ロリコン勇者
第1章のラストです!
扉の先には、何かが、腐敗したかのような強烈な匂いと共に、巨大なモンスターがいた。
間違いない、ボスだ。おぞましいオーラを纏っているのがわかる。
俺たちに気がつくと鼓膜を突き破るかのように咆哮を上げた。
周囲を観察する。
天井はなく、吹き抜けなお陰で、太陽の光が入りそこまで暗くはない。この空間の大きさは、比較的広く、戦いやすい設計になっていた。
ボスは全長5メートルほどの巨体で、爪は鋭く尖っており、10メートル離れたこの辺でさえも殺気を感じるほどのオーラを放っている。
俺が圧倒され動けないでいると、ラーニャは戦闘を始めた。
俺は後方から回復ポーションを投げる事しかできない、無力な自分に絶望する。
だけど今の俺にできることはこれしかない。
圧倒的な体格差のボスモンスターに果敢に挑むラーニャに対して一体俺は、なにをしているんだ。
自分が、異世界というものを勝手な幻想を抱き、平和ボケしていたことに今更気がついた。俺らが死ぬか、あのボスが死ぬかの命の駆け引きなのだ。
死んで、異世界まで来て、お金に困る幼女にお金を借りっぱなしでだというのに一切戦えない。
こんなんでいいのか…。心臓の鼓動が早くなる。頭に血が昇り、くらくらする。情けないし、悔しい。倒れてしまいそうだ。
ラーニャもかなり頑張っていたが、3分も経たないうちに敵の攻撃が直撃した。
「ぎゃああああああ」ラーニャは乾いた悲鳴と共に奥の壁へと吹き飛ばされた。
背中に寒気が走る。が、それが俺を冷静にしてくれた。
このままではダメだ。いいはずがない。この命に替えても、ラーニャを守らなくては。
俺の脳内に溢れかえっていた情報がみるみるなくなってゆき、ラーニャを守ることだけが残った。
俺はラードセルを前に背負い、モンスターに向かって突進した。
「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」俺は無我夢中で突進する。
「ゼロさああああああああんダメえええええ!!」ラーニャが叫ぶ声が聞こえる。
まだ、生きているようだ。良かった。これで思い残すことはもうない。
これでいい。ラーニャも俺の死を無駄にするほど馬鹿でもないだろう。なんてったって出会ってまだ二日目だ。命まで捨てる義理はない。頃合いを見て撤退するだろう。3分、いや3秒は稼ぐ!
3秒のために命を捨てるのは愚かだって?
それは違う。
何故なら、俺は、前世からの、
「ロリコンだからだあああああああ」俺は全身全霊。足の指先から、声を張り上げた。
その途端ラードセルが光り輝く。
その光は俺とラーニャを優しく包み込み、周囲の空間を眩い光と共に殲滅した。
爆風が起こり、その衝撃波は吹き抜けの天井から雲をも貫いた。
しばらくして、優しい光から解放されると、周囲の地形は大破し、ボスモンスターは消えていた。
「倒したのか…?」俺はこの一瞬で起きた出来事に困惑する。体にはまだ、あの衝撃が残っている。
数十秒放心し、我を取り戻すと、ラーニャのところまで駆け寄った。
ラーニャは、先ほどの衝撃波のせいか気絶していたが、傷は完治し、眠っているだけのようだ。
目から熱い感覚が流れてくる。
手で拭う、涙だった。なんとも情けない話だ。
流れた涙は頬を伝って、ラーニャの頬へと垂れる。
その衝撃でラーニャはまぶたをあげた。
「ゼ…ロ…さん?」ラーニャは確かめるように、言った。
「ああ、そうだゼロだ。」俺は、ラーニャの手を強く握り、返事をする。
ラーニャはここまで俺のことを慕ってくれているんだ。
勝手にラーニャが逃げるだろうと言った俺の方が愚かだったということだ。
それならせめて誠意を示すべきだと思い俺はラーニャの限りなく澄んだ目を見つめて言う。
「俺は何一つお前の役に立てないかもしれない。迷惑ばかりをかけてしまうかもしれない。この武器は、三大武器なのかもしれないが、お前がいなければ、ただのゴミだ。だから、頼む。俺と一緒に居てくれないか?俺を許してくれ…。」
ふざけたお願いだ。ラーニャの目的とはかけ離れすぎている。断わられる可能性も十分ある。
だけど俺は涙をポロポロと子供のように流しながら訴える。
視界は歪みラーニャの顔もろくに見えない。
ラーニャはそっとうなだれた俺の頭を優しく撫で、「もちろんです。私もゼロさんと同じがいいのです。」と微笑みかけてくれた。
慰めてもらうなんて情けないが、今はこれでいい。いつか必ずこの恩を何倍にもして返してやるのだ。
ボスの間を抜けると地上まで続く階段がいつのまにか出来ていた。
俺はラーニャを合法的に抱き抱え、王都へと戻るのだった。
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魔王城にて
「この反応、ラストダンジョンのボスが撃破されたようだ。」
俺は、水晶に映る映像を見ながら言う。映像は小さな少女が弾かれるところまでのシーンを映し出した。
「一体何者が、、、?あそこのダンジョンに配置したバーサーカーのレベルは70を超えていたはずだぞ!?」センスのない眼鏡をかけた悪魔がいう。
「落ち着け、一燐。だが、まあ確かにあそこに配置したのは、我々、魔族四王に匹敵するレベルだったはずだ…。」とグラウンというやたら体臭がきつい龍人族が言う。彼曰く、泥水こそが至高らしい。
「待って、こいつが装備してるのって…まさか、ラードセルじゃない!?」エルフのティが言う。
「まさか!?あの武器は確かに私が粉砕したはずだ!」一燐は興奮気味だ。
「しかし、一燐の言う通り、これでは我が陣営が不利になってしまいます。どういたしましょう勇者様…?」
「丁度退屈していたところだったし、退屈凌ぎにはなるだろう」勇者と言われた俺は不敵に笑った。
いかがでしたか?第二章もお楽しみに!!