表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/19

月明りの下


「おいどうなってんだ!? 消えたぞ!?」


「穴の中にもいねぇ! ホントに消えちまった!」


「意味が分からねぇ……」


 虫がひしめく穴の中に奴隷の少女を投げ入れたはずが、穴の中に少女の姿はなかった。

 ……いや、違う。

 たしかに冒険者たちは見たのだ、目の前で少女が忽然と姿を消すのを。


「どうするよ……? なにか嫌な予感がする」


「とりあえず、町に帰ろう」


「チクショウッ! 高ぇ金払って買ったってのに!」


 地面に手をついて穴の中を覗き込んでいた冒険者たちは、町に戻ろうと立ち上がった。


―――が、


 ドサッ!


 冒険者たちは立った瞬間に後ろに倒れ、尻もちをついた。

 とっさに手を地面につけて体を支えようとしたが、うまく力が入らず上半身ごと倒れてしまった。


 寝転んだ3人の冒険者たちは、互いに顔を合わせて笑いあった。


「なんでコケてんだよ、お前w」


「そういうお前もなw」


「なんか後ろから服を引っ張られなかったか?」


 冒険者たちは、笑いながら立ち上がろうとするが、手と足に力が入らない。

 不思議に思って手を見ると、


 手首から上が無くなっていた。


「な、なんだよこれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 すぐに足も確認みると、


 足首から下も無くなっていた。


 体の一部が無くなっていることに気づき、急激に痛覚が敏感になる。


「痛ぇえぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇッ!」


「おぉ、さすがは勇者の剣ですね、切れ味が違います。 手首と足首の腱を切って動けないようにするはずが、勢い余って切り落としてしまいました」


「だ、誰だお前はッ!?」


「僕ですか? 僕は『死神』です、あなたたちを殺しに来ました」


 僕は勇者から奪った剣を眺めながら言った。


 昔使っていた錆びた短剣とはえらい違いだ。 

 出来るだけ苦しんで死んでほしかったから、腱を切るだけで済ませたかったが……これじゃ流血のせいですぐに死んじゃいますね。

 ぬかりました……。


「なんでこんなことするんだよ!?」


 冒険者3人は、痛みに耐えながらこちらに顔を向けた。


「なんでって、殺しに来たってさっき言ったばかりじゃないですか……そういうことが聞きたいんじゃなさそうですね。 あえて言うなら、自分たちが殺される理由が分からないからです」


「な、なにを言って―――」


「じっくり楽しみたいところなのですが、早く帰ると約束しましたからね。 さっそく死んでもらいましょう」


「クッ……ヒール!」


 魔法使いが回復魔法を唱えたが、僕のスキル<死の不可逆性>を発動しているので


「な、なんで回復しないんだよ!?」


「それ勇者パーティーの魔法使いを殺ったときに聞いたんでもういいです」


 グリッ―――


 僕は、魔法使いの喉を思いっきり踏んだ。

 鈍い音を立てて喉が潰れた。


「ッ……ぁ……」


「これで魔法は使えませんね、せっかくですのであなたから逝きましょう」


 僕は、魔法使いの腹を蹴って穴に落とした。

 声をあげれない魔法使いは静かに穴の中に落ちていき、うねうねと蠢く虫たちに飲み込まれていった。


 残った2人も、恐怖で声を出せないでいた。


「次はだれが逝きますか?」


「ヒッ……こ、コイツが次だ!」


「な、何言ってんだお前!」


 剣士が隣にいる仲間を顎で指した。

 さすがはクソ冒険者、簡単に仲間を売る。


「じゃあ、あなたで」


 剣士を穴の中に落とした。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ゴボフッゴボッッ!」


 何匹ものデカい虫たちが、剣士の口から体内に侵入する。

 剣士は白目をむきながら涙を流している。

 なかなか壮絶な光景だ。

 

「じゃあ、最後は――――」


「ま、待ってくれ! お願いだからたすけ―――」


「あ、急いでるんでごめんなさい」


 僕は最後の1人を穴の中に蹴りいれた。


「さて、少女のところに帰りますか」


―――僕は瞬間移動で少女の元へと向かった。







「すみません、ちょっと時間がかかっちゃいました」


 僕は少女の目の前に瞬間移動し、頭を撫でた。

 少女は涙を目に浮かべながら、祈るように待っていたが僕が頭をなでてやると、


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」


 僕に勢いよく抱きついた。


「ボフッ!」


 勢いが強すぎて、僕は少女を抱きかかえながら後ろに倒れた。


「もう離れませんよ、思う存分泣いていいですからね」


 まだ小さい10歳の少女が、ある日突然『奴隷』になって家畜以下の扱いを受ける。

 今までずっと、少女は耐えがたい恐怖と絶望を一人で背負ってきたのだ。

 

 少女は僕の胸の中で、気持ちを抑えることなく大きな声で泣いた。 


 冒険者たちを殺すためとはいえ、僕はこの少女を少しの間1人にしてしまった。

 せめて、少女の気が済むまで泣かせてあげたい。


 少女は1時間ほど泣いたあと、スヤスヤと寝てしまった。

 表情はとても穏やかだ、安心して眠気が急に襲ったのだろう。


 太陽が沈み始めて、空が赤く染まってきた。

 そろそろ町に戻った方がいいが……このまま寝かせてあげよう。





「んっ……」


 少女は薄く目を開け、辺りを見渡した。

 周りはすっかり暗くなっていた。

 月と星々の優しい光がきらめいている。


「目を覚ましましたか?」


「……あっ……ごめんなさい」


 少女は僕の顔をボーっと見つめていたが、すぐに目を下に向け顔を赤くした。

 

「アハハ、気にしないでください」


「その……助けてくれてありがとうございます。 ……な、名前を聞いてもいいですか?」


「どういたしまして、僕はカルマです。 あなたの名前は?」


「わたしは……エミリアです」


「エミリア……いい名前ですね」


 少女は嬉しそうにほほ笑み、僕に抱きついた。

 町に戻らなくちゃいけないけど……まぁ、いいか。


 僕はもう少し、少女と2人きりの時間を楽しむことにした。


   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ 1ポチ、協力お願いします。 ▼
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ