バトル1~ファイナルファンタジーⅣ②
「集合!!」
コーチの招集でグラウンドの中央に集められた。ひとつ先輩の年生が15人、広海達5年生が20人のおよそ20人の40人弱で、週に3日全体練習を行っていた。宮坂SCは地元では有名な強豪チームで、地区大会では毎年優勝候補の筆頭だった。さらにその上の東京都大会でも度々上位に食い込んでいた。都大会の上は関東大会、そして全国。ここまでを視野に入れたクラブチームである。よって練習はそれなりに厳しく、途中で辞めてしまう者も少なくないが、故に宮坂SCに長年籍を置いている子はやはり相応の実力者であった。広海然り、後の翔然り。
「ミニゲーム始めるぞ。最初、Aチームから。」
Aチームはいわゆるレギュラー組。公式戦で主軸となるメンバーだ。広海も5年生ながらAチームに所属していて、ツートップの一角を担っていた。ちなみに5年生でAチームに入っているのは広海ともう一人だけ。特に広海はチームの得点王でアシスト王。チーム総得点の8割に絡む中心選手だった。先日まで行われていた地区大会は優勝。今週末には、東京都大会の2回戦を控えていた。
さて、練習を終えて帰宅した広海がまずやることはスパイクの手入れ。まずはマンションの外で靴底の泥を落としてから家に入る。ただいまという声だけ家に上げ、そのまま玄関に腰を下ろしてスパイクのお手入れ開始。尤も手入れと言っても雑巾で汚れを拭き取り、靴用の油を擦り込むだけの簡単なもの。大体10分くらいで済む。スポーツ選手たるや道具を大事に使うことから始まるとか、道具を長持ちさせる為という考えはなく、ただ単に綺麗好きなだけ。神経質なまでに。理由は単純で、泥だらけの汚いスパイクやトレーニングシューズを履きたくないから。一方で弟の翔もこの頃には兄を追ってサッカーを始めていたが、一切手入れはしない。靴が汚かろうが玄関が泥だらけになろうが知らん顔。しばしば母親に叱られていた。
この日の手入れも20分、普段の倍の時間がかかっていた。いつもより念入りにということでも、汚れがひどかったということでもない。油断すると溜め息が出てしまう。悩みそしてプレッシャー。
「広海君がいれば、どんなチームがきても大丈夫だね。」
チームメイトからの一言。裏や嫌味など一欠片もない。紛れもない褒め言葉、期待の表れ、応援歌。これまで自由にボールを蹴ってきた。沢山の試合に勝ってきたが、もちろん負けたこともある。勝つこともあれば負けることもある。勝ったり負けたり。勝てば万歳、負ければ残念。一晩ぐっすり眠ると気持ちや記憶はすっかり落ち着いた。そして5年生の今も自由にボールを蹴っているはずだった。
敗北への恐怖心。勝てるかな、負けたらどうしよう、負けるかも、負けたら終わりか、ミスるかも。今まで期待されること、褒められること、レギュラーポジションを獲得したこと、試合で活躍すること。どれもが嬉しかった。楽しくて仕方なかった。ますますサッカーが好きになった。だから広海が再び野球に没頭することはなかった。