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守るべきもの


「お嬢ちゃん、目隠しを取ってあげるねぇ」


 3人の冒険者のうちの剣士が、少女の目隠しを取った。


 少女は怯えた表情であたりを見渡す。


 町からかなり離れた森の中、まだ日が昇っているはずなのに木々が生い茂っているせいで薄暗い。

 少女の前には、深い穴が開いていて底の方で何かがうごめいていた。


「よく見てごらん、下に何かいるだろ?」


 魔法使いが少女の肩に手を添え、薄気味悪い笑みを浮かべながら穴の中を覗くように言った。

 

 少女は縛られた手を地面に付け、穴の中を覗き込んだ。


「ぅ、ゔぅぅぅっ!」


 布で口を塞がれていて、うまく叫ぶことが出来ない。


 穴の奥底では、大人の腕ほどの太さの茶色い幼虫が何百匹と這いずり回っていた。

 数が多すぎて底の地面が見えない。


「あれはね、コープス・ワームっていうモンスターで、地面に大きな穴を掘って獲物が落ちてくるのをずっと待っているんだ。 獲物がやってくるとあいつらは穴という穴から体内に侵入して体の中からゆっくり食していく……獲物は1時間ほど体の中を蝕まれる激痛を味わい絶命する。 その死体の皮を破って姿を現すことから、コープス(死体)・ワーム(蠕虫)っていう名前が付いたのさ」


「ゔぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」


 少女は逃げようと必死に体を動かすが、魔法使いの男に地面に押さえつけられた。


「おい! 暴れるんじゃねぇ!」


「やっぱり口を縛ってる布取らねぇか? 俺は命乞いや悲鳴をしっかり聞きたいんだ」


「さっき俺がじゃんけんで勝ったから、今日は俺のやりたいようにやらせてもらう。 自由に叫ぶことも出来ずに虫たちに食べられる少女……やっぱりこれだろ?」


「ホントにお前の発想ヤバいよな。 じゃんけんに負けたから結局、犯せなかったし……もったいねぇ」


「だから汚されたことのない少女が―――」


「お前の性癖は十分わかったって、次はぜったいヤるからな」


「おい、そろそろ始めようぜ」


 2人で両腕を掴み、もう1人が足を掴んだ。

 穴に放り込もうと、少女の体を宙に浮かせた。


「ゔぅぅぅぅっ! ゔぅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅぅッ!」


「だから暴れるなって言ってんだろ!」


「せーのでいくぞ! ……せーのっ!」


「ゔぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッ!」


 冒険者たちの手が離れ、少女の体が宙を舞う。

 穴の底に蠢くコープス・ワームが少女が落ちてくるのを今か今かと待っている。 


 少女は目をつぶった。



――――「もう大丈夫ですよ」



 優しい少年の声がした。


 少女はその声の主を確かめるように目を開けた。








 暖かい太陽の光が美しく照り輝いている。

 少女の周りには、黄色い花が辺り一面に咲いていた。

 そこにはもう、薄暗い森も、何百匹と蠢く虫たちも、狂気に満ちた笑みを浮かべる冒険者たちもいなかった。

 

―――少女は花畑の真ん中にいた。


「いま、縄をほどいてあげますからね」


 僕が、冒険者たちが少女を投げた瞬間に、少女を受け止めスキルを使って瞬間移動したのだ。

 

 抱きかかえていた少女を地面にゆっくり下ろし、縛っていた縄と、口を封じていた布をほどいた。

 少女は何が何だか分からないといった表情をしていたが、突然、僕に抱きついて思い切り泣き出した。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


「ぼふっ!」


 お腹にきれいな頭突きが入る。

 僕は何とか踏みとどまり、少女を抱きしめた。


「よしよし、もう大丈夫ですよ」


 しがみついて泣いている少女の頭を撫でる。

 少女の僕を抱きしめる力が強くなった。


 もう安心していいですよ。

 あなたを苦しめる者はここにはいません。

 あの冒険者たちもちゃんと消します。


―――でも、そのためには


 僕は少女を優しく離し、顔を見ながら言った。


「僕にはやらなくちゃいけないことがあるんです。 すぐに戻ってくるのでちょっとだけ待っててもらえますか?」 


 両手を少女の顔に当て、親指で涙をぬぐってあげる。


「うぅぅぅ……いやだ、はなれたくない……」


「必ず戻ってきます」


「うぅぅ……うぅぅぅぅ」


「戻ってきたら、また僕の胸の中で泣いていいですから」


「うぅ……すぐに……戻ってきて」


「了解しました!」


 少女の頭を撫でたあと、僕は瞬間移動であの場所に戻った。


――――楽に死ねると思うなよ、クソ野郎ども  

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