静かな安らぎを
僕は暗い大通りを歩きながら、ポケットから冒険者カードを取り出した。
すべてはあの日、久しぶりに冒険者カードを更新したことから始まったんだ。
「……更新」
夜の闇の中で、冒険者カードが白く輝いた。
僕は、あの日と同じように月の光にカードをかざした。
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名前:カルマ
職業:死神
攻力: ――――
体力: ――――
物耐: ――――
敏速: ――――
魔力: ――――
魔耐: ――――
スキル:
<幻影化+1>
相手の攻撃はすべて体をすり抜ける
壁抜けもできるようになる
<死神の黒衣>
任意の時間、姿を見えなくすることが出来る
<死神の誘い>
傷を負わせた相手を殺す
<死神の瞬歩>
瞬間移動できる
<死の不可逆性>
スキルを使用している間、術者の半径1キロ以内で発動した回復魔法の効果を無効化する
<奪生の快楽>
殺害をやめれなくなる
<死の気配>
殺したい相手の居場所を知ることが出来る
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新しいスキルがついた?
<死の気配>……殺したい相手の居場所が分かる、か。
このスキルがあれば、酒場にいた連中をいちいち探さなくて済む。
はやく殺ってエミリアの元へ帰ろう。
まずはアイツから始めようか。
僕は薄ら笑いを浮かべながら、スキル<死の気配>が指し示す方向へ歩き出した。
スキルを頼りに歩いていると、一番最初に追い出された酒場に行きついた。
アイツの反応は酒場の2階からする。
どうやら1階を酒場として、2階を住居として使っているらしい。
僕はスキル<幻影化+1>を使い、酒場の壁をすり抜けた。
死神に行けないところなんてない。
どんな所にいようと、必ず命を刈り取る。
僕は2階に続く階段を上がり、寝室の壁をすり抜ける。
酒場の店主がぐっすりと眠っていた。
いびきがとても耳障りだ。
「起きてください、お客様ですよ~」
僕は店主を起こすために、ついでにいびきを止めるために、大きく空いた口に剣を突き刺した。
案の定、店主はすぐに起きたし、いびきも止まった。
その代わりに悲鳴がとどろいたが……。
「ぐ、があぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁあぁッ!」
「うるさいです」
こんな深夜に、大きな声で叫ぶなんて近所迷惑だ。
僕は剣をグリグリと口の中でかき回した。
喉を潰した方が速いんだろうけど、せっかくだから色々試してみたい。
「あぁ……がっ……ぁ」
店主は勢いよくベッドから落ちた。
口の中に剣が入ってるのにいきなり動いたせいで、店主の右頬はきれいにスッパリと割れた。
「こんばんは、お腹がすいたので飯を食べに来ました」
「ぐぁ……ぁぁあ」
「ん? そういえば、『奴隷とクソガキは入店不可』でしたっけ? でも大丈夫ですよ、今回はクソガキとしてではなく死神として来ましたから」
店主は床をのたうち回りながら、苦痛に歪んだ表情で口を押さえている。
店主の吐いた赤黒い血が、窓から差し込む月の光を反射していた。
僕はその光景を上から眺めながら言った。
「何を注文しようかな……今の店主さん、まるで陸にあげられた魚みたいですね。 決めました、店主の塩焼きにしましょう」
魚か……今日食べたパイ包みを思い出す。
寂びれた酒場のナンバーワン不評料理なだけはあったけど、奴隷なってからロクな物を食べていないエミリアはすごくおいしく感じたんだろう。
目の前で血を吹き出している店主……お前には、泣きながらおいしそうに食べてくれる客はいるか?
僕は店主の腹を引き裂き内臓を取り出したあと、店の厨房に店長を引きずっていき、塩をかけ大きな石窯の中に放り込んだ。
30分ほど焼いて石窯の中から取り出したら、けっこういい感じに焼きあがっていたので酒場のテーブルの上に置いといた。
作ったはいいが……食べたくないですね。
酒場の扉を開いておけば、きっとこの酒場に来た客たちがこれを見つけるだろう。
こんなクソみたいな酒場に来る客だ、きっとこの塩焼きを気に入ってくれるに違いない。
僕の分までおいしく食べてください!
僕は酒場の扉の鍵を開けたあと、次の獲物を殺すため夜道を歩きだした。
「あ……そういえば」
ふと思い出した僕は、酒場に戻って塩焼きから大腿骨を1本頂戴した。
次の獲物は宿屋にいた。
僕は先ほどと同じように部屋に侵入し、幸せそうに寝ている男の手と足を、目を覚ます前に瞬時に切り落とし、叫び声をあげないように喉を潰した。
宿には他の客もいる、暴れられたり騒がれたりしたら面倒だ。
目をカッと見開き、叫び声をあげようとするが声が出ない。
手足がないので動くこともできない。
おどろいた表情で僕を見つめる。
「こんばんは、先ほどは『奴隷はこれでも食ってろ』と食べ残しの骨を投げつけてくださりありがとうございました。 そのお礼と言ってはなんですが、これを持ってきました」
僕は先ほど手に入れた大きな骨を見せてあげた。
「これ、何の骨だかわかります?」
男は口をパクパクしていたが、なにもしゃべらない。
あっ……のどを潰したから答えれないんだ。
僕っておバカさんですね。
「この骨は、あなたの大好きな酒場の店主の大腿骨です。 世界に2本しかない貴重な物ですが、あなたに食べさせてあげます」
僕は男の髪を引っ張り、頭を動かせないようにして口の中に押し込もうとした。
しかし、男は歯を食いしばって必死に抵抗した。
「まだまだいっぱい殺らなくちゃいけない人たちがいるので、早く食べてくださいよ」
僕は骨を思いっきり男の口に振り下ろした。
男の歯が折れる、鈍い音が響く。
それでも男は泣きながら必死に、ない歯を食いしばった。
僕は無理やり口の中にねじ込み、食道にうまく入るよう調節しながら骨に力を入れる。
……が、誤ってのどの肉を突き破ってしまった。
店主の骨は、男の脊椎を避けながら、首の左側から突き出ている。
僕はちゃんと食べさせてあげれなかった罪悪感を抱きつつ、宿を後にした。
その後も、次々と殺していった。
最後の1人を殺し終わったときには、すでに朝日が昇っていた。
そろそろ大通りに並ぶ店が開くころだ。
帰るついでにエミリアのための服を買おう。
大通りに行くと、案の定、呉服屋も開店していた。
呉服屋のおばさんに、10歳くらいの女の子が着れるかわいい服を見繕ってくださいと頼んだ。
「おやおや、もしかして好きな子にプレゼントしてやるのかい?」
「……まぁ、そんなところですね」
「熱いねぇ~、おにいさん! 少し値段を負けてあげるよ!」
「あ、ありがとうございます」
僕は、白いカットシャツと空色の肩掛け、茶色のスカートを買って宿に戻った。
静かに部屋の扉を開けベッドにそっと近づいた。
エミリアはまだ幸せそうに寝ていた。
「ただいま」
エミリアの頭を撫でながら、僕は小さな声でつぶやいた。
「ん……か、カルマさん?」
エミリアは薄く目を開け、頭をなでていた僕を見つめた。
「す、すいません。 起こしてしまいましたか?」
「い、いえ……カルマさんはもう起きていたのですね」
「はい……あっ、見てくださいこれ。 今さっき大通りの呉服屋で買ってきたんで……す?」
僕はエミリアに服を見せてあげようと、手に持っていた服を広げようとしたが、急に足の力が抜けベッドにいたエミリアに倒れ込んでしまった。
「ど、どうしたんですか!?」
「ちょっと……疲れてしまったようです」
「……そうですか」
エミリアはそう言うと僕の頭を膝に乗せ、優しく撫で始めた。
「……エミリア?」
「……むかし、お母さんがよくこうして私を寝かしつけてくれたんです。 ……どうですか?」
頭を撫でられる柔らかな感触が、僕を静かで優しい眠りへといざなう。
「……よく眠れそうです」
「……ゆっくり休んでくださいね」
僕はエミリアのぬくもりを感じながら、深い眠りについた。