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毒蛇は雛を喰らう夢を見ながら 雛は毒蛇に挑む夢を見ながら


正直、塩酸の匂いで目も鼻も喉も痛いしそろそろ限界だ。長引くのは危険なので、一気に片を付けなければ。


仁王立ちの体勢から右足をやや後ろに引き僅かに腰を落とす。そして、結界の形を円錐形に変え、足に力を込める。


「いきますよぉぉぉ!!」


雛は弾丸の様に一瞬で蝦蟇の口から尻まで駆ける。槍のように鋭く尖った結界の先は蝦蟇の体を穿つ。蝦蟇は尻から大量の塩酸を漏らしながら黒い霧となって消えていった。


「げほっ!ごほごほ!!」


塩酸の匂いがまだ喉に染みる。激しく咳き込む雛の後ろで八来は 「よくやった」 と言葉に反して、やる気無さげに拍手している。因みに自来也の鳩尾を踏みつけたままだ。


「はぢらぃざ、ん…ぐぇっほげっほ!!」


「無理に喋んな。後でのど飴でも買ってやる」


ひとしきり咳き込み、やや嗄れ声ながらも何とか会話が出来るくらいになるまで八来は黙って待っていた。相変わらず自来也を踏みつけたままで。


「八来さんは、紛ツ神なのですね」


「正式に言えばちょいと違う。天照の言う通り半分人間、半分は紛ツ神の改造人間だ」


先程見た八来の異様な腕の断面を思い出す。八来が天照に聞いた話によると、彼の体の半分は機械やコードによって補強されているらしい。補強されていない生身の部分が破損しても数秒で再生してしまう能力があるのは先程実証済み。


「俺は 」


言いかけた八来の後ろの地面から再び大蝦蟇と自来也が現れる。先ほど大蝦蟇を二体消滅させ、自来也は二人気絶中。うち一人は八来の足の下。

新たに出現した大蝦蟇の背に乗っている三人目の自来也が素早く印を組むと、今度は大蝦蟇の口から轟々と炎が噴き出した。


「雛、俺はなぁぁぁぁこういう紛ツ神なんだぜぇぇぇぇ!!!」


炎が八来を飲み込む寸前、彼の背中から八匹の巨大な蛇を模した紛ツ神が生え一斉に口を開けたかと思うと大量の水を放出し消火していく。

赤い硝子の瞳に銀色の胴体、銀色の鱗を持った人工の蛇たち。だが、作り物のそれらは炎を全て消すと、赤黒いゴム製の舌をちろちろと出し八来そっくりの悪い笑みを浮かべた。


それを見て雛の脳裏に浮かんだのは幼い頃祖父に教えてもらったおとぎ話


洪水の化身にして美女と酒を好む

山河の如く巨大な八頭の蛇神


「や、 【八岐大蛇】… !?」


「大正解ぃぃぃぃ」


呆然と呟く雛に背を向けたまま右手の親指を立てて明るく言うと、そのままを左から右へ首の前を横一直線になるように動かす。

すると、背の蛇がレーザーの様に細く勢いのある水を放出し大蝦蟇を切り裂いた。


水は加圧し研磨剤などを加えることによってダイヤすら加工することが可能となる。いわゆるアブレシブジェット加工である。

紛ツ神である八来の体内には金属があるので、それを研磨剤代わりに水に混ぜて使用して大蝦蟇を斬ったのだ。

因みに同じことをあの地下牢でも披露し、金属の檻を破壊している。


「ラスト一匹は譲ってやる」


任せるとばかりに、ズボンのポケットから煙草の箱を取り出して一本口にくわえてライターで火を付ける。


「はい!」


自来也は大蝦蟇の背を蹴って飛び退き水の刃を避けると、 懐から鎖鎌を取り出し八来目掛けて鎌を投げつける。

雛は素早く八来の前方へと移動し、人差し指と中指で刃先を挟み込んで受け止める。自来也は手元の鎖を引いて鎌を戻そうとするが、もう片方の手で柄を持ち逆に引き寄せる。バランスを崩して相手が前のめりになった瞬間を逃さずに自来也の脇を駆け抜けて背後を取る。後頭部に柄の一撃を叩き込もうとするが、突如鎖が意志を持ったように雛の両腕に何重にも巻き付いて動きを封じる。


「しまっ  」


紛ツ神の特殊金属によって生み出された武器は当然、紛ツ神の意志によって形を変えることは先程から散々見て理解していた筈。己の不注意に後悔する間もなくこめかみに鋭い蹴りの一撃が入った。

意識を失ったのは一瞬。次に視界に入ってきたのは目間を狙う鎖鎌の穂先。


「っ!!」


両足を踏ん張りぐいと顔を上げ、横に振るわれた刃先をがちりと強く歯で噛んで受け止めると同時に歯に結界を貼り強度を上げて刃を噛み砕く。

口内の破片をお嬢様にあるまじき荒々しさでぺっと地面に吐き出すと、その細( く見えるが鍛え抜かれた筋肉が徹底的に絞り込まれた )腕に力を込めると鎖を引き千切り喉元を狙ってきた手刀を再び歯で受け止める。

何度も言うがお嬢様にあるまじき行為。いや、彼女は段ボール箱入り娘で野生のお嬢様だった。


「ふふぁえふぁひはほ!(捕まえましたよ)」


相手の腕を掴んで地を蹴り顎に蹴りの一撃を見舞う。無論それだけでは倒せないと判断していたのか、蹴りの勢いのまま空中で一回転し着地と同時にもう一度地面を蹴って相手の首を両足の太ももで挟み込み後方へと勢いよく投げ飛ばす。


(フランケンシュタイナーか)


相手の首を離さず、地面に叩きつけた後もう三度後方へと回転し丹念に地面へと頭頂部を打ちつける。しかも割と大きめの石がある場所を狙って叩きつけているのを八来は見逃さなかった。


(野生のお嬢様容赦ねぇなぁ)


八来は雛の事をお嬢様から段ボール箱入り娘、そして野生のお嬢様と認識を改めていたが、目の前で繰り広げられる中々えぐい光景に 『光属性の狂戦士』 と認識を変えた。


「八来さん、自来也さん動かなくなってしまいました。脈はあるので死んではいません、大丈夫です」


他の二体と同じ様に地面に大の字になって動かなくなった自来也の首筋に二本指を当てて脈をとりながら報告する。


「ああ、死んでないんならセーフだなぁぁぁぁ」


ただし、倒れている自来也三人は手や足があらぬ方向に曲がっているのでギリギリセーフというレベル。


「ん?こいつら……」


男を覆っていた紛ツ神製の装備は全て砕けその素顔が露わになる。

彼らの正体は先ほど雛を襲った入れ墨、スキンヘッド、ピアスの三人組だった。


「パソ子、至急天照に電話繋いでくれ。ついでに退治したこいつらの情報も送ってやれ」


《かしこまりました》


雛から携帯電話を返してもらい、コール音が五回鳴った時点で気だるげな女の声が聞こえてきた。


『なんじゃ、八来。折角檜風呂に入りながらとっておきの日本酒を楽しんでおるというのに』


八来の脳裏には大浴場で一人湯船に浸かるダイナマイトボディの女神の姿が浮かんだ。ただし、湯船に徳利とぐい飲みの乗った桶を浮かべ 「かぁぁ~~っ!この一杯のために生きておる!!」 とおっさん臭い台詞でくいくい日本酒を飲み干している。


「良いご身分だな、神様だけに。パソ子から送られてきたデータ見ろ」


『ふむふむ……。これは!?』


驚愕の声に続いて派手な水音が上がる。再び八来の脳裏にボン キュッ ボン ! の女神さまのけしからん全裸姿が浮かんだ。バストサイズはEかFか?多分Fだろうそうしよう大きい事はいい事だ。


「思わず立ち上がっちまうくらい愉快な情報だろぉぉぉ」


あのババア、年の割には肌艶がいいから水をよく弾いてるだろうな。まぁ神様だから外見いくらでも誤魔化し効くだろうが。


『お主の時と似ているな』


「あ?俺の時よりかはマシだろ。紛ツ神は消滅しちまったが、自来也になった阿呆三匹なら俺の足元に転がってる。さっさと部下使って回収して分析しておけ。あと、婦女暴行未遂した件もしっかり仕置きしておけよ」


ここまで想像しても何故か全く興奮しないし楽しくない。以前だったら大歓喜だったが、頭改造された時に性欲抜け落ちたか?


『分かった、すぐ部下に回収させる』


「紛ツ神退治の報酬も早急に振込頼む」


『なんじゃ?金に困っておるのか?』


「ああ、食費で家計が火の車になる」


火付け役の女は倒れた三人の外れた関節を治したり、応急処置を施している最中だった。


「んじゃ、俺達は家帰って寝る。分析結果出るのはどうせ明日だろう?明日の昼くらいにそっちに顔出せばいいか?」


『いや、少々時間がかかるやもしれぬ。何せ新種の紛ツ神じゃからな。連絡はまた追ってする』


「了解」


通話を切ると、泥まみれの男達の顔を近くの水道で濡らしたハンカチで拭っている雛を手招きする。


「帰るぞ」


「はい。でも、この方達はここに置いていても良いのでしょうか?」


「すぐ天照の部下が回収に来る。だから心配するな」


「分かりました」


「よし、んじゃ荷物回収して帰って風呂入って寝るぞ」


「はい!」


荷物を回収しようと駆け出した雛の足が唐突に止まる。そしてへなへなと足元から崩れ落ち、ぺたんと座り込んでしまう。


「どうした?」


ぐぎゅるぉおぉぉぉずごぉぉぉぉぉぉぉんっ!!


雛の腹から地獄の亡者の苦悶に満ちた唸り声の如く凄まじい音が鳴り響いた。


「まさかとは思うが、腹減ったのか?」


「ふぁい…」


涙目でお腹を押さえる雛。そこには先ほど狂喜の表情で闘っていた面影は微塵も残っていない。


「……夜も遅いから具材多めの雑炊でも作ってやる。だから家まで頑張って耐えろ」


「はいぃ!」


情けない返事を返しながらよろよろと立ち上がる。その子供の様な後姿に八来は吹き出しそうになった。


さて、具材はキノコと野菜多めで…出汁は時間がないから粉末の出汁の素を使うか。土鍋で足りるだろうか、などと思案しながら背中の蛇を収納する。


「やれやれ、とんだお嬢様のお守りを任されたもんだな」


幼女のような外見(ただし胸は除く)に天然の思考、そして超絶大食漢。


そして


己と近い匂いがする



「精々俺好みに育てますか」


そしていずれ成長しきった時が楽しみだ


誰よりも何よりも強い存在に育て上げ


その先に己の飢えを満たす   死闘   が出来る筈


「八来さぁぁぁん、早く帰りましょう!」


「おお、んじゃ走るか」


「お腹空いて走れません」


「残ったエネルギー絞り出せ。そうしたら飯がもっと美味くなるぞ」


「頑張ります!!!」


ご飯の為に! と萎えた両足に力を入れて走り出す雛。それをどこか楽しそうに追いかける八来。




紛ツ神に成った男


秘めた力を持った女



これは闘う事に狂おしいほどの喜びと楽しみを持った二人の物語


果てに待つのは喜劇か悲劇か


絶望か 希望か


生か 死か


それでは



舞台ならぬ  『武台』  幕開けでございます





ここまでが序章となります。

次は幕間という名の予告を書こうかと

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