Love Song探して③
ドラゴンクエストⅡ。RPG。広海にはよく分からないゲーム。パスワードを入力した後のゲーム画面は必ず王様の城から始まって、お兄ちゃん達が操作するキャラクターが勇者らしい。敵を倒し、魔王をやっつけることが目的みたいだが、広海の知っているゲームの様にジャンプしたりビームを撃ったりはしない。モンスターとの戦いは真っ黒な画面に敵だけ現れて、あとは文字と数字だけが凄い速さで流れていった。ちなみに戦闘画面には勇者とその仲間は出てこなかった。効果音と画面の点滅で敵と味方の攻撃を表現し、文字と数字で詳細を補う。慣れてくれば必要な数字だけを読み取って効率良く情報を処理し、状況を把握できるのだが、広海には到底できないテクニックだった。
またレベルアップという概念も広海にははっきりしなかった。敵を倒して戦闘に勝利すると経験値とお金が手に入る。フィールドやダンジョンを探索していると敵とランダムエンカウント、戦闘を繰り返し、経験値が一定の値に達するとレベルアップ、と言われても園児の広海にはぴんと来ない。レベルアップでステータスが上昇するのだが、広海にはそのパワーアップが見えなかった。別に色が変わったりするのではなく、強くなったことが文字で流れていく。ヒットポイントが上がったり、力が上がったり、新しい呪文を覚えたりしてお兄ちゃん達は喜んでいたが、広海には実感が得られなかった。
また、お金を溜めて街で買い物をする。武器や防具を購入して装備すると勇者達がパワーアップ、攻撃力や防御力が上がって戦闘が楽になるのだが、ここでもやはり、広海は大ちゃん達と同じ熱量を持つことはできなかった。剣とか盾とか、斧とか鎧は大好きだ、カッコイイ。高価な装備品ほど高い効果をえられるという規則は理解できるのだが、見た目が変わる訳ではない。色も変わらないし、攻撃の時に音やエフェクトが凄くなることもない。園児にとっては視覚と聴覚の変化が伴わないと、なかなかパワーアップが認められない。戦闘時に与えるダメージが上がったり、受けるダメージが減っているのだが、前述したとおり広海に読み取ることはできなかった。気を遣って大ちゃんがちょくちょく解説してくれるのだが、ニコニコ頷くことで精一杯だった。
そんな広海でも直感的に理解できることがあった。このゲームの敵モンスターは、なんかずっとこっちを見ている。そしてこのゲームの音楽、好きだ。好き嫌いを説明するのは難しいし、他人に共感を求めるのは大変。大ちゃん達が音楽の話をすることはほとんどなかったが、ドラクエⅡの音楽は広海の心を不思議な模様に彩った。ゲーム開始直後、タイトル画面と共に流れる音楽は勇ましかったし、復活の呪文を打ち込む際の音楽はずっと訊いていたい、またフィールドを歩いている時の音楽は、どこか悲しげなメロディーだった。油断すると自然に体が揺れ始め、気が付くと鼻歌を奏でていた。そして、ここでも優しいお兄ちゃん達。誰もうるさいなんて言わない。邪魔者扱いしない。貧乏揺すりと鼻歌が自然に収まるのを待ってくれた。それとも、ただゲームに集中していただけだろうか。