誘拐事件
カルマが悪い奴らを見つけようと裏路地を彷徨っている頃、エミリアとエルザは大通りの市場で買い物をしていた。
「う~~ん、カルマにはこれが似合うんじゃないか?」
「……エルザさん、趣味が悪いです」
「そうか? かっこいいと思うんだがなぁ」
エルザは屋台に並んでいた『妖精族のドクロネックレス』を手に取って、エミリアに見せていた。
妖精族の頭蓋骨に穴をあけ、ひもを通しただけの悪趣味なネックレス。
……なかなかの感性を持っているようだ。
そう、エミリアは日頃の感謝を込めて、カルマにプレゼントを買おうとエルザに相談したのだ。
とうぜん、カルマが一緒にいるとサプライズできないので、今日は別行動にした。
「じゃあ、これなんてどうだ?」
エルザが次に手に取ったのは、真っ黒な羽ペンだった。
不幸を呼ぶとされる夜烏<ナイトクロウ>の羽で作ったペン。
「……エルザさん、不吉です」
「そうか? かっこいいと思うんだがなぁ」
エルザは、納得いかないといった表情をしている。
エミリアは、相談する相手を間違えたと後悔し始めていた。
「じゃあ、発想を変えて食べ物なんてどうだ?」
「いいですね」
「これなんてどうだ?」
エルザが手に取った食べ物は、沼に生息している沼線虫<スワンプワーム>をすりつぶして砂糖を混ぜたジャム的なモノ。
ゲテモノ好きにはたまらない一品。
「……エルザさん、そういうの好きなんですか?」
「いや……カルマに味見をしてもらって感想を聞こうかと」
「却下です」
こんな感じで、2人はカルマへのプレゼント選びを楽しんだ。
買い物を初めて3時間、あまりいい品を見つけられなかった2人は、屋台ではなく店に向かうことにした。
大通りの市場から町はずれの装飾品店や魔道具店へ行くには裏通りを通っていくのが一番早い。
エミリアとエルザは、裏通りに入った。
裏通りは人通りがほとんどなく、薄暗くジメジメしている。
エミリアはいつもの癖で、カルマの手を握るようにエルザの手を握った。
「どうした、怖いのか?」
「あ……ごめんなさい」
「気にするな……カルマは幸せ者だな」
「なに?」
「なんでもないさ」
2人は裏路地を進んだ。
「久しぶりですね……エルザさん」
とつぜん、路地裏の曲がり角から見知った男が姿を現した。
不敵な笑みを浮かべ、紳士的にお辞儀をしたその男は―――
「ま、マルク……なんでお前がここに!?」
「おや、見たことがある女の子だと思ったらエミリアちゃんじゃないですか。 いや~~、すごく幸運ですね。 2人を同時に頂くことが出来るなんて」
「お前……!」
エルザは瞬時に剣を抜き、マルクに向けた。
それを見たマルクは口角をあげ、得意そうに手を叩いた。
「みなさん、出てきてください~~」
マルクの合図とともに、路地裏の角から10人余りの冒険者が姿を現した。
その冒険者たちは――――
「な、なんでお前たちが!?」
姿を現したのは……死神を見つけ出すために協力を要請していた、上級冒険者たちだった。
奴らはみな、薄気味わるい笑みを浮かべている。
「エルザさんを捕まえた人は、僕が2人を壊したあとで、優先的に使わせてあげま~~す。 あ、多額の報奨金も出ますよ~~」
「前々から妖しい奴だと思っていたが……エミリア、下がっていろ!」
―――薄暗い路地裏で、戦闘が始まった。
数の上で圧倒的に不利であったエルザだったが、さすがは王国の騎士。
上級冒険者を遥かにしのぐ剣術を持っている。
さらに、場所は狭い路地裏。
敵はうまく数の有利を出しきれないでいた。
エルザは冒険者たちの懐に入り込み、一気に3人を切り伏せた。
冒険者たちも慌てて剣を振り下ろすが、するりと剣戟をかわし路地裏の壁を蹴って宙を舞いながら、冒険者を倒していく。
10人以上いた冒険者たちは、3分もしないうちに5人になった。
エルザは一気に片を付けるため、冒険者たちの背後に回った。
行けるっ……エルザは勝利を確信した。
―――しかし、
「エルザさんの悪い所は戦いとなると周りが見えなくなることですね。 僕のこと忘れていませんか?」
「なっ―――――グゥッ!」
裏路地の奥の方で高みの見物をしていたはずのマルクは、いつの間にかエルザの後ろにいた。
マルクは剣の柄で、エルザの首を思い切り叩いた。
気を失うエルザ。
マルクはエルザを担ぎ、エミリアの方へ向かった。
恐怖で動けなくなっているエミリアの腹を殴り、気絶させる。
カルマがエミリアのため買った、肩掛けがひらりと地面に落ちた。
「ちょっとごめんなさいね。 じゃあ、行きましょうか」
マルクと残った冒険者たちは、その場を立ち去った。
「はぁ、裏路地になら悪い奴らがいると思ったけどなかなかいないもんですね。 ……そろそろ殺人欲求がヤバイ」
路地裏を探して4時間。
獲物を探して必死に路地裏をさまよっていたが、こういう時に限って悪い奴らは現れないものです。
帰ろうかな……エミリアももう宿にいるかもしれないし。
ん? なんか騒がしい。
路地裏のはずなのに、人がいっぱい集まってる。
人通りの少ない裏路地で、何人もの人が何かを囲って騒いでいた。
僕は気になって人混みへ向かった。
「どうしたんですか?」
僕は集まっていた人々の中の1人に聞いた。
「この町の上級冒険者のほとんどが死んでいたんだよ」
「本当ですか!?」
群衆の間をかき分け、現場の前に出た。
たしかに、あの部屋で見た上級冒険者たちのほとんどが倒れていた。
僕に喧嘩を吹っかけてきた奴は……よかった、いない。
アイツは僕がぶっ飛ばすんだ。
死体を見ると、どれも見事な切り傷があった。
たぶん、殺った奴は剣士なのだろう。
ほかには…………は?
僕は隅っこに落ちていた肩掛けを見つけた。
これは、エミリアの肩掛けだ。
――――なんで?
僕は少しの間、放心状態になったが考えることをやめエミリアの安全を確認する事にした。
僕は瞬間移動で宿に向かった。