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2.ニアちゃん5歳

 あっというまに2年が過ぎた。

 色々あったのですよー!


 そう、2年の間に色々あった。わたしがエルフに転生していなければ、エルフの里が滅びたであろう案件もいくつかあったのですよー。


 ……おもな案件は、ドラゴンとの戦闘と、同時に起きた御神木の枯死未遂事件ですよぅ。

 ちなみに、言葉遣いはエルフ訛りに変えたですよー。


 ~じゃ。とか、~じゃのぅ。とか、エルドラであった頃の口癖である故、そこから悟られてはいかん。無難にですます調へと替えたのですよぅ!


 話は戻る。


 エルフの里の水源を守る御神木が、急に枯れた事件。同日、ドラゴンが出現した事件に関連性があった。

 まさか、ドラゴンがゾンビ化しておって、ゾンビドラゴンが幹に爪で傷を付けたのが原因で御神木が枯れたなど、わたしでも思い至らぬわ! むしろ二つの案件を一つ事件に結びつける者がいたら顔を見たいわ!


 一年半前の出来事だったが……、あの時は、わたしをして死を意識させた。


 ドラゴン追跡はエルフのハンターに任せ、枯れた原因を探るため、われわれ御神木調査班5人は、ジャングルの奥地へと飛んだ。


 調査班を率いる長老に、なぜか引っ張り出されて、現地へ一緒に飛んだのであるが……。

 たしかに、エルドラだった頃の知識を持つわたしは、やたら植物に詳しかったが……。

 わたしをおぶっていたウィクトリーのテンションがやたら高かったのが気になるが……。


 調べてみると、枯れていたのではなく、何者かに傷つけられた跡から広がった腐食であった。

 幸いにも、腐食していたのは幹の先端と枝部分だけ。


 ただし、現在も腐食は進行中。切り落とす刃物は持ってない。村への往復時間の間に、腐敗は御神木の全身に至る。 


 枯れれば白紙の森は死ぬ。


 いちかばちか、魔法の刃物で切り落とすしかない。

 理想的な魔法は真空斬(シヤン=ブロウ)。


 わたしのアドバイスによる長老の判断だ。異様に早い決断だったが……。


 指揮を執るのはウィクトリー。

 真空斬(シヤン=ブロウ)は第5段階の攻撃魔法。白紙の森一番の精霊魔法使いウィクトリーですら、必要な魔力を出力できない。


 こいつらの魔力だけで発動出来るかな? 制御だって難しいぞ!


 ……制御に失敗しやがったら、一人で逃げよう。


 ウィクトリーの指揮の下、御神木調査班5人ともトランス状態となった。全魔力を1カ所に集めている。


「風の十二方位 歌う舟 白き狼の息子 妖精国で宴をひらいた少女 伝導の書に捧げる薔薇――」


 いよいよスペル発動! その時だった!

 ドラゴンを追っていた狩人エルフが叫んだ。


「ドラゴンがそっち行ったぞー!」

 ドラゴン!


「ただのドラゴンじゃないぞー! そいつは死体。ゾンビドラゴンですよー!」

 ゾンビドラゴン!


 ゾロリと生えそろった歯を剥き出し、我らを喰らおうと大きく口を開けた。ばっちい汁が飛ぶ!


 全員がトランス状態。体を動かす事が出来ない。

 だめだ魔力が足りない! このままではウィクトリー達が殺される。


「真空斬(シヤン=ブロウ)発動!」 

 三日月型の長大な真空刃がウィクトリーの眼前に発生。


 驚いた。思わず、魔力を貸与してしまった自分に!

 もう、わたしも逃げられない!


「いくですよぅ!」

 ウィクトリーの命により、真空刃が縦に真っ直ぐ飛んでいく。


 眼前のドラゴンの右肩を裂きながら!


 ドラゴンに当たった事で、真空斬(シヤン=ブロウ)の軌道がずれた。このまままでは空振りになる。


「ガゥガー!」

 ゾンビドラゴンに痛みという感覚は存在しない。一度は衝撃でバランスを崩したドラゴンゾンビだが、足踏みをして態勢を整えつつある。


 ドラゴンゾンビは目の前。もう一度、ドラゴンゾンビにダメージを与えられる高い段階の攻撃魔法呪文(スペル)を組み上げる時間が無い。


 天の声を聞いたわ。『あ、死ぬかも』って声。

 勇者に迫られた時よりも、死が近かったわ!

 初めてだよ、脳内麻薬がビショビショと出てのを体感したのは。


 やるしかない!


 音速で飛び去る真空斬(シヤン=ブロウ)に、コントロールを被せた。 


 真空の刃が飛び行く先は右の枝。腐った部分と正常な部分をミリ単位でコントロールして切断。

 当初の予定だと、真空斬(シヤン=ブロウ)はここで打ちっ放し終了。もう一度発動し治す予定だった。


「チェストー!」


 脳内麻薬をもって初めて可能とした驚異的な精神力を発揮。飛び去るはずの 真空斬(シヤン=ブロウ)をUターンさせた。

 御神木の左枝の腐食部を正確に切断して、進路をドラゴンへ強制的に向ける。


「チェスト勇者!」

 驚異的な精神力に怨念の力も上乗せし、垂直に立った刃を水平に寝かせた!


 後ろからドラゴンの首を刎ねる。わたしの頭から飛び出していた一房の頭髪をスッパっと切り落とした後、2度目のUターン。

 御神木の上部を腐敗部分ギリで切断した直後、魔法が自然解除。


 質量物が地面に落ちる音が5つ続いた。

 御神木の枝が3つ。ドラゴンの首が1つ。ドラゴンの巨体が横倒しになる音が1つ。都合5つだ。



 時間的にも軌道的にも、危ない所であった。

 記憶に残る光景が白黒だった。それだけヤバかったのだろう。


 何で、こいつらの安い命を助ける為に、わたしが危険な目に会わなきゃならんのだ?

 ゼイゼイと肩で息をする。

 とりあえず一件落着。後は切断面にエルフ特製癒合剤を塗っておけば良かろう。




 この2年間。頭の硬い年寄り達がすぐ自害したがる習性(これも広義での戦闘)を除外して、純粋な戦闘ばかりじゃなかった。


 農場区域の整備と新設。効率的な農業改革。鍬の金属化。鋤の発明。

 益獣の飼育と交配・繁殖。


 ……連中、肉は鳥か魚しか食わない。チーズだのバターだの乳製品向けの家畜なのだ。


 石鹸の発明と普及。衛生概念の導入。

 そして、資源の再生システムが胎動を迎えたところか。


 エルフの里内部で完結するように心がけて開発した。



 正確には、年寄会議(議会に相当する)に、チョコチョコっと口を挟む。年寄衆(議員に相当)が「そういう方法もあるか。ま、考えてみよう」と形だけの受け答えをしつつ、実行してみると、効率的だったり画期的だったりする事を理解する。

 かなりの確立で採用されているのだ。


 わたしのお芝居もなかなかな物である!


 わたし、ニアの母が長老の娘なので、我が家が会議場となっている。会議場に住んでいるようなものなので、自然と会議に参加しているのだ。


 ……いまいち、我が家が会議場になっている理由が理解できない。


 突っ込んだ理由を長老に問い詰めてみた所「エルフの習慣だ!」と答え、「用事を思い出した!」と叫んで走り去った。


 ……エルフの習慣なら仕方ないな。


 詮索しても詮無い事は突き詰めないが吉。

 未来に思いを馳せよう。


「早期警戒システムの一部として、そろそろ人間界を調査せねばならないですかよぅ?」


 

「ニアちゃーん! お勉強に行くよー!」

 おや、学友によるお迎えが来たようだ。


「はーあーいー!」

 アレだ。わたしはまだまだ5歳。幼年学校に通っているのだ。







 それにしても、肉食いたい。




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