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微笑

 食事を食べ終えた僕らは会計を済ませファミレスを出た。正午を過ぎたばかりの平日に似つかわしくない制服の僕らは、どこか屋内に入ることを画策しなければならなかった。

「行き先を決めてから出ればよかった。」

 僕は自分で自分に言った。

「私も同じこと思ったよ、学校から出たとき。」

 鏡子さんは微笑む。

「鏡子さんは何かしたいこととか、ある?」

「いざデート、ってなると特に思いつかないね。やりたい事探しの旅に出ようか!」

 鏡子さんは学校から離れる方向を指差した。住んでる町だけど、まるで行ったことのない方向だ。

 僕らは当てもなく町を彷徨うことを選択した。並んで歩く彼女の横顔はやはり美しい。こうして並んで立つと彼女は思っていたより少し背が高い。僕よりは5センチほど背は低いが、背筋が良く、凛としている。彼女の歩行速度は僕のいつもの速度よりも速く、彼女に合わせようといつもよりも少し歩幅が大きくなる。歩き出して数分後、鏡子さんが立ち止まったらしく、視野から消えた。一歩先に出てしまったが立ち止まって振り返り鏡子さんの方を見る。

「あのですね。」

 鏡子さんは少しばかり言いづらそうに見えた。

「なんでしょう。」

 僕も彼女の真似をして首を傾げてみる。

「手、繋いでもいいでしょうか。」

 彼女は意を決したように手を出した。僕は小さな手を握った。

「鏡子さんのこと綺麗だなって思ってたんだけどさ。可愛いとこあるね。」

 鏡子さんは僕の手を握る。彼女の心臓の鼓動を感じる。ちょっと恥ずかしいから今顔は見れないけれど、触れている手から嬉しそうにしているのが伝わってくる。こんな風に人と手を繋いだのはいつ以来だろうか。不思議な幸福感を噛締め、僕らはしばらく無言で歩いた。また鏡子さんが立ち止まる。今度は繋いだ手でそれを察して振り返る。

「星。」

 彼女は僕の眼を見て言った。

「星?」

「プラネタリウム、行かない?」

 すごくデートっぽいイベントがやって来た。知識として知ってはいるが、観たことはないプラネタリウム。

「観たことないな、プラネタリウム。いいね、一緒に行こう。」

 僕が言うと鏡子さんは僕の手を引いて歩き出す。

「そしたらこっち!」

 彼女はこれまで見たどの表情よりも楽しそうに笑った。僕はもうそれ自体が嬉しいやら、楽しいやら。

 楽しそうな彼女に手を引かれてハイペースで歩いていると、街角のニュースの流れる電光掲示板に僕らの町の名前が流れたのがなんとなく目に留まった。どうも僕はそのニュースに反応して少し動きが鈍ったらしい。鏡子さんは振り返り、僕の顔を見た後、僕の視線を追って電光掲示板に辿り着いた。

「あ、また増えているね。」

 鏡子さんは僕に言う。僕らは立ち止まってそのニュースが流れていくのを見た。このニュースはこの町を覆っている不安の影だ。

 この町では失踪者が続出している。流れていたニュースではそれが八人に増えていた。最初の失踪者は二年ほど前に忽然と姿を消した。それぞれの失踪が関連付けられて語られるようになったのは一年ほど前だろうか。この町で失踪していた人物の内の一人が変死体で見つかったのだ。ニュースでは詳しく報じられていなかったが、小さな町であるが故に噂で聞いた、片方の脚がなかったそうだ。そのときになってこの町は妙に失踪者が多いということが認識された。一人が誰かに殺され亡くなっていたとなれば、もうマスコミが放って置かない。

 鏡子さんが僕の手をぎゅっと握った。彼女は特に何も言わなかったが、彼女の鼓動は先ほどよりも速くなっていた。失踪した者の中には女子高生も二人居た。今日また一人増えたらしい。怯えるのも無理はない。僕もただ彼女の手を握った。

「急に立ち止まってごめん。行こう、プラネタリウム。」

 不安そうにしていた鏡子さんは僕の方を見て微笑み、頷いた。

「うん、もう少しで着くよ。」

 彼女は美しい笑顔を僕に向けた。鏡子さんの演技がとっても上手いことを知らなければこれは判別がつかないだろう。幸か不幸か僕は先ほどそれを知った。心配をかけまいと、見せるための顔を作ってみせたのだろう。そういう風にしか思えなかった。


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