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14.また会う日まで


 早春の頃。


 わたしはエッダ。麗しのトラント亭の看板娘。

 看板娘って言い方も微妙になっていたけどね。


 お店の表を掃き掃除しながら、お向かいさんの看板を見上げる。


「アルフィス小間物店」


 ”薬剤店”の部分にバッテンが描かれ、上から”小間物店”と描かれた看板。

 ニアちゃんは薬屋さんが一番似合ってたな……。


 あのあと花屋さんを立ち上げたんだけど、一日でつぶれたっけ。

 今思い出すとプスッと笑ってしまう。当時は大騒ぎだったのにね。

 過去になってしまえば、笑い話の種になる。


 ……昔の話になってしまったのね。


 通りに水を打って、お掃除はおしまい。

 ニアちゃんご推薦の「ノレン」を店に掲げて、お昼の営業開始だ。


「ハンバーグ定食一つ。ビールジョッキで!」

 いきなり入っていた客は、見た目ハイティーンの少女。


「クロエ? 昼間からお酒飲むの? あんた未成年でしょ?」

「うるせぇ! こう見えて30前だ!」

 ドカッと音を立て、お気に入りのいつもの場所に腰を下ろす。


「……ニアが居なくなって、今日でちょうど1年になるんじゃないか」

「何をいきなり」

 言葉を切って、ふと思う。


 そうね、あれからもう一年たつのね。


 ニアちゃんが、なにも言わずに居なくなってから1年が過ぎた。

 いや、あれがお別れのお挨拶だったのだろう。

 ニアちゃんは寂しがり屋だから、面と向かってサヨナラは言えなかったのね。


 料理より先に出されたビールをクロエは旨そうに飲んだ。


「もう1年。たがが1年。されど1年」

 しみじみとクロエが言うものだから、わたしもなんだか改めて寂しくなってきた。


「エルフだもんな。年をとらない。10年で1歳だ。エルフとバレる事を恐れて、逃げたんだろう」

「初日でバレてたのに、気づいてないのは本人だけだったなんてね?」


 金髪碧眼。透き通るような白い肌。人間離れした美貌。ちょっと眉が太かったけどね。

 だれがも見てもエルフでしょう?


「あれでバレてないつもりなんだから、エルフの精神構造が解らない」

「ハーフエルフのあんたが、それを言う?」

「ふん!」


 あんなけ喧嘩したクロエと打ち解けている。

 こっそりとニアちゃんがクロエに魔法を教えていた事を知ってからね。何となく打ち解けたのは。


 ニアちゃんが居なくなってから……。


 クロエは、ソロの冒険者として腕を上げていた。


 噂は相変わらずで、知人は少ない。わたしとも距離を置いて付き合っている。もっとも、あれ以降、裏切られたとか騙されたとかといった案件はない。


「一年の間に、みんなも変わったわよね?」

「だな! 物書きのヘルムートは今や売れっ子なんだってね?」


「そうね。何でも無理して重版かけた本が売れたのよね。冒険物だけど、何がおもしろいのか解らなかったわ」

「わたしもだ。購入したのは男ばかりらしいね。男はああいったのが好きなのかな?」


「恋愛物とか、悲哀物描けばもっと売れるのにね?」

「同感だ」


 ニアちゃんのイラストを載せたファーストシリーズが売れに売れ、ヘルムートは続編を書いた。

 さらばナントカとか、ナントカ3だとか、新たなるナントカだとか、暗黒帝国編だとか、もういい加減、シリーズを書くのが嫌になったと言って、主人公の船を爆破したんだけど、現在、復活編とやらを書かされているらしい。


 この間なぞ、好きな物が書けなくなったと、泣きながらハンバーガーを食べていた。


「マグラさんは――」

 ちょっと言葉に詰まった。


「まさか、ベルトラム伯爵と結婚するとは思わなかったな」


 ここら辺で伯爵様をよく見かけるなー、と思ってたら、マグラさんの家に通っていたとは。


「エルフ定食一つ」

「はい、いらっしゃいませ! ってファラさんじゃないですか」


 冒険者ギルドの受付嬢、ファラさんだ。


「お昼掻き込んですぐ戻るわ。急いでちょうだい」

 エルフ定食とは、ニアちゃんが考えた数々の料理を日替わりで出す定食だ。 


「忙しそうですね。旦那様のお具合はいかがですか?」

「痛めていた腰も元へ戻ったわ。夜のお仕事も再開よ」


 うむ!


 冒険者ギルド長のボルケーノが投獄され、長の地位を剥奪された。

 代わって、ギルド長に就いたのは、クマデアールさんだった。


 ついでに、ファラさんと結婚した。二人は水面下でお付き合いをしていたらしい。うらやましい限りである。


「そういうエッダちゃんだって、もうすぐ結婚でしょ?」

「うえぇー! そうなの?」

 クロエが驚く。


 何というか、助っ人で入った若い調理人がね、結構いい男だったのよ!

 仕方ないのよ! これは運命なんだから! そう、運命!


「ハンバーグ定食とエルフ定食上がり!」

「はーい!」


 

 料理を食べ終えた二人は、一息ついた。


「ニアちゃんが居なくなって一年か……」

 わたしも空いている椅子に腰掛ける。


「ニアちゃんがこの町にやってきたのは今頃ね」 

「ニアが居なくなったのもこの頃だったよな」

 三人が三人とも、ため息をつく。


 もうすぐお昼。お客さんが大量に流れ込む。それまでのほんの一時、時間が止まったように静かになった。


「おご免ですよー」

 その静けさを破って、小さな子供が入ってきた。


「初めましてですよー」

 見事な金髪にニット帽。透き通るような碧眼。


「明日から向かいのお店で薬屋を開くですよー。今日は引っ越しのご挨拶ですよー」

 白い肌に太い眉をした八歳児。手にタオルを持っている。


「ニアちゃん!」

 三人が三人とも一気に立ち上がった。


「ち、違うですよー!」

 ニット帽を押さえる仕草! その声! 


「ニアは、わたしの従姉妹ですよー! わ、わたしは別人のミアですよー! 普通の人間の少女ですよー!」

「そんな訳ないでしょ!」


 何って白々しい嘘をつくのこの子!?


「従姉妹のミアちゃんね。初めまして、ファラって言います」

 ファラさんが、この嘘を受け入れたー!


 自称ミアちゃんは、してやったりと拳を握りしめている。

 なんて分かりやすい子なの!


「あ、ああ、わたしはクロエ。見ての通りハーフエルフだ。ニアには貸した金がある」

「いつ金を貸したですよー!」

 ほら、もう馬脚を現した!


 ……あれ? まさか、エルフはなかなか年をとらないんで、別人という設定にした?


 ファラさんが悪女の笑みをその美貌に浮かべた。

「甘くて美味しいお菓子はお好きかしら?」

「大好物ですよー!」


 身を乗り出す自称ミアちゃん。

 早速釣れた。


「明日わたしの『職場』までいらっしゃい」

「了解ですよー! 冒険者ギルドへ行くですよー!」


 この子がニアちゃんと別人のミアちゃんだとして、……初対面のファラさんの勤め先を知ってるんだ……。


「薬屋の許可を取り消されたのは、従姉妹のニアですよー。わたしは別人のミアだから関係ないんで堂々と薬屋を開くですよー。ではまたですよー」


 上機嫌で出て行く自称ミアちゃん。自慢していたお芝居のスキルとかを使って満足しているのでしょうけど……。


 その背中にファラさんが声をかけた。

「あ、そうそう、『ニア』ちゃん!」

「何ですかよー!」

 にこにこ顔で振り返った。


 あ、だめだ。やっぱニアちゃんの嘘はすぐばれるわ。


「明日、楽しみに待ってるわ」

 悪い笑みを浮かべるファラさん。


「では明日ですよー。約束は守るですよー!」


 決定的なミスに気づかぬまま、ニアちゃんはスキップで出て行った。この顔見せに成功を確信したのだろう。

 この自信はどこから湧いて出てくるんだろう?


 ……相変わらず……。


 もうすぐ本格的な春が訪れる。

 また、あの時が戻ってきた。












 アルフィス薬剤店、まもなく開店ですよー

 



本編はこれで完結です。



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