黒い疑惑
「皆、今日はよく集まってくれた。幹部格が全員集合するのは久しぶりだな」
「おい、似非神父さんよぉ……コイツとコイツも八雷神だった訳?」
八来の指差す先には先ほど殴り合った相手である朱志と、吉原の事件の時に出会ったオネェ様ローズがいた。
「そ、だべ。俺は八雷神『火雷神』なんだべさ!」
「アタシは『土雷神』よ♪よろしくね」
朱志はピースサイン、ローズはウィンクして答えるが八来は目を逸らして苦笑する。この二人の戦闘力は見たが、確かに存所そこいらの四神部隊の幹部よりも高かった。八雷神ならば、二人の能力の高さには納得いく。
雛はというと、仲間が増えたことが嬉しかったのか、はたまたローズという知り合いが仲間だったことが判明したことが嬉しかったのか目をキラキラさせている。
……もしかしたら、強者が増えたので闘う相手が増えたことに喜びを感じているだけかもしれない。
兎も角これで、『大』『火』『黒』『析』『若』『鳴』『土』『伏』の雷神が全て揃った。
改めてみると、派手で凶悪な神父から巨漢デブ、オネェに美少年に不健康な中年に……全員キャラが濃すぎる……。
「さぁて、本日はこの前の【吉原結界事件】についての報告だ」
会議室でホワイトボードを背に場を取り仕切るのはカイ・クォン神父。ペンを取り、事件発生時刻と場所など次々とボードに書き込んでいく。
「で、首謀者は『裏七福神』所属の『裏・寿老人』と名乗る若者だそうだ。こいつに関しての情報は手元の資料見てくれ」
資料には、八来からの情報で人を浚い実験に使っていた事が記されていた。更には実験に使っていた人間から筋組織や皮膚を移植して若作りをしている事も書いてあった。
他には雛からの情報で、彼が使用した結界の構造の一部が雛の実家の秘術と同じだったことも書いてある。
「ぴよっ子……ちょっといいか?」
カイの一言に、周囲の視線が一気に雛に集まった。突然の事と、自分の実家が絡んでいるかもしれないという事実に雛は顔が真っ青になる。
もし、本当に実家が関わっていたら、自分まで関わっていると思われたら……。
折角手に入れたい場所が壊れるかもしれないという恐怖に雛は言葉を発する事が出来なかった。
「何だ?似非神父」
固まる雛に代わってかばうように八来が答える。その様子を八雷神のメンバー数人は微笑ましく見ていた。
「結界術を見せて欲しいんだよ。ちょいと調べてみたい事があるんでね……ああ、大丈夫、お前を疑っているという訳じゃねぇから安心しろ」
構造をもっと詳しく知りたいだけだ、という神父に雛は恐る恐る立ちあがり自分の目の前に小さな結界を展開する。
「失礼するぜ」
結界に右手を近づける。すると中指から手首まで一直線に黒い線が走り、その線を中心に神父の手が音も無く左右に裂けた。断面から覗くのは沢山の機械部品、それに混じって長く黒いコードが這い出し先端のプラグを結界に差し込むようにして触れた。
「ん?」
当然、雛の結界はアークのプラグを拒む――――――――事は無かった。すんなりと結界にプラグが沈み込んでいくのをカイは不思議そうに見ていた。
「似非神父、お前さん半機械人間だったのかよ」
「まぁな。両手足は完全に義手義足で後は体の30%機械化している。あ、言っておくが俺の場合は先天的になかったんで機械で補っているだけだからな」
八来の問いにカイはニヤリと笑って返す。
【半機械人間】――――――――魑魅魍魎の跋扈するこの世界で人類が彼等に対抗する手段の一つとして造り出されたもの。
元々は体の不自由なものに対する技術だったが、武器の内蔵やレーザー機能搭載等々身体強化し妖怪や神を討伐する手段の一つとなっていった。物理一辺倒ではなく、呪具などを搭載し、呪術を使う事も可能としている。
「疑似神経あるから、痛覚も当然あるぜ。……で、本題だが、この結界にアクセスしても痛みが全然感じないんだよな。ぴよっ子、もしかしてこの結界ってお前が拒んでいる人間じゃないと効かないとか?」
「え?ど、どうなんでしょう……?」
「無意識か……まぁいい、解析完了した」
プラグが音も無く引き抜かれ、ゆるゆるとコードがカイの手の中に戻っていく。全てを収納し終えると何事も無かったかのように、まるで映像の逆回しの様に神父の手は元に戻っていった。
「この結界は」
神父が雛の前に手をかざすと、彼女の物と全く同じ金色の結界の壁が出来る。だが、直ぐに亀裂が入り砕け散ってしまった。
「血縁者じゃなきゃ使えねぇ。つまり、あの若年寄野郎がぴよっ子の血縁者もしくは事件現場には雛の血縁者が紛れていた可能性がある」
「そんな……」
実家の無実を願っていたが、実家の関与が濃厚になり雛は衝撃で口元を押さえ立ち尽くす。
「裏七福神が血縁者、若しくは八塩家がヤバい方向でこの騒動に関係しているのが確定したな。……ぴよっ子、ショック受けてるところ悪いが、お前が知っている情報を教えてくれないか?」
「……私は、何も知りません。両親とは年に一回しか会えませんでしたし……妹とは一度も会わせてもらえませんでした。本家の情報は何一つ、私に流れてくることもありませんでしたし……」
俯いて、震えながらスカートの裾を両手で強く掴む。
「おい、似非神父、悪いがこいつはマジで何も知らねぇよ」
いつになくキツイ視線をカイに向ける八来。彼の行動にアークが 「父性本能か、はたまた恋愛感情か……。雛たんに対して随分過保護&独占欲滲みだしてきましたでつねー」 等とぽつり漏らしていたので取りあえず茶菓子を入れていた皿を額目掛けてフリスビーの様に投擲した。勿論、額のど真ん中に見事に当たる。
「それじゃあ、今青龍部隊にいる『八塩 陽和』について何か知らねぇかい?」
「え……?まさか、陽和兄様が事件に関係しているのですか!?」
まさかの親戚の名前に再び雛が慌て始め八来の片眉が跳ね上がる。
「いや、線は薄いが念のためだ」
「念のため、ですか」
「そう、念のため。些細な事でもいい、例えば性格や癖やそいつの家族の事、知っている事を話してくれないか」
雛は不安そうに八来を見るが、彼は一言「話してやれ」と後押ししてくる。
「……陽和兄様はですね」
観念したように雛はぽつりぽつりと遠縁の男の事を語り出した。




