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角度

 小さなテーブルの席へ案内された僕らには向かい合って座る以外の選択肢はなく、今までに体験したことのない距離で小峰さんの顔を正面から見ることとなった。やはり彼女は美しく、神々しくすら感じた。僕はハンバーグセットを、小峰さんはサラダと野菜スティックとライスを注文した。

「小峰さん不思議な注文するね。ベジタリアン的なあれ?」

 店員がテーブルを離れたタイミングで尋ねた。

「西野君が見てる前でお肉もりもり食べるのはなんだか気が引けちゃって。」

 小峰さんはニコニコして答える。

「ライスは食べるんだね。」

「お米は主食だからね。主だからね。」

 僕からしてみると何の答えにもなっていなかった。そもそも僕の問いも何を聞きたいのかいまいちわからない。だけど何を聞いてもなんとなく不思議な答えが返ってくる。

「ところでさ、西野君は私のことってどう思ってるのかな。」

 僕はドキッとした。彼女はどうもフラットなテンションでとんでもない質問をぶちこみがちなところがあるようだ。

「好きだね。」

 僕もフラットに答える。妙に恥ずかしがったり誤魔化そうとするから変な空気になるのだと僕は知っている。僕にとっての一種の予防線でもあり、攻めの姿勢でもある。

「そう、それっていつ頃から?」

 彼女の質問は思いもしない角度から僕の予防線を掻い潜って攻めてくる。

「いつからだろう。」

 僕は自分に尋ねるようにして彼女の質問を反芻した。僕が彼女の事を見るようになったのは半年ほど前、入学式の翌日からだ。それからいつの間にか彼女に好意を持ち、今に至る。

「私も西野君のこと好き。私のこと見てくれるから。」

 彼女の会心の一撃で僕の思考は完全に停止させられた。おまけに混乱の状態異常までついてきた。彼女のことはずっと見てるが、僕は彼女の考えてることなんてこれっぽっちもわからない。確かにデートの誘いを受けたときにもしかしてと思いもしたが。こんな何の色気もなくあっさりと好きだと言われるとは想像だにしていなかった。僕が混乱しているのを察したのか、彼女はにこりと微笑み、少し首を右に傾け、黒い髪を揺らす。

「そう、今みたいに。こんな風に私の髪の毛の先まで捉えてくれる君の眼が素敵だなって。そう思うの。」

 彼女は僕に言う。僕はまだ混乱している。言葉が出ない。

「私、西野君が私のことをよく見ているの知っていたの。知っていて、君の眼にどうやって魅力的に映るかを考えていたの。私、西野君の見ている小峰鏡子を演じているの、西野君のために。」

「小峰さんは僕のこと変な人って言ったけど、小峰さんもかなりの変な人だね。」

 僕はやっとの思いでいつものような言葉を取り戻した。

「そうだね。変な人だよね。」

 小峰さんは一層笑顔になった。僕らの元にサラダが届いた。

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