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荷物+荷物=俺にどうしろと!?

八来達の耳に爆撃音が響くと同時に建物が大きく揺れる。

未だ廊下の曲がり角で八来達をのぞき見していた子供たちは悲鳴を上げ、西宮も悲鳴を上げてしゃがみ込んだ。

八来はというとこの揺れの中、スーツのズボンに手を突っ込み冷静に辺りを伺い、竜八は斎賀に飛びついて押し倒すと彼の頭を抱えて天井から落ちてくる破片から彼を守ろうとする。


「竜八く~ん、過保護~」


やがて揺れがおさまると、斎賀は竜八を抱えたまま起き上がると嬉しそうに呟いてスーツの裏ポケットをまさぐる。そして何やら赤い金属の塊を取り出してみせた。


「えへへ~この子~使うの~久しぶりだねぇ~」


否、それは真っ赤に光る拳銃だった。

銃身に唇を落とすと、それを八来目掛けて発砲するが八来は表情一つ変えず微動だにしない。

弾丸は八来の顔のすぐ横を通り過ぎ、背後に迫っていた何かの額に命中した。


「……これは、姑獲鳥もどきか?」


八来が肩越しに振り返ると、女性を模したマネキンに下半身は鳥の着ぐるみを着せ、背に作り物の羽をくっつけた紛ツ神が鋭い鉤爪で西宮に襲い掛かる寸前に崩れ落ちるのを見た。


「おい、大丈夫か」


西宮に声をかけると、彼女は青い顔でへたり込んでいた。それを見て八来は心底面倒くさそうにため息を吐くと、頭を掻きながら彼女に近づき手を差し出す。


「あ……、す、すすすすすいませんっ!!」


西宮は暫し顔を真っ赤にして慌てていたが、やがて意を決したようにその手をガッシと両手で力強く掴んで立ちあがる。


「ちっ!」


すると、今度は八来が彼女の手を引き片腕で抱きとめた。


「え?あっ?へ!?」


突然の事に動揺する彼女をよそに、空いた手から杖を出すと西宮の背後から襲い掛かってきた姑獲鳥の紛ツ神の頭を砕く。


「ガキ共連れて何処か安全なところにでも避難しておけ。邪魔だ」


だが、反応がない。西宮は八来の胸の中で真っ赤な顔で鯉のように口をパクパクさせている。


「聞こえてんのか?さっさと避難しろ!」


「ひゃ……ひゃい」


顔を真っ赤にし頭から湯気を出しながら答えるも舌が回らない。眼鏡の奥の瞳はグルグル回り、抱き留めてくれた恩人の顔がまともに見れない。


「八来く~ん、その人~大丈夫~?子供達~先に~避難させちゃうからね~この先の~教室に~結界~貼って~子供たち~入れ~とくよ」


斎賀と竜八は子供達を連れて曲がり角の向こうへと消えていく。


「ちょっ!この女も連れて行けぇ!!あと、緊急事態の時くらいは巻いて話せ!!」


自分の胸元で赤い顔ではぁはぁ息を荒げている女を襟首掴んでぶん投げてやろうかと思ったが、面倒くさくて止めた。

さぁて、このでかいお荷物をどうしようか?と、向かってくる紛ツ神を杖で破壊しながら辺りを見回す。

そこで、園長室の隣の教室に目が留まる。


「ちょっと来い」


「ひゃあっ!?」


西宮を乱暴に肩に担ぎ、教室に駆け込むと目当ての物―――――掃除用具の入っているロッカーを開けて中身を全部出そうとしたが、中に入っていた物に思わず固まった。


「…………何してやがる?」


掃除用具に囲まれ、縮こまって怯えていたのはあの陽和だった。


「い、いきなり、何だ!?」


逆切れして怒鳴りつけてきた陽和の襟首を掴んでロッカーから放り出すと、逆に西宮を中に放り込み扉を閉める。


「あ、あの!八来さ……」


西宮が何か言いかけていたが無視して印を組むと、懐から札を出しロッカーの扉に貼り付ける。結界張りこれにて終了。


「あのガラクタ全部始末するまで出るんじゃねぇぞ?いいな」


別にこの女を見殺しにしてもいいが、ここには斎賀と竜八もいる。放置して死なせようものなら面倒くさい事になるだろう。連れ歩くのも邪魔くさいので取りあえず即席ロッカー結界の中に彼女を放り込んだ。


「何をする!!わ、私も入れろ!!」


床に放り出され、抗議するする陽和は別。こいつは見殺しにしてもいい気がしてきた。


「駄目だ」


「何故!」


「何となく」


本当は八来の結界は人間一人分が限界だっただけだが、癪なので説明するのは止めておく。


「ふざけるな!!この世は男女平等だろ!!」


「で、その男女平等を訴えるお前は何故ここに?」


「うぐっ!?そ……それは……」


急に口ごもり、明後日の方向へと視線を泳がせる。冷や汗をダラダラ流し、一向にこちらと目を合わせようとしない。やたらと挙動不審になったのを見るに、どうやら仕事でここに来たわけではないようだ。この妙に分かりやすい所は流石雛の遠縁というべきか。


「答えないのなら、紛ツ神の中に放り込むぞ?」


「わわわわわわ!?分かった!話す!話すから!!」


再び襟首を掴み、紛ツ神がひしめく教室の外へと放り出そうとすると慌てて撤回しだした。


「仕事帰りに偶然お前がこの施設に入っていくのが見えて追いかけてきたんだ!」


「お前、それストーカーじゃねぇか。暇人め」


「誰がストーカーだ!!人聞きの悪い!」


「お前だ、お前」


受付の人間は恐らく軍の人間の証である胸元のバッヂを見て通してしまったのだろう。セキュリティの甘さに頭痛が止まらない。もう少し警備を強化するよう教育を徹底しておけよ園長先生。あと、創設者の岩二と責任者の法園寺。


「あ、そろそろこっちもヤバいか」


話をしている内に、姑獲鳥の紛ツ神が鉤爪を使って教室の戸を破壊して侵入してきた。


「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」


お前はホラー映画でよく見る女犠牲者か?と突っ込みたくなる程甲高い悲鳴が陽和から上がった。


「んな大声出していると余計狙われるぞ、ボケ」


後ろで腰を抜かしてへたり込んでいる陽和の前に立ちはだかり、襲ってきた紛ツ神の胴体を杖の一振りで砕いた。


「ああぁぁぁぁあぁぁ!!!」


どうやら背後でパニックを起こしているお坊ちゃんは戦闘向きではないようだ。

八岐大蛇の紛ツ神としての力を使えば容易にこの状況を突破できるが、面倒なことになりそうなので陽和の前で力を使うことは出来ない。

さて、お荷物が一つ減ったと思ったらまた別のお荷物を抱えてしまった。


「お前に何かあったら雛が泣くだろうしな……癪だが、重症負わない程度には守ってやる。だから、今度何か奢れよ!!」


汚い悲鳴の上がる中、八来は再び杖を振りかぶり紛ツ神の群れへと突撃していく。



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