僕はゲーム音楽でできている
前書きに代えて、3編
【Love Song探して ~ ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々】
実家が引っ越すということで2年振りに東京に帰ってきた。忙しさにかまけて帰省せずにいたからこのマンションも久々だ。母親の話によれば、道路の拡張工事が区画整理の関係で区から立ち退きの依頼があり、取り壊すことになったとのこと。1度帰って来なさいとの指示に従った。
玄関で迎える母が記憶と全く変わらないことに一安心した霧島 広海。午前中に家に着いたのだが、相変わらずとてつもないスピードで家事をこなす母親を初めて凄いと感心すると共に、時間の経過が普段とは比べられない位に遅い。ちょっと出かけてくると言って散歩に出かけた。
普段は6階からエレベータで1回に下りるのだが、今日は何となく階段を選んだ。マンションを出て左に向く。歩いて1分とかからない所には公園があって、子供の頃は毎日の様に通っていた。小さな公園で、小学校低学年で卒業する場所だったが、砂場にブランコ、鉄棒にジャングルジム。思い出には事欠かない。そして、みんな引っ越してしまったが、同じマンションに住んでいたお兄ちゃん達。広海にテレビゲームを教えてくれた人達だ。
最近、天気予報の見方を覚えた広海。たまに外れたり、断りもなくいきなり変わっていたりもするが、週間予報というものも当てにしていいらしい、ということを知った。太陽のマークが続けば心が躍り、傘マークが現れるとせめて雲マークに変わることを願った。その理由はひとつ。外で、公園で遊べるか小津か。正確には遊んでもらえるかどうか。幼稚園の年長組である広海にとっては気象情報こそが唯一最大のニュースだった。それ以外の報道はちんぷんかんぷんだったが、気象予報士が出てきた途端、目の色変えて画面にかじりついた。概ね晴天が続く予報であれば1度見て納得する広海だったが、雨の日が続くと、やたらチャンネルを変えて別の天気予報を漁った。その内、「いい加減にしなさい」と母親に叱られるのだが、ちょっとでも晴れ間の見える週間予報で安心したいのだった。
マンションのすぐ近くにある山下公園。ちょっと前まではブランコが1番のお気に入りだった。いつも全力全開、どこまでも漕いでいた。どれだけ漕いでも恐怖心など微塵もなかった。さすがに飛び降りることはしなかったが、空を飛んでいるような気がして、本当に時間を忘れて揺れていた。
けれども広海の中に、自分はお兄ちゃんなんだという意識が芽生えた。ブランコに限らず、幼稚園に通園するようになってからはほとんど遊具で遊ばなくなった。逆上がりの練習で鉄棒は少し触ったが、すぐにできるようになったのでそれっきりだ。決して嫌いになったわけではないし、飽きたという感覚もなかった。卒業ということでいいのだろうか。もっと楽しく、刺激的な新しい遊びを知ってしまったのだ。そしたらもう、振り返らないのが子供だ。一直線に突き進んでしまうのが男の子だ。
同じマンションに住む子供達の中で、広海は年下の方だった。そして幸運なことに、大人になってから思い出すとちゃんとお礼を言っていたかしらと反省するくらいに、とても面倒見が良かった。彼等が小学校に上がってからも幼稚園児の広海を遊びに誘ってくれた。広海に同い年の友達がいなかったということではなくて、園内では同じクラスの子と仲良く遊んでいる。ただ、小学生以上の学生と違って、園児は友達の家で遊ぶ機会は少ない。幼稚園が終わって帰宅すれば、あとは家で過ごすことが多い。そんな広海を昔から仲間に入れてくれるのが大ちゃんをはじめとするお兄ちゃん達だった。だから広海の遊具卒業は早かった。そして開けても暮れても野球に熱中した。もちろん硬式、軟式球や金属バットを使うような本格的なそれではなく、使う道具はゴムボールとプラスチックバット。ベースは公園内の木やベンチ、遊具を代わりにする。大体いつも6~7人集まるのだが、ピッチャーひとり、キャッチャーひとり、バッターひとりであとはみんな守備。1アウトかヒットで順番にバッターを回していく。その中に広海も加えてもらっていた。
はじめは全く当たらなかった。運が良くてチップ。上投げだとどれだけ加減して投げてもらっても空振りばかりだった。全部ストライクなのに不思議なくらい当たらない。早い時は10秒くらいで1打席が終わってしまう。見かねたお兄ちゃん達が下投げに変えてくれた。すると面白いように当たり始めた。初めてクリーンヒットした時などその感触に驚いて掌をじっと見ていた、1塁に走るのも忘れて。ピッチャーの投げる位置を近付けて、ゆっくりな球を、正確に打ちやすい所に放ってもらっていることなど全く無視して、バットがボールに当たることが楽しくて仕様がなかった。バッターが待ち遠しくて仕方なかった。ランナーで塁に出ている時も、守備についている時も、次の打席のことしか頭になかった。あと何人で自分の順番が回ってくるか、ずっと数えていた。