パワーアップ~ツインビー、スターソルジャー
【パワーアップ ~ ツインビー、スターソルジャー ①】
無事に(笑)最上級生となった広海。そして彼はこの1年間、生涯で最もサッカーに没頭する期間を迎ええる。寝ても覚めてもサッカーのことばかりを考えることができていた。純粋に。6年生になった広海は宮坂SCの中心選手となり、チームを引っ張る存在に成長していた。サッカーを素直に楽しめた期間ということもできよう。ダイレクトパスの精度とドリブル突破、そして高い得点能力が魅力のエースと呼ばれる選手になっていた。
そんなエースの弟、4年生に進級した翔だが、こちらも凄い。広海ですらAチームに召集されたのは5年生になってからだったのだが、何と4年生になると同時にAチームに昇格を果たしてしまったのだ。本人は無理だよ~なんて言っていたが、コーチ陣の期待と広海の嘱望は小さくなかった。独りだけの4年生、上級生に混じってというのは間違いなく心細い環境に違いなかったが、面倒見の良い広海が常に近くにいることで積極的に伸び伸びとプレーする翔だった。
「行ってきまーす。」
大会や練習試合のない日曜日、翔と広海は決まって校庭開放に出かけた。もちろんサッカーボールを持って、靴はトレーニングシューズ。
「お昼には1度帰って来なさいよー。」
「は~い。」
母親の忠告に素直かつ元気よく返事はするものの、8割方帰って来ない2人。
「ちゃんと時計見ながら遊びなさいよー。」
「は~い。」
時計を見たって、あとどれくらい遊べるかの計算しかしない。10時に家を出て、校庭開放の終わる16時まで、お昼も食べずにずっと遊んでいる。そりゃ、サッカーも上手くなる。
いつからかが定かでないとき、いつの間にかという言葉を使うのだと広海は知った。そしていつの間にかには後悔か追憶が伴うということも。
まずはボールを怖がらなくなった。身体の接触を怖がらなくなった。ヘディングはまだ怖いみたいだが、それまではちょっとでも速い球が飛んでくれば腰が引けていた翔。そんなことではトラップもままならない。自分の足元にボールを収められなければパスも、ドリブルも、シュートもいい加減なものになってしまう。全てはトラップ、自分のボールにしてから始まるのに、それを怖がっていてはサッカーが上手くなることはない。それが今ではどうだろう。
小柄な翔。背の順は半分よりも前の方。体の接触が多いサッカーでは簡単に吹き飛ばされてしまい、シュートもどこか頼りなかった。それが今ではどうだろう。翔の利き腕勝負ではあったが、広海は腕相撲で勝てなくなってしまった。胸板と太ももとお尻が太い、とても筋肉質な身体の造りをしていた。
数日前のこと。
「広く~ん、友達からファミコンソフト借りてきたよ、2個も!」
「へぇ~、どれどれ・・・・・・」
満面の笑みで、バンザイをするように2つのファミコンソフトを掲げる翔。世はファミコンの次世代機、スーパーファミコンの時代なのだが。
「何を借りてきたんだ―お、シューティングか~。俺の苦手な奴じゃんか~。」
翔が借りてきたソフトは『ツインビー』と『スターソルジャー』。どちらも自機の戦闘機を操作して弾やらビームを撃ちながら敵を倒したり避けたりしてステージを進む。そして最後に待つボスを倒すとステージクリアとなる。両ソフト共に有名なシューティングゲームなので広海も名前は知っていたが、プレー経験はほとんどなかった。
シューティングをクリアするにはまず、スピード感に慣れることと反射神経が必要だ。絶え間なく湧いてくる敵を攻撃しながら敵の弾も回避しなくてはならない。もちろん壁面や障害物にぶつかっても1機消滅する。左の親指で常に自機を移動させ、右の親指はとにかく連打して弾を撃ち続けなくてはならない。何はなくとも集中力を要するジャンルだ。当然、ステージを進んでいくほどに上昇していく難易度。ある程度までステージをクリアすると、そこはもう瞬き厳禁の世界。一瞬目を切ることがミスに繋がる。これが広海はしんどかった。目は疲れるし、指は痛いし、敵と敵の撃つ弾で一杯の画面を逃げ回るというゲーム性がどうも苦手だった。
シューティングゲームが得意な同級生曰く、シューティングは反射神経でクリアするのではなくて覚えるゲーム。敵の出現ポイントや攻撃パターンを覚えて、ベストな自機のポジショニングを追求するゲームらしい。その飢え頭まで使うのか―ますますシューティングゲームの苦手意識が高まってしまう広海であった。
もう少しだけ、翔の借りてきたファミコンソフトについて。『ツインビー』も『スターソルジャー』もアイテムを取ることで自機がパワーアップする。スピードが速くなったりバリアがついたり、攻撃力が上がったりサブウェポンが装備されたり。容量の都合もありド派手にとはいかないが、パワーアップの際には見た目も変化する。RPGのレベルアップよりはよっぽど分かりやすいが。そしてもうひとつ、大きく変わるものがあった。




