どうせなら殺る前に有効活用しよう!
「え? ……あぁぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁぁ!」
仲間が簡単に死んでいく様をただ茫然と眺めていた女魔法使い。
いきなり眼前に現れた僕におどろき、まぬけな声をあげたがすぐに腹部の激痛に気づき、心地よい叫び声をあげながら倒れる。
刺されたところを手で押さえているが、白いローブが赤く染まっていくのは止まらない。
「ほら、回復魔法を使うんです。 早くしないと死んじゃいますよ」
僕は回復魔法を使うように、急き立てる。
あぁ……楽しみですね。
「あ……あ……は、ハイヒール」
女魔法使いは、苦しそうに呪文を唱える。
傷口を押さえていた手に青い光がまとう、彼女は上位回復魔法のハイヒールを使った。
ほとんどの魔法使いはヒールしか使うことが出来ないが、さすがは勇者パーティーの魔法使いとでも言おうか、彼女は致死的な傷も癒すことが出来るハイヒールを使うことが出来る。
―――――が、
「き、傷が治らない……なんで?」
魔法は発動しているのに、傷がまったく治らない。
「ハイヒール……ハイヒール、ハイヒール!」
涙を浮かべながら何度も呪文を唱える女魔法使い。
しかし、何も起こらない。
ただただ傷口から血が流れ出るだけ。
僕のスキル、<死の不可逆性>が発動しているからだ。
半径1キロ以内で発動する、あらゆる回復魔法の効果を無効化するスキル。
「傷が治らない? そんなの当然じゃないですか。 『死神』の目の前で死から逃れようなんてバカな考えは捨てた方がいいですよ」
「……た、助けてください……許してください、何でもしますからぁ」
女魔法使いは何をしても無駄だと悟ったのか、涙と鼻水、そして血で汚れた顔を僕に向け命乞いをしてきた。
「……はい?」
この世には2種類の人間が存在する。
命乞いをされて萎える人間と、もっと苦しめたくなる人間。
――――もちろん僕は後者です。
そんな顔で命乞いなんてされたら……ぼく。
勇者を先に殺しちゃって実のところテンション下がっていたんですが、なんか殺る気が出てきました!
そういえば、魔法使いさんは女性でしたね。
服を脱がして何度も殴った後に、そこら辺にいる男たちに自由に使わせてあげるのもなかなか面白そうですが……。
あっ……あの噂を確かめるのもいいかも。
「死にたくないんですか?」
「……はい、お願いします! 殺さないでください……!」
「ん~~~~、分かりました! 実は僕、前々から調べたかったことがあるんですよ。 それを調べるお手伝いをしてくれるなら助けてあげなくもないですよ?」
「手伝います! ですから命だけは!」
命だけ……ね。
「交渉成立です! もう回復魔法使えますよ」
女魔法使いは急いで回復魔法を唱えた。
今度はちゃんと、傷が治る。
「じゃあ、これを目に巻いて見えないようにしてください。 これからある場所に連れていくんで、そこに着くまで外さないでくださいね?」
僕は、自分の粗末な服を破いてそれを魔法使いに渡した。
彼女はそれをすぐに受け取り、目に巻き付ける。
すでに、心は屈服しているようだが念のため忠告した。
「いちおう言っておきますが、怪しい動きをしたら勇者さんみたいに一瞬で殺しますからね」
「そ、そんなことしません! だから殺さないでください!」
「安心してください、殺しませんよ。 じゃあ、腕を引っ張って連れていきますね」
僕は魔法使いを引き連れ、町を出た。
途中、大通りや門を通らなければいけなかったが、スキル<死神の黒衣>を使って姿を消していたので町の人にも、門番の人にも姿を見られることはなかった。
――――そして、僕たちはゴブリンの住む洞窟に着いた。