エミリアの村
「準備も出来ましたし、行きましょうか」
「はいっ」
エミリアの膝の上で目を覚ますと、太陽はすでに傾きかけていた。
村に向かう予定だったが、日を1日ずらして野営をするための道具を買ったり,お世話になった酒場の店主に挨拶がてら飯を食べに行った。
これで準備は万全。
次の日の朝方に、僕とエミリアは村に向かった。
手をつなぎながら、静かな1本道を歩く。
スキルを使えば半日もかからないうちに村に着くことができるが、村に着いたらエミリアとはお別れをしなければならない。
死神である僕と一緒にいても、エミリアは幸せになることが出来ない。
僕はエミリアと最後の時間を楽しんだ。
――――と悲観していたのですが、
「娘を救ってくれたお礼がしたいので、今日は私たちのお家に泊まっていってください!」
「え?」
両親に抱きしめられる幸せそうなエミリアを見届け、村を去ろうと振り返った瞬間、僕はエミリアの父に呼び止められた。
お礼なんていいですと遠慮する僕の腕をひっぱり家の中に引きずり込む父親。
今日はお祝いよと料理と酒をテーブルに並べる母親。
無理やり酒を飲まされる僕。
それを嬉しそうに眺めているエミリア。
酒に酔って意識がもうろうとしている僕を見て、父親が期を見計らったかのように言った。
「カルマさんなら安心して娘を預けられる! ぜひ、娘を貰ってくれ!」
「そ、そんないきなり……」
「エミリア、お前もカルマさんのことが好きだろ?」
「ちょっ、エミリアに何聞いてるんですか!?」
「……すきです」
「……僕と結婚してください!」
……ここまでの記憶はある、酒の勢いっておそろしい。
僕はいつの間にかベッドに寝ていた。
たしか、あのあと父親が「家族が増えたぞ! お祝いだ!」とか言って、また酒を飲まされたんだっけ?
……だけど。
なんでエミリアが僕の隣で裸になって寝ているのかぜんぜん分からない……。
「……ぅん……お、おはようございます、カルマさん」
「おはようございます……昨日の夜、僕はあなたに何かしましたか?」
「……お母さんに言われたとおりにしたら」
「……したら?」
「『エミリアが結婚できる年になったら』って言って、わたしを抱きしめてくれたの……」
「ほっ……なるほど、ありがとうございます」
酒のせいで意識がほとんどなくても、僕の理性はちゃんと仕事をしたようです。
というか、お母さんはエミリアに何を吹き込んでるんですか……?
町に帰って冒険者稼業を始めようかとも思ったが、町に戻ったら当分の間はこの村に来ることが出来ない。
エミリアも久しぶりに帰ってきたんだ。
村に来てから5日間、僕はエミリアとゆったりとした時間を過ごした。
村の近くにあった池で、池の主を釣り上げおいしく頂いたり、
村の少年の片思いを成就させてやるために、透明化のスキルを使って少年の体を動かし、女の子の前で猛獣を倒したり、
ゴブリンの集団が村を襲ったので撃退したり、
……ゆったりとした?時間を過ごした。
6日目の朝、僕とエミリアは町に帰る準備をしていた。
エミリアと今後の予定を話しながら、食料と水をバックに詰め、野営をするための道具を確認する。
「町に帰ったら、冒険者ギルドのクエストを受けつつほのぼのした生活を送ろうと思ってます。 エミリアは危険ですので、宿で僕の帰りを待ってて――――」
「わたしもカルマさんと冒険がしたいです……」
「……危険ですよ?」
「カルマさんとずっと一緒にいたい……」
「わかりました、エミリアの安全は僕が保証します!」
バタンッ―――――!
とつぜん、大きな音を立てて、玄関の扉が開いた。
振り向くと、そこには疲れ果てて息を切らした女騎士がいた。
長い金髪に、青みがかった緑色の目。
王国を守る騎士の証である、白を基調とした鎧。
年は僕よりも少しだけ上だろう。
「た、頼む……水と食料を……」
女騎士は、勢いよく前のめりに倒れた。




