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告白

 彼女の家は一軒家だ。

「家に入る前に少しだけお話をさせて。」

 僕を真剣な目で見て彼女は言う。僕は頷いた。

「私の親のこと。私の両親は死んだ。二年半くらい前。父が浮気してた母を殺して、自殺したの。無理心中。そのとき私、怪我はしたけど死ななかったの。形式的には親戚に引き取られたことになってるけれど、一人で暮らしてるの。……西野君、意外と驚かないね。」

 僕は彼女の話を黙って聴いていた。

「……実はご両親亡くなってるのは入学式の日に聞いて知ってたんだ。」

 そう、僕は知っていた。彼女に両親がいないことを。だから、僕は彼女の事を見ていた。 最初は何気なく母が指摘した言葉だ。近所の無理心中のニュースを見た母が、生き残った娘が僕と同い年だと言ったのだ。そのせいでやけに印象に残っていた。だから同じ苗字の彼女と一緒のクラスになったときに、もしやと思って同じ中学だった人に尋ねたのだ。やはり彼女が本人だった。そのことを母に話すと、母は僕にその子のことをよく見ておけといったのだ。自分より先に家族を亡くした先輩の振る舞いを見ておけと、もし何かに困っていそうなら助けてやれと。

「ははは、そっか、そうだったんだ。最初はそれで私のことを見ていたんだね。」

 彼女はとても悲しそうに笑った。

「それなら話が早いや。この家、ほとんどその時のままになっているんだ。血の痕は消そうとしても全然消えてくれないし、色々直したりするにはお金がかかるからさ。母親が好き勝手男連れ込んで、父親がその母親を殺して、寝ている間に私は刺されて、父親が自殺した家。私の家ここしかないから、ここに住んでいるの。家に入る前に伝えたかった。」

 彼女の境遇はわかっていた。彼女の覚悟も伝わった。僕が覚悟を決める番だ。その結果何を見る事になっても。僕は彼女の手を握った。

「おうちデートなんて鏡子さん案外肉食系だね。」

 僕はおどける。

「ははは、私だって、お肉も食べるよ。狼になっちゃうよ。がおー。」

 やっと彼女に笑顔が戻った。その上かわいい狼にもなった。この笑顔の為なら腹を括るくらい何のことはない。

「じゃあ、入ろうか。」

 僕は力強く頷いた。

「お邪魔します。」

 おそらく、初めて女の子の家に入る時のそれとは違った緊張感だろう。玄関は何の変哲もない普通の家だ。そこに違和感があるとすれば何もなさ過ぎること。彼女は無言で靴を脱ぎ、僕を待った。僕も靴を脱ぎ、揃える。彼女の後をついて短い廊下を歩く。僕の歩行に合わせて何度か床板が軋んだ。リビングに通された。自分の家と少し構造が似ていて、キッチンにカウンターがあり、リビングに直接つながっている。ここも不思議なほどに何事もない。僕の家と違うところは低いソファがあること。僕のよりもお洒落なガラスのローテーブルがあること。その下に彼女の軽いリュックサックが無造作に置かれていて、折角のお洒落さも台無しだ。ダイニングテーブルに椅子が二脚しかないことも違いといえば違いだ。

「私、料理する。手料理食べてもらいたいし。私のこと気になるなら他の部屋も好きに見てきてもいいよ。私の箪笥を漁ったりとかしないでね。」

 彼女は笑顔で言ったが少し震えているのがわかった。彼女は僕に他の部屋を見て来いと言っているようだ。この家の部屋を覗くのは、彼女の心を覗くのにきっと似ている。既に覚悟は出来ている。

「次に僕がこの部屋に戻ってくるときは、鏡子さんのパンツかぶって来るよ。」

 彼女の悪ふざけにさらに悪ふざけで返すそれが出来てこそ僕だ。

「ははは、私の部屋は二階の奥の方の部屋だよ、ここから一番遠い部屋だよ。パンツかぶって階段から落ちて救急車呼ぶようなことにはならないようにね。」

 一番遠いなんてわざわざ言うのは最後に行けって事なのだろう、僕は彼女に笑顔を向け、美しい彼女を目に焼き付けた。

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