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そういう仲 どういう仲?

「お客様、吉原は初めてで?」


「ああ」


高尾の酌を受けながら、不愛想に答える八来。

元々風俗には興味がないストイックな性格で、紛ツ神と成る前から吉原には軍の仕事での討伐以外では近づかなかった。しかも軍属時代には恋人もいたので全く持ってこの街には縁が無い。

そして現在は紛ツ神化の副作用か、ムスコに先立たれている状態……そういう機能が完全に停止しているので吉原一の美人がすり寄ってきてもすこぶる興味はない。センサーは今日も反応なし!

その横では雛が旺盛な食欲を発揮している―――――が、やはり場所が場所なだけ緊張しているのかいつもよりも食べる速さが遅い。


「今日は存分に楽しんでいってくださいな」


遊女たちが舞い踊り、琴や笛を奏で八来はそれらをあまり興味なさげに見ている。


「……」


ただ、運ばれた膳は手を付け、料理一品一品を細かく見て味わっている。

そんな八来の様子を雛は時折横目で見ていた。

どうしてか、遊女が八来の周りにいるのが落ち着かない。当の八来は興味なさげにしているが、雛は心が僅かばかりざわつくのだ。


「あらぁ、雛ちゃんどうしたの?」


「いえ……」


ローズに声をかけられ、雛は曖昧に微笑む。


「綺麗な方ばかりで、つい見惚れていました」


「雛ちゃんも綺麗よ?」


「え?」


どうにも上京してからは、小夢を含め自分の外見を褒めてくれる人が多いことに驚く。どうにも褒められ慣れず、頬を染めて照れくさそうに視線を斜め下に向けた。


「あ、ありがとうございます……」


「照れちゃって、可愛いわね~♪うちの子に欲しいくらいよ!」


どう返していいか分からず、言葉に詰まっていると八来の腕か雛の肩にまわされ抱き寄せられた。


「うちの世間知らずを口説いてんじゃねぇよ」


肩を抱かれて表情は見えないが、密着した背中にガンガン八来の不機嫌なオーラを感じる。


「いやぁだぁ!怒らないで頂戴、ちょっと本音を漏らしたくらいでぇ」


「本音かよ!絶対に雛はお前にやらんわ!!」


「正直に言うと、八来のオジサマもセットで欲しいの♪」


「誰がお前のものになるか!!お断りだ!!」


雛の頭の上でローズと八来の漫才(?)が繰り広げられる中、ローズの隣にいた美琴がその様子を見て微笑んでいるのが見えた。


「お二方、仲がよろしいですね」


「どこがだ!」


「そうでしょ?さっき会ったばっかりなのにねー、八来のオジサマ❤」


「その呼び方やめろ!!」


「八来さん、腕に鳥肌が立っていますよ」


抱き寄せられながらも雛は表情一つ変えず、冷静に八来の腕を見ていた。


「八来様と八塩様もとても仲がよろしいようで」


「そう見えるか?」


その問いに八来は雛の肩に依然腕を回したまま首をかしげて答え、


「そう見えますか?」


雛は嬉しそうに明るく答えた。


「最初見た時は親子かと思ったけど、まさかそういう仲だとは思わなかったわ~」


「そういう仲?」


意味が分からず今度は雛が首をかしげる。そういう仲とは一体どのような仲だろうか?相棒?それとも家族?


「言っておくが、お前が想像しているような仲じゃねぇぞ」


「へぇ、だとしたらどういう仲かしら?」


「誰が教えるか」


え?と声を上げたのは雛だった。

八来が自分をどう思っているのか、それを前々から聞きたかったがどうしても聞けず仕舞いの日々。


「ところで、ローズと言ったか?お前、ここの内儀と親しいみたいだが常連か何かか?」


この話はこれでお仕舞と八来が話題を変えてしまった為、今日も雛は疑問を口にする事が出来ず下を向く。八来の腕からようやく解放されると、再び食事を開始したがやはりいつもの勢いがない。


「アタシは吉原街の入り口でお花屋さんをやってるのよ。ここのお店にはお花を卸している訳」


宜しくね♪と、雛と八来にそれぞれ二枚の名刺を渡す。一枚目には『花屋ローズガーデン 店主ローズ』と書かれ、二枚目の黒い名刺には『男装パブ 秘密の薔薇園 副オーナー・ローズ』と書かれていた。


「一枚目と二枚目の差ぁおかしくないか!?ちょっと待て、男装ってどういうこと!?オネェBARじゃねぇのか!?」


「いやぁねぇ、れっきとした男装パブよぉ!オーナーは私の奥さんが経営しているの♪遊びに来てね!」


「遠慮しておく」


頭を抱える八来の横で雛は二枚の名刺を交互に見比べている。どのような場所かと八来に聞きたいが、あの様子を見るとまた不機嫌になってしまうかもしれないので止めておいた。


「楼主様」


遊女たちの間を縫って、着物姿の青年が一人部屋へと入ってきた。青い顔で娟焔に何かを耳打ちする。


「申し訳ありませんが、ちょいと席を外すでヤンス」


娟焔や雛達に 「ごゆっくり」 と言い残し去っていった。


「何かトラブルでもあったのか?」


「お気になさらず。ささ、もう一杯どうぞ」


高尾が酒を盃に満たすと、八来はそれをグイッと飲み干す。


((何か、嫌な予感がする))


八来と雛は従業員と娟焔のどこか焦るような表情を思い出し、不安に駆られる。

二人はどうにも勘が働くようで、この予感は見事に的中する事となる。


「あの、すいません、お手洗いはどちらでしょうか?」


もよおした訳ではないが、どうにも嫌な予感がぬぐえない雛は手洗いに行くふりをして部屋を出てみることにした。


「こちらを出て突き当りを左です」


「はい、ありがとうございます」


雛が部屋を出ると、従業員が数名慌ただしく廊下を行き来していた。その誰もが青い顔をしている。


「何か、あったのでしょうか?」


そんな中、一人の従業員に声をかけるも 「いえ、大丈夫です」 と一言残して慌ただしく去って行ってしまう。


「おや?雛ちゃん?」


聞いたことのある声に振り向くと、そこには紫色の着物を着た一人の色男が立っていた。


「銀龍さん!?どうしてここに?」


黄龍部隊のメンバーであり、八雷神の一柱『黒雷神』こと『飛崎 銀龍』。

メンバーの中では整った顔立ちの部類に入り、スタイルもいいが雛の印象は『蓮聖さんの椅子になったり、お湯をかけられて喜んでいる変わった人』というほうが強い。


「俺はここの常連なんだよ。雛ちゃんも女買いに来たの?いや、まさかな~そんな訳はないか」


大きく開いた胸元とその首筋には所々赤く虫刺されの跡の様なものが見え、その体から甘い香りが漂う。彼はどうやらこのお店で随分と堪能しているようだ。


「実は……」


雛はこれまでの経緯を銀龍に話す。


「あ~、成程なぁ。そういう訳か!それにローズちゃんも来てるの!?ふぅん」


「ローズさんとお知り合いなのですか?」


「知り合いというか……あいつから何か聞いてないのかい?」


「お店を二軒経営しているという事は聞きました」


「何だ、それだけかよ。まぁ、他に人がいたら説明するのは難しいか。あいつは……」


その時、玄関の方から何やら怒鳴り声が聞こえてきた。


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