あっさりと2人を殺ってしまう
とりあえず酒場に着いたが、勇者たちはまだワイワイと酒を飲んでいる。
今すぐにでも殺してやりたい気分だが、アイツらの死に傍観者は必要ない。
まぁ、時間はたっぷりあるんだ。
――――静かにその時を待つのもいいだろう
僕は、酒場の壁に寄りかかった。
いけないいけない、口角が自然とゆるんでしまう。
1時間後、勇者たちは酒場を後にし宿へと向かった。
……僕は馬小屋なのに。
そういえばあの宿屋の店主、勇者たちに蹴られてうずくまっている僕を笑いながら見てたっけ?
ついでに殺っておこう。
僕は勇者たちの後をつけ、人気がなくなるのを待つ。
しばらくすると、彼らは大通りを抜け、狭い裏路地へ入っていった。
僕はスキル<死神の瞬歩>を使い、彼らの前に姿を現した。
「こんばんは、こんな夜遅くまで酒盛りですか?」
「お、お前いつから……俺たちはお前と違って金を持て余してんだ、別に文句なんてねぇだろ。 調子こいてんじゃねぇ!」
「町の中でも特訓したいのか?w」
「今日はごめんなさいね、回復魔法が間に合わなくて片目を治せてあげれなくてw」
彼らは突然現れた僕に一瞬だけおどろいたが、すぐにいつもの調子に戻った。
つい先ほどまでだったら怒りが込み上げてきたんだろうけど、今ならすべて許せる気がした。
やっぱり、彼らはこうでなくちゃ。
ちなみに、僕はパーティーで稼いだ金の1パーセントも貰っていなかった。
『俺たちはお前と違って金を持て余してんだ』……か。
「それもそうですね……実は皆さんにお別れを言いに来たんです」
「は? 何言ってんだお前、俺たちから逃げたら殺すって言ってるだろ?」
「……もうダメだ、我慢できない」
「は? ……え?」
僕はもう一度スキルを使い、斧使いの男の前に瞬間移動して、短剣で頸動脈を掻っ切った。
思っていたよりも血が噴き出し、僕の顔が血で染まってしまう。
斧使いは驚愕の表情を浮かべながら、その場に倒れ込み、少しの間痙攣したあと動かなくなった。
あ~~、ついつい先走っちゃって血まみれになっちゃった。
昼間に洗濯したばかりなのに。
よし、今度からは背後に瞬間移動して後ろから殺るようにしよう!
「え、ちょっ……なんで?」
かろうじて魔法使いの女が小さな声で呟いた。
勇者は驚きすぎて、声も出せないでいる。
情けない勇者さんですね……。
「簡単な話ですよ……『死』は突然やってくるものなんです」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
勇者は腰に帯びていた剣を引き抜き、僕に切りかかってきた。
技も何もあったものではない、ただただ剣を振り舞わすだけ。
僕はスキル<幻影化>を使っているので、勇者の攻撃はすべて体をすり抜けた。
「なんでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
勇者は化け物でも見るかのような目で、泣きながら剣を振り回す。
だ、ダメだ……笑いを堪えるんだ僕!
勇者さんはいま、必死に剣を振り回しているんだ。
頑張っている人を笑うなんてヒドイこと、僕には出来ない!
「プッ……か、簡単な話ですよ……『死神』は死を運ぶものであって、自分が死ぬことはないんです」
「な、何言ってんだお前!?」
「うっとおしいんで……ほい」
僕は短剣で、剣を持った勇者の指を切り落そうとした。
しかし、勇者は間一髪のところで避け、少しの切り傷で難を逃れた。
気が動転していても、勇者は勇者。
長年の経験が彼の体を無意識に動かしたのだ。
勇者は後ろに跳び退き……逃げ出した。
「何なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
血だまりに倒れている死んだ斧使いと、放心状態の女魔法使いを置き去りにして、奇声を発しながら大通りの方へ逃げようとする勇者。
仲間をおいて逃げるなんて……もういいです。
―――――ドサッ。
勇者は倒れた。
ピクリともしない。
僕がスキル<死神の誘い>を使って彼の魂を奪ったからだ。
少しでも怪我を負わせれば、あとはスキル1つで瞬殺だ。
3人いた勇者パーティーは……数分のうちに1人になってしまった。
勇者を最後にしようと思っていたが仕方がない。
女魔法使いは恐怖のあまり失禁していた。
ビチャビチャと小水が滴っている。
「さてと……
最後の1人になりましたね」
僕は女魔法使いの眼前に瞬間移動し、腹に短剣を突き立てた。




