教皇との面会
王都の大聖堂で、教皇は静かに玉座に座っていた。
周りには誰もいない。
教皇は1人でいた。
法衣に身を包み、頭に玉冠をのせた年老いた老人。
長い白いひげを伸ばし、深いしわを刻んだ顔は威厳を称えている。
教皇はどこを見つめるわけでもなく、ただただじっと時を待っていた。
―――そして、
「来たか、死神よ」
謁見の間にとつぜん現れた少年と少女。
教皇は僕たちが来ることを分かっていたかのように、落ち着いた声で話した。
「こんばんわ、今日の月は美しいですよ。 こんな辛気臭い場所に閉じこもっていないで一緒に墓場なんかに行きませんか? 死神の僕が連れて行ってあげます」
「そうか、今日の月は美しいのか。 死神を死の世界に還すには良い夜だな」
教皇は天井を見上げ、楽しそうにつぶやいた。
「なんでマルクにエルザを襲わせたんです?」
「狂気に満ちた正義感を持ったお前を、ここにおびき寄せるためだ」
そして、僕たちの方にもう一度顔を向け、ゆっくりと話し出した。
「人間は愚かな生き物だ。 神が告げられた正しい道を指し示しても、必ず道から外れ堕落していく。 わたしは考えた、どうすれば人間たちを導くことができるのか。 そして、わたしは気づいたのだ。 人間は必ず道を外れるものだと。 だがそれが分かったとしても、わたしは神から言われたとおりに人々を救わねばならなかった。 ……だからわたしは堕落する道も指し示すことにした。 どんなに道を外れても、最後には神の望む世界にたどり着くように」
「何を言っているんです?」
教皇は僕の質問を聞くと、エミリアを指さした。
エミリアはすぐに僕の後ろに隠れ、僕の肩から顔を覗かせた。
「そんなに怯えないでくれ、奴隷の少女よ。 例えばだ。 死神、お前は不思議に思わなかったか? なぜ奴隷なんていう職業があるのか? 神がそんな職業をお創りになると思うか?」
「そんな神なら僕が殺します」
「そうだ、神がそんなものをお創りになるはずがない……創ったのは私だ。 人間は誰かを傷つけ、虐げ、嘲笑わずにはいられない、自分よりも下の人間がいないと気が済まない。 だからわたしは奴隷という職業を創ったのだ」
「意味の分からない超絶理論ありがとうございます。 とりあえず、逝ってください」
僕は剣を抜いて、ゆっくりと教皇のもとへと近づいた。
教皇は不敵に笑い、
「死ぬのはお前だ、死神。 正義の名のもと死を振りまく偽善者め」
低い声で言った。
同時に、柱の陰から8人の魔法使いが現れた。
魔法使いが詠唱を始める。
「剣戟でも、魔法でも僕を殺すことは出来ませんよ。 攻撃はすべて体をすり抜けます」
「1000年前に現れた死神も同じように息巻いていたな」
「あなたは1000年前にも生きていたんですか?」
「わたしは神に愛されし者。 民を導くため何千年と行き、神の声を聞き届けることが出来る者。 お前がここに来ることも分かっていた。 死神の殺し方も知っている」
「へぇ、どうやって殺すんですか?」
「それを今から見せる……やれ!」
教皇の号令を受け、魔法使いたちは一斉に魔法を打った。
弓矢よりも速い氷の刃が、魔方陣から飛び出す。
僕はスキル<幻影化>を使い、氷の刃をすり抜けた。
ほらね?
僕を殺すことは出来ない。
僕は教皇を見た。
教皇は薄気味悪い笑みを浮かべていた。
いや、魔法使いたちも同じように笑みを浮かべている。
彼らの視線は僕ではなく…………エミリアを向いていた。
「エミリアッ!」
僕は瞬間移動でエミリアを移動させようとした。
エミリアの前に瞬間移動し手を握った瞬間、背中に激痛が走った。
僕はエミリアと瞬間移動し、魔法使いたちの首を一瞬で落とした。
次々と瞬間移動し、血の雨を降らす。
―――ドサッ!
そして最後の1人を殺ったあと、僕はその場に崩れ落ちた。
「ほう、まさかそいつらを全員倒すとはな。 ……だが、お前ももう終わりだ」
なるほどな……エミリアに触れるためには<幻影化>のスキルを解かなければならない。
その一瞬の間に、何本もの氷の刃が僕の体を貫いた。
クソッ……意識が遠のいていく。
「カルマさん!」
「……エ……ミリア」




