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想定

「結局日曜にデート行くことになった。」

 その夜、僕は携帯電話にそう告げた。家に母がいなかったから、どうしても彼女に電話で言いたくなった。電話はあまり好きではなかったが、メッセージのみの返信で済ませたくなかった。

「ははは、西野君は恋人にキスはしないけど、恋人にそういう連絡はちゃんとするんだね。面白いね。」

 彼女はいつものように笑っていた。

「僕は小心者だからね。将来はきっと恐妻家になるんだろうって思うよ。」

 僕もいつもどおり振舞えるよう努めた。僕らは他愛のないおしゃべりをする。彼女はいつものように笑い、僕もいつものようにふざける。この時間が楽しいのだ。楽しい時間はそれほど長くは続かない。唐突に通話が切れた。

「また、圏外。」

 誰も聞いていないのに呟いた。この家は電波が悪い。時々圏外になる。こうなるとしばらく圏外のため、電話をかけ直すことも出来ない。やはり電話は好きじゃない。毎回虚しくなる。悲しくなる。

 こういう時はご飯を食べて気持ちを立て直すことにしている。冷蔵庫の中身を確認することにした。母は料理好きで、帰りが遅くなることが予測できる日は予め作って冷蔵庫に入れてあるのだ。冷蔵庫の中にはラップのかかったハンバーグがあった。僕はそれを電子レンジにかけて温める。電子レンジの明かりをぼうっと眺めながら考える。

 デートの誘いを受けるということは、もしかすると高田尚美は僕に好意を持っているのかもしれない。そうだとするとこれは非常に困ったことになる。仮に高田に告白されてそれを断るとする。どう上手く断っても若干は気まずい関係になるだろう。授業中、小峰鏡子と僕の間にはいつも彼女がいる。時々目が合って変な空気になること請け合いだ。そもそもこんな僕の何がそんなにいいのか。これは鏡子さんにも言えることだ。

 そんなことを考えているうちに電子レンジは止まった。茶碗によそったご飯と十分に温まったハンバーグの皿を持ってリビングのローテーブルに移った。一つしかない座布団に座り、手を合わせる。

「いただきます。」

 誰もいないリビングにむなしく響く。このローテーブルはほとんど僕だけしか使わない。しかもほとんど一人でご飯を食べるときだけ。四人掛けのダイニングテーブルもあるのだが、僕一人の食卓としては大きすぎて落ち着かないのだ。僕は箸で小さく切ったハンバーグを口に運ぶ。やはり母の作るハンバーグはおいしい。ハンバーグは僕の好物だ。手間がかからないからと母もよく作ってくれる。食べていると幸せな気持ちになってくる。家族というのはいいものだ。僕は母に救われている。

 二年前、父は急に失踪した。現時点では、この町の事件の最初の失踪者だとされている。最初に一人目の変死体が発見され、後に父は白骨死体で見つかった。ちょうど高校に入学する少し前、今年の三月の出来事だ。両親は本当に仲がよかった。おそらく一番辛かったのは母だ。でも母は気丈だった。どっかで女つくってるんだと思っていたと笑い飛ばした。母のそんな強い姿を見て僕は救われてきた。だから僕も可哀想だと思われたくなくて隠してきた。同じ苗字の被害者が父だとはこれまで誰にも言わなかった。

 完食した僕は食器を洗い、歯を磨き、二階の自分の部屋に籠った。ちょうど部屋に着いたときに携帯電話が鳴った。鏡子さんからのメッセージかと期待して携帯を見ると、メッセージの通知は高田からだった。


「西野まだ起きてる?」


 どうやら携帯の通信は戻ったようだ。でも時間も割と遅い。やり取りをするのを少し面倒に感じた僕は既読をつけずにご飯を食べた幸せな気持ちのまま寝た。

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