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GEKITEKI☆びふぉーあふたー

「で、俺個人に話ってなんだ?」


今、部屋の中には八来と蓮生の二人だけ。雛は先に会議後のティーパーティーへと行かせた。


「壁と天井の修理費の事なんですけどね?体で払って貰おうかと……」


法園寺の満面の笑顔とは対照的に、八来の表情が一瞬にして凍り付いた。


「人体実験だけは、どうかご勘弁願えませんでしょうか……?」


あの天照大御神に対しても決して使わなかった敬語で断ると、三つ指を突き額を畳に擦り付けそれはそれは丁寧な土下座を見せた。


「失礼な、そんな非人道な事を私がするとでも?」


「新しい気孔発見24時耐久レースだけはどうかっ!!」


「前世でそんなお仕置きもしましたねぇ。あの時は『休め』と言った私の言葉を無視してお仕事をした岩二さんがいけないのでしょう?」


前世の八来こと岩二は今の芭蕉宮の様にブラック会社気質が中々抜けず、しょっちゅう無茶をしていた。それをいつも蓮生に咎められ時にはお仕置きを受けていた思い出がある。


「……それはさておき、身体で払って貰おうというのは、ちょっとしたお仕事を貴方にしていただきたいのですよ」


「仕事?」


「そうです。なので、そろそろ顔を上げてくれませんかね?」


「……内容は?」


ゆるゆると顔を上げると、蓮生はいつの間にか髭剃りと櫛を手に持っていた。


「情報収集をお願いいたします」


「分かった。で、手に持ったソレは?」


「貴方はその風体で情報収集に向かうと?」


長く腰まで伸びた白い蓬髪、目元を覆う前髪、不精髭……確かにこの格好では難しい。


「少々、整えさせていただきます」


嫌な予感がして逃げ出そうとするが、どういう訳か足が動かない。違和感がして足を見ると、いつの間にか足首に細針が一本刺さっている。


「大人しくなさい」


「え?ちょっ……ま、待っ……」


蓮生は笑顔を張り付けたまま、じりじりと間合いを詰めてくる。腕を上げて顔を庇おうとしたが、今度は腕が上がらない。……やはり、二の腕にいつの間にか針を刺されていた。


「大丈夫、ちょっと切ったり剃ったりするだけですから」


迫る鋏と剃刀、そして上司の笑顔。逃げ出したい、だが体が動かないので逃げられない!


「や……、や、優しくしてください」


八来は観念して目を閉じた。


****


「八来さん、遅いですね」


苺のショートケーキを皿に取りアッサムティーをカップに注ぎながら、雛は戻ってこない八来を心配する。


「お爺様、と、お話しを、しているんですよ、ね?」


七穂はレモンカスタードパイを食べつつ、ニルギリティーで喉を潤す。


「大方、弁償の事かもしれへんで?」


小夢はミックスベリータルトにヌワラエリアの紅茶をチョイス。


「べ、弁償!そそそそそそうですよね……あんなに沢山壊してしまいましたから……」


「雛、落ち着け!べそかくな!それに、雛が壊した訳やないやろ!」


「私、闘技場で稼いできます!!」


「待て待て待て!落ち着けっ!!」


「法園寺様に私も頭下げて謝ってきますーー!!」


「だーーーっ!アカン!雛が暴走しよったーっ!!!」


パニックを起こして走り出した雛は、突然現れた人影にぶつかりかけ慌てて急ブレーキをかける。


「あ!す、すいません!!」


「何を慌ててる?」


スーツを着たオールバックの男に対し慌てて頭を下げるが、男は雛の頭に手を置くと乱暴な手つきで撫でまわす。

この手の大きさ、頭を撫でる仕草、これは……!


「八来さんっ!?」


「それ以外の誰に見えるんだぁ?」


髭や剃られ、もみあげは切られ、長かった髪はオールバックにまとめられ、軽く結べるまでの長さになっていた。

仕立てのいいスーツを着てもとてもカタギには見えないが、いつもの彼と比較すると『胡散臭いチンピラ』が『893の若頭』へと格段にクラスアップしている。

結論・どの道この男恐い。

だが、


「あの……、八来さん、凄くお似合いです」


純真無垢の箱入りお嬢様はどう見ても893な八来を見て頬を染め、照れながら彼を見上げている。


「そっか。ありがとよ」


応えはいつも通りどこか素っ気ないが、雛を撫でる手付きがやや優しくなる。


「ねぇねぇ、あれであの二人付き合っていないんでごじゃるよー」


「相思相愛で~相死相愛~だからねぇ~」


「ホンマ、あの二人何でくっついてへんの?」


「もどかしい、ような、微笑ましい、ような」


「いや~あれはあれで一つの愛の形だべな!」


「あらら、まぁ!ほーんと、可愛いわねぇ!!」


組長の一人娘とそのボディーガードのような二人組を、他の面々は微笑ましく見ていた。


「で、何でそんなかっちりした格好してるんだお前は?」


誰もツッコミを入れないので黄龍部隊のツッコミ特攻隊長(命名・カイ神父)が耐え切れずに質問をする。

八来の前髪が切られたことにより、改めて芭蕉宮とほぼ同じ顔という事が再認識されたのか芭蕉宮は複雑な顔で彼を見ていた。


「我らがボスにやられたんだよ!」


肩越しに振り返ると、笑顔でピースサインをしている蓮生がいた。


「いかがでしょうか?」


「八来さんが、凄く素敵になっています!」


「そうでしょう?八塩さん。ちょっと仕事をしてもらうのでそれなりの格好をさせてみたんですよ。いやー着せ替え楽しかった♪」


ご機嫌な蓮生の前で八来は項垂れながら 「めっちゃ疲れた……」 と額に手を当てため息をつく。


「チャイナはないだろ……」


どうやら相当色々なものを着せられていた様だ。その重いため息と共に吐き出された単語に反応した芭蕉宮は右斜め上を遠い目をして見ている。ぶるーたす、お前もか。


「そうそう、八塩さん、修理費の事を気にされていたようですが八来さんに外回りのお仕事をしてもらう事で帳消しとさせていただきます」


「外回りのお仕事ですか?」


「情報収集です。黄龍部隊は主に裏方のお仕事が多いですからね。八来さんにも本格的にお仕事をしてもらおうと」


雛は一瞬言葉を詰まらせたが、即座に 「分かりました」 と返す。


「大丈夫、次回は貴方にも八来さんと一緒にお仕事していただきますから」


雛の様子に気付いたのか説明をすぐに付け足すと、彼女は即座にホッと表情を緩ませる。


「あと、八来さんもここに数日泊まって貰う事になりました」


「え!?」


「仕事の関係だよ、仕事!」


「わぁ!それじゃあ男子会出来るでござるねー」


「ちょっと待て、アーク。メンバー誰だよ」


「芭蕉宮殿とー吾輩とーカイの兄者とー斎賀殿」


「お前らも泊りかよ……」


「うぇーい!楽しみですぞー!!」


「……最悪」


心底げんなりした顔で、ラベンダーのハーブディーを啜る八来。雛はというと、雰囲気の変わった八来から目を離せないでいた。


「あー、分かるでぇ雛。好いた男の正装はガン見したくなるもんな」


「こうして、見ると……八来さんと、芭蕉宮は、本当に、そっくり、ね。小夢に、とっても、眼福じゃ、ない?」


「んぐっ!」


鋭い指摘に小夢は飲みかけの紅茶を思わず逆流させた。


「ちょ!何言うてんの!確かによぉ似てるけど、全然別もんやし!鳴三の方がええ男や!!」


ハッとして雛の方を見ると、分かりやすい位複雑な顔をしている。


「ごめ……いや、その、あ~、誰しも惚れた男が一番って事であって、その、八来のオッサンがイケてないとかそう言うんやなくてな?その、雛にとっては二人並んでいたらどっちがええ男やと思う?」


「八来さんです」


迷いなく即答。


「そう言う事や……」


訊いた小夢も雛の純粋さにどこか照れたように顔を覆う。


「確かに、好いた殿方が、一番、ですね。ね?朱志、様?」


「俺も、姫様が一番だべさ!」


にっこりと微笑み合う朱志と七穂。どうやら、こちらもラブラブな馬鹿ップルのようだ。


「いやぁ、流石のラブラブっぷりですなー。八来パッパに芭蕉宮殿に朱志殿、美人にこれでもかと求愛されている今のお気持ちは?」


「しるかよ」


八来は表情一つ変えずに紅茶を啜り、芭蕉宮は片手で顔を覆うが耳が朱に染まっているので照れを隠しきれていない。朱志は七穂と並んで仲良くケーキを「あーん」させ合っている。



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