初等科に向けて01
破滅と断罪は、高等科の中で起きるとすれば、10年以上の時間的な余裕がある。
史実がかなり違っているため、辿るべき歴史も変わっているけど、なんとかしなければならない。
初等科に向けて01
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あたしには、前世の記憶がある。
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乙女ゲーム「ロマノヴァ」は、ロシア帝国が滅び、ボリシェビキに追われた皇帝一家が、樺太で|無地領主《Landless Lord》と呼ばれて、再興を図ったことで描かれていた。日露戦争に勝利した日本が、世界大戦中に起きた、ボリシェビキ革命の中で、国を追われた皇子皇女達を助けて、樺太道敷香郡に迎えたことで歴史が変わっている。庶民の娘で特待生で入学した主人公安藤葵は、ロマノヴァの血を引く橘和哉と高等科で出会い、恋をして二人が結ばれるという話である。
問題は、上之宮玲華として生まれた、あたしだ。
金髪碧眼の公爵家令嬢として生まれた上之宮玲華は、同じ金髪碧眼の雅哉に憧れて恋をして、主人公との仲を邪魔する悪役として登場する。最後まで邪魔をしたことで、橘雅哉に上之宮財閥を潰され、父は逮捕され、あたしは庶民に落とされた。
乙女ゲーム「ロマノヴァ」の上之宮玲華には、悪役としての破滅が待っている。
華族に生まれ、選民意識が高く、庶民の主人公を徹底的に嫌って、最後まで差別をしていたことで、橘和哉に破滅させられ、庶民に堕とされるのが、上之宮玲華なのである。
回避しなければ、破滅エンドとなる、なんとか破滅フラグを回避しなければならない。
王道悪役に転生するってのは、おかしくないか、夢なら醒めて欲しい、、、
目が覚めても、状況は変わらず、破滅回避は必須事項となった。
そもそも、乙女ゲーム「ロマノヴァ」をプレイしていたあたしは、ド庶民なのだ。市立小学校に中学校、県立高校を経て、大学を卒業して会社に就職したまでの記憶がある。20代前半くらいの記憶しかないので、若いうちに死んでしまったらしい。
事故か何かで、植物状態となり、夢の世界ということかも知れない。BMI《Brain Machine Interface》が発達して、仮想世界のゲームとして、「ロマノヴァ」をプレイしているかもしれない。風邪をひけば苦しいし、食べ物には味がある、怪我すると痛い、現実にしか見えないのである。
ゲーム世界に転生というのは、テンプレなのかもしれないが、破滅エンドの悪役令嬢になるのは、リアルには勘弁して欲しいものである。
悪役令嬢の破滅フラグ回避のために
一つ。敵を作らず、和を以て貴しとなす。うん、これは大切。
一つ。散財せず、貯蓄に励む。目指すは、公務員。
一つ。和哉というフラグに関わらず、主人公の殿村葵にも関わらない。
まずは、こんなところか。
しかし、乙女ゲーム「ロマノヴァ」は、金髪碧眼のイケメン和哉だけでなく、国際色豊かな登場人物達を背景とするために、かなり史実が変わってしまっている。
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あたしには、前世の記憶がある。ただし、「ロマノヴァ」の歴史は、まったく違っている。
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あたしには、前世の記憶がある。ただし、「ロマノヴァ」の歴史は、まったく違っている。
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つまりは、日本の歴史そのものが、前世の記憶と全く違う。
大正13年に典範選挙の結果を受けて原敬内閣が設立され、大正14年に生前退位なされて、昭和元年となり、昭和63年に陛下が退位されて、平成元年となった。つまり、生前退位が認められているのが1924年で、大正天皇の時なのだ。ご病気やご高齢で、公務に支障がでた場合、生前退位が認められる形となっていた。結果として、ビミョーに改元時期が、記憶の中の前世と違うのだ。
世界地図を見ると、シベリア大陸の西にボリシェビキ・ソビエト連邦があって、東には極東ロシア共和国がある。極東の海岸部や沿海州に満洲は、真っ白で「特区」という記載がされている。
千島列島も赤く、日本領という形で記載されている。樺太も赤いのだが、敷香郡が白く、樺太道全体にも、白い斜線が入っている。樺太道としては、日本の実効支配下にある。けれど、露西亜帝国府が敷香郡にあって、樺太に日本が保護した、ロマノフ帝室との領土権交渉が継続されている。ロマノフ帝室が表向きは、樺太の領有権を主張していて、日本政府としては実効支配しているとして、ロマノフ帝室の主張を認めていない。
樺太道は、ボリシェビキ・ソビエトからの亡命受け入れを基本としていて、世界大戦を逃れた、様々な人達がボリシェビキ・ソビエトから亡命してきていた。
樺太道は、天然ガスと石油を産出し、泥炭も産出した。日本は、満洲鉄道都市整備事業を担当し、大陸方面では、鉄道を中心とした、都市インフラの整備を担っていた。
第二次大戦が無いから、帝国陸海軍が残っているし、世界中に国際連盟として軍を派遣している。さらに、内務省鉄道院警備局から独立した形で、護衛総体が編成され、自衛隊という形で独立していた。自衛隊は、軍隊では無いので、統帥権は政府にあり、内務省の管轄となっていた。226事件では、内務省が動き、鉄道院警備局が、警察と共同で武力鎮圧にあたっている。警察にしても、士族叛乱を武力鎮圧したのは、主としては警察であり、大規模になった西南戦争は、軍と警察が協力して、鎮圧にあたったとなっている。西南戦争では、旧新選組を主力として編成された警察抜刀隊の活躍が、教科書に掲載されている。公家も華族という形で残っているので、なかなかに複雑な世界である。
初等科の教科書や地図帳を見ながら、居間で百科事典を調べていた。
あたしが生まれたのは、1989年1月7日なので、前世では昭和64年だった。この世界では、西暦では同じとなる、平成3年1月7日に生まれている。
小学校の時に、生まれた年に起きた出来事という作文で、「大喪の礼」について書いた。この世界では、大喪が行われたのは、明治天皇の時だけで、生前に退位されているので「大喪」の形では執り行われていない。