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第百二十二話 懲りない男

作者: 山中幸盛

 山中幸盛はエイのレバ刺しと刺身を食べた後で胃腸が悲鳴を上げることを思い知ったが、その一方で、唐揚げと煮付けは普通に美味しく食べられた。やがて大量に冷凍してあったそれらを食べ尽くしたので、およそ一カ月ぶりにエイ狙いで出かけることにした。身近な堤防から手軽な装備で、これほど強烈にグイグイ引いてくれる魚は他にいないので、その点では、魅力といえば魅力なのだ。


 九月二十九日の火曜日は、午後三時頃から実績ある突堤の先端で竿を二本出したのだが、なぜか釣れなかった。暗くなる前に車ごと照明のある場所に移動したが、この場所もエサのイワシを投げたら三十分以内に必ず釣れた絶好ポイントなのに、これまたエイが釣れない。

 エイが食いつくのを待つかたわらアジングをやっていて、最長記録である十七センチのアジが一匹奇跡的に釣れたというのに、この日はエイ狙いなので感動が薄い。

「くそッ、そんな馬鹿な!」


 と、胸くそ悪いというか、納得できないので、翌三十日の水曜日もエイ狙いで出かけた。しかし、この日もエイどころか魚の気配がなく、他の釣り人の誰も釣り上げてはいなかった。アジングしている若者が話しかけてきた。

「あんまり釣れんもんで、M(漁港)とO(漁港)に行って来たけど、誰も何も釣れとらんもんで、また戻って来ましたわ」

「大潮だから潮は悪くないはずなのに、急に涼しくなったせいやろか」

「海水温は高いみたいスよ」

 原因、理由が何であろうと、二日間釣れなかったことで、幸盛の闘志に火がついた。


 というより、もうこうなると意地以外の何者でも無い。一日置いた十月二日の金曜日、この週三度目のエイ釣りに出かけたのだが、結果は、三度目の正直、ではなく、二度あることは三度ある、と出た。この日の夜も十時過ぎまで竿を出したのだが、完璧なボーズだった。

 エイ達は何らかの事情で漁港から出て行ったか、あるいは何らかの理由で餌に見向きもせず身を潜めているのか。こうなったらしばらく日にちを置いて、海の中の状況が好転し、魚達の食い気が立つのを待つしかない。


 それから五日後の十月七日の水曜日。雌伏の時を経て、早めに出発したので、午後一時半頃にT漁港の駐車場に到着した。運良く、第一候補の場所に先客がいないので、急いで釣り具とクーラーボックスを担いで突堤先端に向かう。

 二本の竿それぞれの針に餌の小イワシを刺してポイントに投げ込んでから約一時間後、ついに二㎏ほどの小振りなエイが一匹釣れたので、今日こそは十㎏越えのエイが釣れることを確信する。

 そしてついに、四時を過ぎた頃に大きなエイが食いついてきた。かなりの大物でジージーとリールのドラグ音を鳴らして道糸を引っぱって行くので、ドラグを限界まで締め、竿をポンピングしながら引き寄せてきて、五分間くらいかけてようやく足元で浮かせた。

 落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせ、紐に結んだLサイズのステンレス製ギャフ(エイ釣りのために六千余円で購入したもの)をするすると落として行き、そしてグイッと引いて尻尾の付け根のあたりに突き刺した。しかし重くて紐が手に食い込み痛くて持ち上げられないので、両手に軍手をはめて、ようやく引っ張り上げることができた。

 エイの尻尾には毒を出す鋭いトゲがあるので、まず、エイの体をひっくり返してトゲを堤防路面に押し付け、尻尾を靴で踏みつけて動かなくしてから尾の付け根辺りから金切ハサミで切り離す。尻尾を海に落とし、デジタル秤で重さを量ると約十・五㎏だった。

 持参した出刃包丁で腹を開いて肝臓を取り出し、次に両翼ヒレを胴の付け根辺りから切り落としてクーラーボックスに納め、その他の部分は海に返し、血抜きして血まみれになった堤防を洗い流してから家路に就いた。

 帰宅したのは夕方六時半頃だったので、リールと釣竿と水汲みバケツ等を水道水で洗ったりしてから、エイの下処理と調理に取りかかった。

 肝臓は氷水でよく洗い、キッチンペーパーにくるんで水分を取る。ヒレ部分のヌメリは包丁でなんどもこそぎ落とした。そしてとりあえず、今夜のビールのツマミとして、レバ刺しと刺身を大きめの皿ひと皿分こしらえる。

 脂肪分が多いレバ刺しは三切れ食べるだけにしたが、刺身はひと皿全部ペロリと平らげてしまった。

 ところが、寝る前になって胃もたれというか、ムカムカと胸焼けしてきたので慌ててキャベジンコーワ顆粒と正露丸を飲んだが、夜中に気持ち悪くなって目覚めて下痢便を排出したのみならず、何年かぶりに便器を抱えてゲーゲーと嘔吐した。こんな苦しい目に遭うのなら、しばらく食べるのをガマンしようじゃないか。



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