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オネェと着物とスリと

今回から第五章始まりです!

「ちょっと、どういう事?私たちの縄張りで過激派のリーダー格が?」


明け方、死体が発見された場所で一人の背の高い女―――いや、オネェが後からやってきた白い獣に話しかける。

既に死体は無く、現場には数名の四神部隊の鑑識が残っているのみとなった。


遊郭などが立ち並ぶ街『吉原』の外れ。テナントが軒並み撤退して数年経った廃ビルの間の細い道の奥で原点回帰派のメンバーである一人の男が急所を刃物で刺されて亡くなっているのが発見された。目撃者は無く、公衆電話からの通報により発覚した。


「通報した人物の声は女性とも男性ともつかない声だったって鑑識の人が呟いているのを聞いたわ。中性の人物もしくは機械で加工したのかしらね?」


不思議ねぇ、そう言いながら首をかしげるオネェ。


「宣戦布告……でなければいいでヤンスけどねぇ」


立ち入り禁止のロープの外で獣は現場に残された血の匂いに鼻をひくつかせる。


「宣戦布告?誰からの」


「……いや、何でもないでヤンスよ。いやはや、仕事終わりに事件とは、嫌なもんでヤンスねぇ」


獣は大きなあくびを一つ。オネェもつられてあくびをすると、揃って現場を後にした。


****


「次はマルトクスーパーで卵と洗剤の特売ですね」


「その次はヤスイチ市場でキャベツと人参購入するぞ」


夕方、八来と雛は激安のチラシを片手に揃って特売スーパーのはしごをしていた。八来は昔懐かしい大八車を引き、そこには米俵や野菜が山と積まれている。

雛は両手に睨屋ネギがはみ出しているスーパーの袋をいくつも下げたまま、早足で人の波をスイスイとすり抜けながら歩いて行く。


何故、八来が大八車を引いているのかというと、話は数時間前に遡る―――――


「斎賀、俺は車を借りたいと言ったよな」


「うん、言ってたね~」


事前に斎賀に電話で車を借りたいと連絡し、彼の家に取りに来た八来は用意されたものを見て顔を引きつらせた。


「何故、大八車なのかなぁぁぁぁ?」


斎賀医院の裏庭に鎮座していたのは昔懐かしい大八車。それを見て、八来は斎賀の顔面にアイアンクローしながらツッコミを入れた。


「実はね~車は~車検中だから~使えるのは大八車だけ~なんだよ~あがががががが~~」


八来が手の指に力を入れると、緊張感のない間延びした悲鳴が上がる。


「こいつ、付喪神じゃねぇだろうなぁぁぁぁ」


「造ってから~まだ三年だから~大丈夫~」


――――――――という訳で、斎賀から無いよりはマシという訳で借りてきたのだ。



「今晩はサンマの竜田揚げにするか。雛、みそ汁は何がいい?」


「なめこのお味噌汁が食べたいです!」


「なめこか……大根は摺って入れるか?それとも細く切っていれようか」


晩御飯のメニューについて話し合いながら歩く。その足が同時にピタリと止まり、雛は後方へと回し蹴りを、八来は掌からずるりと杖を引きずり出すと大八車を置き後方へと飛んだ。


ぐしゃり!


ゴッ!


ガッ!


ゴシャっ!


雛の右足が後方からナイフを構えて突進してきた男の顔面を捕らえ、八来の杖が男の鳩尾を突き、後方から飛んできた白杖が男の右の裏膝にヒットし、何者かが男の後頭部に飛び膝蹴りをかました。


「え?」


「お?」


「あら?」


雛が、八来が、そして飛び膝蹴りをかました人物が同時に声を上げ、オーバーキル状態の男は白目をむいてその場に崩れ落ちた。


「あらあらあら!スリを捕まえるのを手伝ってくれて、どうもありがとうね!」


飛び膝蹴りを仕掛けた人物は赤い唇をほころばせてにっこりと笑う。纏った服も口紅と同じような真っ赤な色で短いスカートからは逞しいおみ足が、大胆に開けた胸元からはこれまた鍛え上げられたナイスバストの谷間が見えている。


「? ? ?」


雛はその人物の整った表情と逞しい胸元や衣服の上からでも分かるパンパンの上腕二頭筋を見て、頭にはてなマークをたくさん浮かべて固まっていた。


「すげぇな、オネェさん。そのハイヒールで猛ダッシュしてきたのか」


八来は派手なお姉さん……オネェさんの履いている真っ赤で大きなハイヒールを見て正直感心した。


「あらぁ、ありがとう!」


オネェさんは柔らかに波打つ長い金髪を背に払うと気絶した男の手からナイフを、もう片手に持っていた長財布も取り上げる。


「スリ?」


「あら、何だと思って蹴りを入れたの?」


「「殺気がしたから、つい反射で」」


八来と雛は示し合わせた訳ではなく、同じ感想を同時に呟く。オネェさんは一瞬ぽかんとしたが、すぐに吹き出して笑う。


「ぷっ!あはっ、あははははは!す、凄いわね、あなた達!しかも息ぴったり!!素敵だわ!!」


「そりゃどうも。そんじゃ、俺達はここで」


立ち去ろうとすると、オネェさんの後ろから一人の女性が現れる。


「ローズさん」


白く長い髪に白い肌の和服美人に呼ばれてオネェが振り向く。和服美人は男の足の間に挟まっていた白い杖を拾いあげた。


「美琴さん!ほら、お財布取り返したわよ!」


「ありがとうございます。ほら、貴女もお礼を言って」


和服美人の後ろには小柄な着物姿の少女が一人。美琴と呼ばれた女性にどこか面影が似ている少女は深々と頭を下げた。


「この二人もスリ捕まえるのに協力してくれたのよ!私より、彼等にお礼を言ってちょうだい」


「どうもありがとうございます、お陰で店の売上金を取られずに済みました。お二方にもお礼を……」


和服の美女と美少女に揃って頭を下げられる。


「いや、単なる条件反射だ。礼を貰うようなことは何もしていない」


「私も八来さんと同じ様に、ただ殺気に反応しただけです。お礼を貰うようなことは何もしていません」


二人は正直に、きっぱりと言い放つ。


「あらあら、奥ゆかしい」


事実を述べただけなのに、女性には遠慮をしていると受け取られたようだ。本当に、殺気に反応しただけだというのに。


「ローズさん」


美琴はローズに目配せすると、オネェは頷き目にも止まらぬ速さで二人の肩をガッシリ掴む。


「吉原街の者はね、義理堅いのよ。恩は恩で返すの!さぁ、観念しなさい」


「は、離せ!」


腕を振りほどこうとすると、いつの間にか周りを着物を着た美女集団に囲まれていた。


「わぁ!綺麗な女の人がいっぱいです!」


「雛、呑気な事言ってるんじゃねぇ!これから晩飯の支度があるだろうがぁぁぁ!!」


「あら、でしたら私のお店でいくらでもご馳走いたしますよ?」


美琴の一言に八来は動きを止め、ゆっくりと振り返る。


「その言葉に二言は無いな?」


八来の目が怪しく光り、その脳裏には《一食分食費がタダ》という文字が埋め尽くされている。

ご存じの通り、雛の食欲はすさまじく家計はいつも火の車が業火の如く。一食分とはいえ相当な食費がかかるのだ。それがタダになるのならありがたい!


「二言はございませんよ」


「そうか……因みにここのヒヨコみたいなチビ助はよく食べる。一人で相撲部屋のちゃんこ鍋をぺろりと平らげ尚且つお代わりを要求する胃袋を持ってるんだがそれでも?」


言いながら親指を後方の大八車へと向ける。あの大量の食品が一週間は持たない、そう付け足しながら。


「はい。恩は恩で返させていただきます。沢山お料理を用意させていただきますので、好きなだけ召し上がってくださいな」


美琴の微笑みに八来は大きく頷くと、着物を見て目を輝かせる雛の頭に手をやった。


「雛、好意には素直に甘えとこうぜ。遠慮せず好きなだけ食わせてもらいな」


家計が助かる、と八来は夕陽を仰ぎながら地べたで目を回しているスリに感謝した。


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