慣れた人たちの姿が有った。
「え? どうして……」
その人たちとは、俺が助けに入った時のクラスメイトの女子達と、仲良く話をしていた男子生徒数人。
俺が驚いたのはその人たちの姿を確認したからだけではない。そこに居た人たち皆が、手に胸に大きな花束と共に、お菓子屋飲み物などを抱え込んでいたからだ。
「名島君……」
「名島……」
俺の名前を呼びながら、抱えていた荷物を黄色いテープの張ってある内側へと静かに置いていく。
「みんな……どうして……」
そこに俺がいるのに、俺の名前を呼びながら積み上げていく花束。
「ありがとう……。名島君」
「あなたが私達を助けてくれたのよ」
「ずっと忘れないからね……」
そう言いながら皆がみんな、手を合わせつつ涙を流す。
「え? 忘れないって……え?」
困惑する俺をよそに更に声を掛けているクラスメイト達。俺はその様子を黙って見ている事しかできなかった。
「もっと……名島君と話してみたかったよ。もっと……生きてて欲しかったよ……」
手を合わせながらしゃがみ込み、嗚咽交じりに呟く女子生徒。
「俺は……」
そして俺は気が付いた。
「俺は……死んだの……か?」
しばらく泣き続けた女子生徒の方を抱き上げ、一緒になってその場から去って行くクラスメイト達を静かに見送る。
「そうか……俺はもう死んでいるのか……。だから……」
スッと今までの事に納得が出来た。
俺の存在がいない様に振る舞われる事も、俺の方を向いて表情を曇らせる事も、誰も俺の側に来て話しかけてこない事も、そして……俺の机や椅子が教室から無くなった事も。
――そっか……。俺はもうそこには居ないんだな……。
本当はいる。居るけど居ない存在。それが今の自分だと気が付いた時、スッと胸の奥の何かが消えていく感じがした。
「そうか……あの時、俺は死んだのか……」
――あの子達が無事で良かった……。
自分が死んだことよりも、助けに入ったあの子達が無事な事が嬉しかった。そして段々と気持ちが晴れていく。
――そうか……俺は、それが心残りだったのか……。
誰もいなくなり静かになった細い路地のそのすぐ側で、折り重なった花束が静かに揺れる。
燻ぶり沈みかけた想いは、慈しみ温かな想いと触れあい、静かにその本懐を遂げた――。
路地裏でクラスメイトの女子を助けて散った、心優しき少年の一生。
お読み頂いた皆様に感謝を!!
この作品も急遽執筆したものですけど、本来怖いものであった内容を変えて、怖くないモノに構成を変えました。
こういう企画ものに、こういう作品はどうなのかな? という思いはありますが、他の皆さんが『本格的な』ホラー作品を掲載すると思いますので、一人くらいはこういう作風があってもいいかな? と執筆しております。
怖いもの苦手な方でもホラーには興味がある。そういう方には安心して読んで頂けたかな……とは思いますが、いかがだったでしょうか?