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4.ゴーレムに生まれ変わるってどうだろう?(前)

今回は前後編です。


 グランドオープンしたにはしたが――、


 いつ何時ベルトラム兄ちゃんに店を閉めさせられるか解らない。

 よって、時間があれば、小間物店用の小物開発に勤しんでいる。


「てぇへんだー! てぇへんだー! ニアちゃん、大変なんですよ!」

「おお、これはただのフリーターかと思ってたら実はハンゾウの手下でしかもハンゾウとは年の離れた従兄弟だったハチではありませんかよー?」


「説明っぽいご挨拶有り難うございます。って、これは何の遊びなんですかい?」


 わたしの手元では、ハチの手に乗る大きさの可愛いゴーレムが、フルパワーでバイクマシンをこいでいた。

 導線で繋いだ先では、手のひらサイズの扇風機が回っているという寸法だ。


 これは科学だよ科学!


「この車輪にかけたベルトが、雷精発生器のシャフトを回しているのですよー」


 これも手に乗るサイズの容器。


「下等でポンコツな人類にも理解できるよう、かみ砕いて簡単に説明するですよー。中心を通るシャフトには、永久磁石が仕組まれるですよー。容器の外側には細い針金を巻いた器具、コイルが取り付けられているですよー。シャフトをこのように回転させると、フレミングの魔法の法則により、コイルから伸びている針金で雷精取り出せるのですよー」


「ほうほう」


「取り出した雷精をこちらの魔道具に繋いであるのですよー」

 天才に掛かれば、一晩でできあがる!


「一旦、でこぼこを慣らす為のふるいにかけて取り出した雷精を生け贄にして、永久磁石とコイルを組み合わせた魔道具がフレミングの魔法の法則により、回転するのですよ-。それを風の精霊を生み出す立体魔方陣、名付けてプロペラを――」


「あーちょっと良いですかニアちゃん?」

「何ですかよー?」


「ゴーレムが、直接、プロペラを、回した方が効率よくありませんかね?」

「……」


 カルチャーショックですよー!

 って言うか、夕べ徹夜でコイルを巻いていた時間を返してほしいですよー!


「そもそも、ハチは何をしに来たのですよー。わたしの実験にケチをつけるために態々やってきたのですかよー?」


「あっ! そういえば忘れておりやした! カタカム王国の馬鹿野郎共が、とうとう国境を越えやして! トラント軍と一戦交えましたぜ!」


 最近、やたらトラントの国境で軍事挑発行動を繰り返すカタカム。

 とうとう、一線を越えたか。

 がんばれ! 黒蹄騎士団を率いているであろうベルトラム兄ちゃん。


「そういう事で――奥方様! どうぞ!」


 ハチが店の外へ声をかけると、貴婦人がおなり遊ばした。


「ニアちゃん……」


 ……あ!


「マグラ姐さんですかよー! 懐かしいですよー!」


 ベルトラムのお嫁さんになった……目が水っぽいですよー。

 まさか、泣いている? 泣かされた? 誰に?


 はっ!


「ベルトラムの野郎! 恥骨をへし折った後、のど笛割っ切って転生の輪から外れる外道魔法でとどめ刺してくれるですよー!」


「ちょっとまってニアちゃん。そうじゃないの。ベルトラムを助けてほしいの!」


 ベルトラムを助けると?

 いま、あやつはカタカム軍と小競り合いを繰り返している。


 ここで助けるという意味は……。


 エルフは人間同士の戦争に無干渉。

 絶対の掟。そしてエルドラとしての(しばり)でもある!


「残念ながら、そればかりは……」


「ニアちゃん、お願い。普通の戦いじゃないの!」

「そこはあっしが説明いたしやしょう!」


 ハチが話に割り込んできた。ここは自分が言わないと、との無駄な気迫に満ちている。

 こいつ、幼女だけでなく人妻も守備範囲に入っているのか?


「ゴーレムです」

「は?」


「戦場で、高機動型の戦闘用ストーン・ゴーレムが大量に使われ出しているのです」


 むぅ! ゴーレムは人と違って死を恐れない。金は掛かるが、いくらでも作れる。


 前衛や守備的な配置で使えば、絶大な効果が得られる。

 騎馬で突撃する騎士を防ぐ馬防柵と成り、同時にファランクスの役を果たす。おまけに頑丈な体は弓矢に強い。

 自ら行軍し、ご飯が要らないという補給部隊に優しい仕様。


「各国で戦闘用等身大ゴーレムの開発競争が始まっています。いち早くカタカムが実践に投入しやしたが、いずれ全世界が大量に投入してきやす。それが今後、戦いの主流となるでしょう。信頼性のある優秀な調査機関の調べです」


 ハンゾウの組織が調べたのだろう。わたしに伝える時間が無かったため、ハチを使ったのだ。


「とうとう黒蹄騎士団の最期ですよー!」

「だからー! そうなっちゃ、マグラ奥様が泣いちゃいますって!」


「やっと一緒になれたというのに……うっううー」

 顔を両手で覆い、泣き崩れるマグラ姐さん。

 指の隙間から見える目に……涙は見えない?

 あれ? 笑ってる?


「泣いているのです」

 ご免なさいですよー!


 女の幸せ、やっとつかんだと思ったら――どうしようもないベルトラムですよー!


 でも! しかし! 掟は掟。我が身にかけたルールはルール!

 これを無かった事にすれば、死んでいった初代ハンゾウやエルヴィンに合わせる顔がないですよー!


 そもそも――


「わ、わたしは、ただの童女ですよー! 戦争なんか出来ないですよー!」 


 わたしが戦場で広域高出力魔法を使えば、一発でエルフとバレる。


「ニアちゃんがだめなら……」

 ハチが明後日の方向を向きながら、ぼそりと呟いた。


「謎の魔法少女仮面さんなら、正義と平和のために活躍していただけるのでは? ニアちゃんのお知り合いでしょう?」


 …………、……、…、その手があったか!


 無限の力と無限の愛を持つ星の瞳の美少女、謎の魔法少女仮面なら、無制限に戦闘力を発揮できる!


「それがいい手ですよ! ではさっそく謎の魔法少女仮面に話をつけに行くですよー!」

 急いで中の間に上がり、二階への階段を駆け上がる。


「店番はお任せください。ちなみに戦場は北西の窪地ですよ!」

「任せるですよー!」


 未来はわたしが攻め落とす!











「ニアちゃん、外へ出ずに二階に上がっていったわね?」

「お洋服ダンスが二階にあるんでやんすかね?」


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