『奴隷』という職業
「ハハハハハ、今日はどのクエストにする?」
「せっかく、か弱い女の子の奴隷が手に入ったんだ、ゴブリンなんてどうだ?」
「もうゴブリンは飽きたわ、コープス・ワームなんてどうよ。 デカい芋虫の大群に放り投げて少しずつ蝕ませるんだ」
「その前にコイツの初めては俺が貰っていいか? 芋虫にくれてやるには勿体ない」
「バッカお前! 穢れを知らない女の子が気持ち悪い虫たちに襲われるのがいいんじゃねぇか!」
「ブハハハハハッ、いつもながらお前の性癖ホントヤバいよなw」
3人の冒険者は、心底楽しそうに少女をどうしようか話し合っていた。
吐き気がするほどの会話だが、ギルドの中にいる人々は誰も気に留めやしない。
……これが日常だからである。
この国の子供たちは10歳になると、教会に行って職業カードを貰い、ステータス更新をする決まりになっている。
商人、農民、冒険者、役人、聖職者……。
更新をすると、色々な職業の中の1つを割り当てられることになるが、1つだけ誰もが絶対になりたくない職業があった。
―――それは、『奴隷』だ。
『奴隷』になってしまった者は、強制的に町の奴隷市場に出品され、自分を買った人間に一生を捧げなければならなくなる。
大商人や貴族の生まれでも、『奴隷』になってしまったらもうどうしようもない。
親に自分を買ってもらうか、特別なアイテムで職業を書き換えるしか、地獄から逃げ出す手段はないのだ。
地獄から逃げ出すことのできる奴隷はごくわずか。
大半が、散々もてあそばれ暴力を加えられた挙句、裏路地に捨てられたり、モンスターの餌にされる。
どうやらこの少女は、つい先ほど奴隷市で冒険者たちに買われ、その足でギルドに連れてこられたようだ。
細い腕に縄を縛り付けられ、まるで家畜のように引っ張られながら連れてこられた少女は、目と口を布で塞がれていた。
冒険者たちの会話に身を震わせ咽びながら、目隠しの布を涙で濡らしている。
そんな女の子を目の当たりにしても、人々は何事もないかのように日常を送っていられるのだ。
なぜなら、それが彼らの日常なのだから。
誰もがそれを当たり前のこととして受け入れる。
―――果たしてこいつらに生きる資格はあるのだろうか?
……本当に人間は愚かで卑しい生き物ですね。
「カルマ様、上級冒険者向けのクエストを持ってきましたよ」
受付嬢が、カウンターの奥から紙の束を持って戻ってきた。
「すみません、ちょっと仕事ができてしまったのでクエストの件はなかったことにしてもらえますか?」
「はぁ……わかりました」
僕は、ギルドをあとにした。
ギルドの建物内では、スキル<死神の黒衣>で透明化できない。
人が多すぎる。
僕の冒険を邪魔しただけでなく、わざわざ裏路地まで行って不可視化させられたんだ。
この代償は、あの冒険者たちに払ってもらおう。
……苦しみながら死ね。
―――この僕が……『死神』が腐りきった世の中を変えてやるんだ。