表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/19

少女と夕食を・2


 東を海、西を城壁で囲まれた『アルムス』は、海船を使った海上貿易で栄えている。

 そのため、海に近づくほど町は賑やかになり、城壁に近づくほど閑散としている。


 ……人影がないですね。


 僕たちはいつの間にか、町の端っこにある酒場の前に来ていた。

 開店中の立て看板もあるし、中から光が漏れているのでたぶん営業中だと思うが……。



 「ここに入りましょう」



 僕はエミリアの手を引きながら酒場の扉を開けた。

 

 店の中は小さなカウンターと丸いテーブルが5つあるだけで、他の酒場よりもかなりこじんまりとしている。

 客は1人もいなく、しぶいオッサン店主がカウンターの内側で静かに酒を飲んでいた。


  

「い、いらっしゃい! こんな夜遅くに客なんてめずらしいな」


 

 店主は僕たちの顔を見ると一瞬驚いたが、すぐに水とメニューの用意を始めた。

 この店主は、エミリアを見ても店を出ろと言ったりはしなかった。


 また追い出されないかと不安そうにしていたエミリアも、店主の対応に安心して椅子に座った。

 


「どうしてこんな寂びれた酒場に来たんだ? 町にはもっと良い酒場があるだろ?」


 

 店主は水とメニューを持ってくると、僕たちに質問をした。

 たしかに、町はずれの酒場にわざわざ来る客もいないだろうが……変な事を聞いてきますね。



「ちょうどこの酒場の前を通りかかったので」


「なるほど……さてはお前さんたち、この町に来たばかりだろ?」


「そうですけど、どうしてわかったんですか?」


 

 僕が首をかしげて質問すると、店主は得意げに言った。



「俺の酒場は、飯と酒がマズイことで有名だからな!」



 いや……そんなことを得意げに言われても。

 僕はとりあえず、あいそ笑いをしておいた。

 エミリアを見ると、さっきまでの悲しそうな表情が、笑顔に変わっていた。


 飯がマズいのはアレだけど……いい店主だ。



「ご注文は?」


「じゃあ、この魚のパイ包みをお願いします。 エミリアは何がいい?」


「わ、わたしも……魚のパイ包みがいいです」


「それ当店一の不評メニューだけどいいのか?」


「そ、そうなんですか……なぜか、逆に食べたくなりますね。 エミリアは注文変えますか?」


「か……カルマさんと一緒がいいです」


「はいよ、俺はさきに言ったからな。 マズくても文句言うなよ!」



 えぇ……。


 ドキドキしながら待つこと30分、店主が料理をテーブルに持ってきた。



「別の意味で当店自慢の『魚のパイ包み』だ、存分に味わってくれ」



 皿にのっていたのは、細長いパイ。

 焼き加減もちょうどよく、見た目は特に問題はない。


 味は……。


 むしゃむしゃ――――――


 こ、これは!


 噛んだ瞬間に口の中に広がる魚臭さ。

 味付けはたぶん塩だけで、なんのひねりもない。

 魚の骨は丸々残っているので、とても食べずらい。

 パイ生地が魚の油のせいでベチョベチョしていて、思ったよりサクサク感がなかった。


 これはなかなかの攻撃力を持ってますね……。


「……おいしい」


「え?」 


 エミリアは、泣きながらむさぼり食べていた。

 とても品の良い食べ方とは言えないけれど、おいしそうに食べるその姿を見れて僕は幸せな気分になった。


 そういえば……ぼくも見習い冒険者だったときは、どんなにおいしくなくても食べれるだけで幸せだったな。

 

 

「本当においしいかい!? お嬢ちゃん?」


「はい……おいしいです」 

 

「いや~~~、こんな可愛い子に褒められると舞い上がっちまうな、ガハハハッ!」



 すっかり上機嫌になった店主は、酒を飲みながら僕とエミリアの会話に参加してきた。

 酒場にこだます3人の笑い声。

 この酒場に来て本当に良かったと思った。



「今日はありがとうございました、また来ます」


「おう、いつでも席は空いてるぜ! お嬢ちゃんもまた来てくれよ」


「は、はい……ご飯おいしかったです」



 僕とエミリアは、外に出てお見送りをしてくれた店主に手を振りながら、酒場をあとにした。

 たわいもない話をしながら夜道を歩く。


 エミリアには泊まる場所がないので、僕が借りている宿に連れて行った。

 


「このベッドを使ってください、僕はこっちのベッドで寝ますので」



 僕がこの町に来た時、宿はちょうど2人部屋しか開いていなかった。

 ベッドも2つある。



「あ、ありがとうございます……ご飯を食べさせてくれただけでなく、宿に泊めてもらえるなんて」


「気にしないでください。 明日はエミリアの住んでいた村に行きましょう、お母さんとお父さんも心配してるでしょうし……」


「お母さんとお父さん……会いたい」



 明日エミリアを村に連れてけば、そこで僕とエミリアはお別れだ……。

 エミリアと一緒にいた時間は半日もなかったけど、それでも離れるのは寂しい。

 


「あの……」


「ど、どうしましたか?」



 エミリアが、何か言いたそうだった。

 エミリアの青い瞳がまっすぐ僕を見つめていて、少しだけ声が上ずってしまった。

 


「カルマさんと……一緒に寝たいです」


「え、いやでもベッド2つありますし……」


「……そ、そうですよね」


 悲しそうにうつむくエミリア。

 明日、僕はエミリアとお別れをしなければならない。

 


「……今日は肌寒いですし、一緒に寝ましょう」


「は、はい!」 



 ロウソクを消して部屋の中が暗くなった。

 明かりは、窓の外からほんのりと入ってくる月の光だけ。


 ベッドに入ったあと、僕たちは静かにおしゃべりを楽しんだ。

 エミリアは、一通りしゃべったあと眠りについた。


 幸せそうな寝顔。

 

 できることなら、このまま一緒に寝ていたかった。

 ……だけど、僕にはやらないといけないことがある。


「……行ってきます」


 僕はエミリアの頭を優しくなでたあと、部屋を後にした。

 町はひっそりと寝静まっている。

 

―――月明りのもと、死神による虐殺が始まった

   

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼ 1ポチ、協力お願いします。 ▼
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ