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再びのお囃子

「……ここは、何処だ?」


黒い結界に包まれ、気が付くと雛と八来は無人の吉原街にいた。灰色の空と建物、街の入り口には黒い結界が張られている。

二人が今までいた吉原と全く変わらない。人の気配が無いのと空と建物の色が変わっている以外は。


「吉原……ですよね?」


「偽物の吉原っぽくねぇか?一瞬で人の気配もなにも消えているのはおかしいだろ」


ここにいるのは雛と八来と―――――――――― 一体の紛ツ神のみ。


「二種混合の紛ツ神……初めて見ました」


「俺は第二次大厄祭の時に見たな。あの時以来か」


一つの体に『清姫』と『川姫』の頭を持った異形。清姫は悲しみを、川姫は妖艶な笑みを浮かべたまま二人へと突進してくる。

八来と雛は左右に分かれて突進を避ける。八来は背の蛇から水のレーザーを発射し、雛は足全体に黄金の結界を張って強化すると飛び蹴りを仕掛けた。


「「!?」」


八来の放った水のレーザーは清姫の口から吐き出された業火の渦に絡め捕られ、勢いをやや失うと腕を変化させて出来た釣鐘に弾かれる。

雛の飛び蹴りは清川姫の手から発射された水の弾丸によって弾かれ、軌道を逸らされて躱される。


「こいつは……ちぃと厄介だな」


「そうですね……」


八来と雛は呟くが、言葉とは裏腹に表情は何処か楽しそうだ。嗚呼、戦闘狂の性。

こうなると、手段を変えて攻めるしかない。二人は視線を合わせ頷き合うと、再び紛ツ神に向かって走り始める。先を八来、その後を雛が付いて走る。

紛ツ神の清姫の顔が大きく口を開けて炎を発射するが八来の背の蛇が一斉に水を吹き付けて消火にかかる。消しきれなかった炎は杖に水を纏わせて回転させることによって打ち消した。

続いて川姫が水飛沫を弾丸のように飛ばしてくる。今度は雛が八来の背を踏みつけて飛び、手に持った石ころに気を通わせて強化。結界でコーティングされ強度を増した石を投げつけて相殺する。

続いて清姫の巨大な釣鐘が八来目掛けて振りかぶられるが、今度は雛が前に出て迎え撃つ。両腕に纏わせた篭手状の結界に更に気を注入し強度を上昇させて打ち抜いた。

ごぉぉぉんっ!と大きな音が鳴り響き、激しい音の振動により清川姫の動きが一瞬止まる。


「いぇぇぇぇぇっ!!!」


気合い一閃、八来の杖が水の瘴気を纏い紛ツ神の首と首の間から股間へと唐竹割の要領で真っ二つにした。


「……ん?」


直後、違和感を感じ即座に杖を引き戻す。

急所である体の中心線を守る様に立てた杖に水の弾丸が当たる。


「通りで斬った手ごたえが無い訳だ!」


金属ではなくまるで粘土を斬ったような柔らかい感触に八来は違和感を覚えていた。あれは今思えば、斬られたのではなく紛ツ神自ら分離していたのだった。


八来は即座に後方へと間合いを取るが、追いかけるように弾丸が次々足元を撃つ。

雛と八来の目の前で真っ二つになった紛ツ神は切れた断面から銀色の手を顔を胴体の半分を足を徐々に生やして再生し、完全に『紛ツ神・清姫』と『紛ツ神・川姫』の二体の紛ツ神に別れてしまった。


「大変です!分裂しちゃいましたよ!?」


「見りゃ分かるだろ!!来るぞ!!!」


川姫は八来へ、清姫は雛へと間合いを詰める。


(え!?速い……!)


一瞬のうちに二人は間合いを詰められ、八来は水のレーザーを受けて吹っ飛び、雛は釣鐘で殴られ大きく後方へと飛ばされる。


(素早さが、八来さんと互角。いえ、それ以上……!!)


八来と大きく距離を離された雛は空中で体を翻し、猫の様に体を回転させながら地面へと着地する。

直後、またも清姫が目の前へと間合いを詰めてくる。口を開け業火の渦を雛に叩きつけてくるが、目の前に結界の壁を張って防ぐ。

炎で視界が塞がれる中、背後に気配を感じ振り向くと目の前にはあの釣鐘があった。炎で雛の視界を覆った直後に神速の速さで結界の薄い背後に回り込んでいたのだ。


マズイと思う間も無く、清姫の釣鐘の巨大な一撃が雛の顔面を捕らえた。

瞬間、目の前を白い星が飛び意識が黒に染まる。


「雛ぁ!てめぇは毎回毎回いい加減にしろよ!?今回は何があっても助けに行けないからな!!!」


八来の怒声に意識を取り戻すと、雛は地面に仰向けに倒れていた。あちこち身体が痛み擦り傷が出来ていた。特に顔の左半分の痛みが酷く、先ほどの衝撃で左目の瞼が晴れたのか視界の半分が塞がっている。


「っ!?」


風を切る音に咄嗟に横に転がると、先ほどまで雛がいた場所に巨大な釣鐘が落ちてきた。否、馬鹿でかい釣鐘を両腕に生やした清姫だった。

急いで立ち上がると、清姫の一撃で解除されていた両腕の篭手結界を再び生成する。

だが、先ほどの清姫の攻撃で大きなダメージを受けてしまった為か、結界の精度が大幅に落ちていた。なんとか肘まで覆う篭手を生成することが出来たが、いつもに比べて硬度が低くなっていた。


「あ……」


釣鐘を両腕を交差させて受け止めたはいいが、一撃で篭手に罅が入る。更に左目が塞がっている為、左からの攻撃が分かり辛くガードをすり抜けてまた一撃を喰らってしまった。幸い、当たる寸前に後ろに飛んでダメージを軽減させたがすぐに間合いを詰められて逃げられない。


(結界を再生成出来ない……!)


先程の一撃で結界を生成するエネルギーが尽きてしまった。唇を噛む雛の目の前に釣鐘が迫る。


フォンっ!


釣鐘が空を切る。

雛は当たる寸前に釣鐘の横へと擦り足で躱し、身体を一回転し回転そのままの勢いを利用して紛ツ神の後頭部に回し蹴りを入れる。

常人なら気絶する勢いの一撃だが、相手は紛ツ神。ややぐらついたものの倒れることはなく、釣鐘の突きを雛の脇腹に入れてきた。

蹴りの体勢から慌てて片足で跳んで回避する。


(さて、どうしましょうか?)


結界を張るエネルギーは尽きた。能力が使えなければ満足なダメージを与えるのは難しい……。

考えている間に、清姫は釣鐘で地面を大きく打った。広範囲に広がる音の衝撃が真正面から雛を襲う。


(これは……躱せない!!)


音の衝撃波は結界を張らないと無効化できない。今の自分には攻撃を防ぐ手立てはない。


《ケェェ―――――ン》


絶体絶命の最中に、突如聞こえてきたのは狐の鳴き声。


《同胞の匂いに混じって狸の匂いもするが、まぁいい。麗二の頼みじゃ、手を貸そう》


そして、艶めかしい女の声


雛は無意識のうちに両手の親指と中指と薬指を合わせて狐の形にし、真っ直ぐに腕を伸ばした。


「狐狸囃子!」



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