終幕
僕の母の死を最期にこの町から忽然と人がいなくなるのは聞かなくなった。真相を知る母の死で僕らも失踪の真実を知ることはなかった。話も聞かずに殺したのだ。当然の結末だ。小峰鏡子は逮捕された。僕の母の殺害、それと高田尚美の死体損壊で。あの日僕が見た腕は高田のものだった。そもそもはあの日まで鏡子の母方の叔父が一人暮らしの自宅で監禁していたらしい。彼女の叔父は未成年者を性的な対象にしてしまう人だったらしく、それが理由で鏡子と一緒に住んでいなかったのだという。その叔父がたまたま監禁していて、最終的に殺したということになっている。そもそも偶然なら鏡子が高田の手足を切り取るなんていう状況にはならないだろうから、実際は鏡子がけしかけたのだと僕は考えている。やはり彼女は妬いていたのだ。かわいらしいと思ってしまう僕もやはり脳みそがどこか焼き切れてしまっているのだろうが、彼女は本当に高田を許せなかったのだろう。
母の方はというと、僕が虐待を受けていたことになった。鏡子にあの後いろいろな方法でボコボコにしてもらってから、通報した。椅子とかローテーブルを投げられたりとか色々してもらった。鏡子はそのときが今まで見た中で一番激しく泣いていた。僕のことが大好きなんだというのはよくわかったが。暴力を振るう彼女が泣いてて、暴力を振るわれる僕が泣く彼女を見て大笑いしていたのはすごい状況だ。僕はうまいこと鏡子に半殺しにされていたため、僕らの考えたストーリーが機能して、虐待された恋人の姿に逆上した女の子ってことになり、彼女の生い立ちと持ち前の演技力で情状酌量が認められる予定だったが、高田の件で彼女の家にその腕が残ってたのがあわせて明るみに出てしまった。彼女は結局精神鑑定を受け、精神の疾患と認定され、責任能力がないことになった。結果的に僕は無駄に死にかけ、母に虐待の汚名を着せた。尤も、本来なら母はもっと謗られるべき殺人犯なのだが。猟奇的な失踪を伴う殺人事件は結局犯人はわからずじまいということで幕を閉じた。
その後、三年ほどで僕らは透明の板越しの再会を迎えた。
「西野君って本当に変な人。本気で持ってきたのそれ。私と結婚とか正気じゃないでしょ。」
「僕に言わせれば、僕と結婚も正気じゃない。またすぐ来るからそのときまでに自分のとこ書いて判子押しといて。お互い一人ぼっちじゃなくなる。どっちかが死ぬまで。」
こうして僕の恋の物語は人殺しと人生を共にするバットエンドを迎えた。