表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

Love Song探して②

 公園で一頻(ひとしき)り野球をした後は、家でテレビゲームと決まっていた。お邪魔するお宅は、広海を1番可愛がってくれる松本 大輔、通称大(だい)ちゃんの家だ。この当時は当たり前の日常で何とも思わなかったが、帰る場所が皆同じというのは幸せだった。仲間というか友達というか、少し年の離れた下っ端でも何の不安もなかった。そして親としても心配が軽減されていたのではないだろうか。

 間取りが同じだから遠慮なく言えるが、大して広くない一室を6人、7人が強襲する。もう、ぎゅうぎゅうだ。だがしかし、この頃の少年達はこれが楽しくて苦にならない、摩訶不思議な生き物である。

 大ちゃんの両親は共働きで日中は誰もいない。大ちゃんはいわゆる鍵っ子という奴だ。大ちゃんが扉を開けると、まるで我が家の様にどかどかと玄関を上がってしまう。靴なんかもう脱ぎっぱなしの散らかりっ放し。果たして外で土を落としてきたかどうか、掃除をするひとの身にならなくてはいけないな、というのは無理な話か。お次は真面目に手洗いとうがいを済ませてテレビゲームと飲み物を準備する。ゲームの置いてあるゲーム部屋と台所へ別れるのだが、広海は用意ができるまでゲーム部屋の特等席、テレビの真正面に正座して待っていた。いつも1番にゲームを始めるのは広海なのだ。広海が待っている間一人のお兄ちゃんがゲームの準備。残りのお兄ちゃん達は飲み物を取りに冷蔵庫へ集合だ。ちゃんと広海の分も含めて、人数分のコップを裸で持ってくる組と、冷蔵庫からジュースを持ってくる組。再び全員がゲーム部屋で会した所で第二幕の開始となる。

 「かんぱ~い!」

何に向けるでもなく、ある種の儀式みたいにコップを鳴らすのがお決まりだった。ジュースはコーラかファンタ。どういう訳かいつも炭酸飲料しかない。そして炭酸がまだあまり得意ではない広海だったが、涙目になりながら一口、二口飲む。ちょっと大人に、お兄ちゃん達の仲間になれたみたいで気分は上々だった。そしてゲームのスイッチが入れられる。ここからが広海の仕事だった。

 ゲームソフトの名前は『ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々』。ドラゴンとⅡの意味は何となく理解できる広海だったが、クエストとか悪霊と言われてもピンと来ない。当然ドラゴンクエストが該当するロールプレイングゲーム(RPG)などというジャンルを知るはずもなかった。走って敵を踏んづけたり、ジェット機からミサイルを撃ったりするゲームの方が広海にも分かり易かったが、お兄ちゃん達は皆RPGが大好きだった。

 さて広海の仕事であるが、それはゲーム開始直後に始まる。この頃のゲームはバックアップ機能がほとんど搭載されておらず、要はセーブができない。再会するにはパスワードを入力しなければならなかった。ドラゴンクエストⅡ、通称ドラクエⅡでは『復活の呪文』と言ったかな。全く意味なく並べられた40文字前後のひらがなを1文字1文字入力していかなくてはならない。ゲームを中断する際に書き写すのも大変だが、再開時にパスワードを入力する作業がお兄ちゃん達にとっては面倒この上ないのだ。

 いつも通りノートの切れ端を受け取る広海。古いパスワードには大きくバツ印が書かれていて、最新の呪文だけが生き残っている。知らない人が見たらゴミと大差ないこのメモこそ、お兄ちゃん達が冒険を再開させる為の大切な鍵なのだ。これを、コントローラを使って入力するのだが、この時に流れる音楽が広海は大好きだった。十字キーとAボタンを必死に押しながらひらがなを入力するという単調作業、お兄ちゃん達からすれば手間で煩わしく、つまらない鍵を、広海は鼻歌混じりにノリノリで打ち込んでいく。そして無事にゲームが再開されると広海は御役御免。最前列からコップを持って、今度はお兄ちゃん達の後ろにつくのだった。最後列に座って、画面が勇者一行の冒険に切り替わってからも、しばらくの間は大好きな音楽の余韻に浸る広海。頭の中を心地良くBGMが流れてくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ