バトル1~ファイナルファンタジーⅣ
【バトル1 ~ ファイナルファンタジーⅣ】
広海君がいればどんなチームが相手でも大丈夫だね―
何でサッカーを始めたのか、何がきっかけで『宮坂SC』というクラブチームに入ったのか、5年生になった広海には思い出せなかった。自分の意思でサッカーをやりたいといったのか、母親に言われて渋々か。野球に夢中だったはずだが、小学校1年生からずっとサッカーを続けていた。
当時、野球とサッカーを比較すると、サッカーは圧倒的にマイナースポーツだった。テレビ中継、視聴率という点で見れば月とすっぽんだったはずだ。だのにどうしてサッカーを選んだのだろうか。
1年、2年生の頃はどんな練習をしていたっけ。5年生の広海は最近、ふとそんなことを考えていた。基礎、基本を繰り返していたことは間違いないが、根本的な問題として、サッカーの練習として成立する程の技術などなかったはずだ。とにかくインサイドキック。寝ても覚めても地味な起訴。2人組に分かれてまずは短い距離でゴロのパスを交換。ただ正面に蹴るのではなく相手の右足、もしくは左足を狙いなさいと言われていた。続いては相方の膝下に下投げでボールを放る、インサイドのボレーキック。右足と左足を交互に繰り返した。その後は長い距離を取ってのインサイドパス。さすがに右足を狙え、左足を狙えとは言われなかったが、強く速くを常に意識させられた。
練習の半分くらいがインサイドキックの練習だったのではなかったか。まぁ、仕方あるまい。ミニゲームをやるぞと言ったって、1年生ではサッカーにならない。ただ走り回って、狙いもなくボールを蹴って時間が過ぎていくだけだ。
広海が宮坂SCで頭角を現し始めたのが3年生の頃。宮坂SCでは練習時間を1、2年生の部、3、4年の部、5、6年生の部に分けている。広海が3年生の時、さすがに4月からとはいかなかったが、2学期が始まると4年生に交じっても広海が練習の中心を担っていた。同級生は元より、1学年上の4年生でもほとんどの子が広海のプレーについていけなかった。パスひとつ、シュートひとつ、ドリブルひとつとっても広海が頭一つ抜きんでていた。広海より強いシュートが打てる、足が速いという子はいても総合力、サッカープレイヤーとしてみると広海の動きが際立っていた。そんな広海が4年生に進級したら、3、4年ブロックでまともに渡り合える子はいなかった。
具体的にコーチ陣が評価していた点は以下の通り。まずはドリブルの細かさ。1年生の頃からドリブル中、ボールが足から離れなかった。タッチが繊細だった。コーチからまず褒められたのがドリブルだった。ドリブルが得意でない子は大袈裟に言ってしまうと、蹴ったボールを追い駆ける形になる。結果、ディフェンスにボールを奪われやすいし、急な方向転換や任意のタイミングでのパスも難しくなる。対して広海のドリブルはボールと足に見えない紐でも付いているかのように、距離が離れなかった。
さらに特筆すべきはダイレクトパス。ドリブルの上手な小学生は見受けるが、ダイレクトパスに長けた子供はそうそういない。何故なら必要な要素がボール扱いだけではないからだ。自分にボールが回ってくる前に周囲の状況、敵味方の位置を把握して初めて可能なパス。もちろんパス自体の精度を上げることも難易度が高い。そもそも低学年でダイレクトプレーを意識できる子供も珍しいが、ダイレクトパスを正確に出すことができれば、ディフェンスとしてはこれほど取り辛いパスはない。そのダイレクトパスがどういう訳か広海は得意だった。