雛は酔い始め、毒蛇は笑う
八来忠継は、一度全てを失った。
家族を、友を、同僚を、恩師を、自分の地位を、命を全て裏切りの連鎖により失った。
絶望の果てに無理やり与えられたのは新しい生と新しい思考。以前は進んで人を傷つけたりすることは好まず、やむを得ない場合に限り闘っていた。
だが、今の自分は闘う事に飢えに飢え、死闘の果てに命を失うならそれは本望だと言い切る。闘いたい、壊したい、暴れたい、強いものと妖怪と神と能力者と紛ツ神と闘って果てたい。
「満たしてくれよ…俺を少しでも満たしてくれよ」
獲物を前にした猫、いや、蛙を前にした蛇の様に目を細め無防備に紛ツ神に突っ込んでいく。
紛ツ神は口内の丸めた薄い鉄板を伸ばして八来の首を狙うが僅かに身をかがめてそれを躱す。素早く巻き戻った舌を再び口内に納めると、今度は二本の足で立ち上がり指先から槍を何本も発射する。
「ははっ!一本貰うぜぇぇぇ!!」
飛んできた槍を躱し、または叩き折りながら紛ツ神に接近する。近距離から放たれた槍のうちの一本を掴み、矢じりを手刀で叩き落とすと棒の部分の中心を持ってくるくると振り回した。
「ひーなー、お前は黙って見てていいぞ!手ぇ出すんじゃねぇ!あと、携帯電話の電源入れて紛ツ神の照会プログラム起動させろ!」
「けいたいでんわ?」
「……(携帯電話知らないとか、マジかよこの餓鬼…)」
八来は今日何度目かの深いため息をつくと、視線を紛ツ神に向けたまま雛へと自分の携帯電話を投げる。雛は飛んできた携帯電話を片手で受け取り…どうしていいのか分からず固まった。
「パソ子!あと任せたぁ!」
八来の声に反応し、携帯電話の電源が自動で入る。続いて 《畏まりました》 と落ち着いた女性の声が突然聞こえてきたので雛は両肩を跳ね上げて驚いた。
《八塩 雛様、初めまして。私はPC-NH-21と申します。あなた方のご自宅のハウスコンピューターとして派遣された特殊AI搭載の人工知能です》
「ぴーしーえぬえいち、にじゅういち…さん?」
《八来様と同じ様にパソ子と呼んで下さい》
「パソ子さん、は、初めまして!えぇと、紛ツ神の照合プログラムの起動はどうすれば…」
《すでにプログラムを立ち上げ、現在照合中です》
「あ、ありがとうございます!」
毎年増え続ける紛ツ神の情報は全て陰陽庁にて管理され、四神部隊や俗に言う賞金稼ぎ『解体屋』に携帯電話などの媒体を通じて無料で提供される。
《検索完了。目の前の個体は【大蝦蟇】と断定しました。過去のデータによりますと槍を射出、毒液の噴霧による攻撃あり》
「…凄いですね」
《八来様の実力なら苦戦することもないでしょう。八塩様、戦闘の邪魔にならない様に避難しましょう》
「はい」
攻撃が飛んで来ない場所まで移動すると、公園のジャングルジムの頂上まで昇り八来と紛ツ神の戦いを見守ることにした。心の中で何かがうずうずするが、八来から 「手を出すな」 と言われた以上は大人しく従っておこう。
大蝦蟇紛ツ神は大きな口を開けると、中から薄い鉄板を丸めた舌を見せる。それが瞬時に伸びて八来を襲った。彼の首を飛ばすように伸ばされた鉄の刃は何もない空間を通り過ぎる。
「良いねぇぇぇぇ!やっぱこうじゃないとなぁぁぁ!!」
素早く横に飛んで鉄の舌を躱すと、大蝦蟇の横へと円を描く様に移動する。すると、大蝦蟇の横腹のイボもといボウリングの玉ほどの大きさの鉄の玉が一斉に八来目掛けて発射される。だが、それらの玉の間を八来はぎりぎりのところで躱していく。やがて全ての玉が尽き、大蝦蟇は舌の刃での攻撃に切り替える。巻き込んだ舌がまっすぐに伸び、躱されると舌を横に振って斬りかかってきた。
「はははははははは!!」
上半身への攻撃は体を逸らせたりしゃがみ込んで躱し、下半身への攻撃も僅かな動きで躱していく。息も尽かせぬ攻撃を八来はただただ狂気じみた笑い声をあげて避けていった。
「面白れぇなぁぁぁ紛ツ神はぁぁ!!そんじゃそろそろ反撃といきますかぁぁぁぁ!!」
棒を構え跳躍すると、大蝦蟇の右の目を突いて破壊する。棒を突き刺した勢いのまま蝦蟇の背に飛び乗り、己を追いかけてきた舌の刃を棒で払い落とす。その勢いのまま蝦蟇の背を叩いてヒビを入れ、すかさず棒の先端を跳ね上げて舌の刃へと棒を突き刺した。貫通した棒を横に振り払うと、舌の刃は罅割れ砕け散る。
「さぁて、次はどんな手で来るぅぅぅ?」
八来の挑戦的な声にこたえるかのように、蝦蟇の背から金属製の槍が次々と飛び出してくるがこれも上空へと高く飛び難を逃れる。
「ひゃっはぁぁぁぁ!!」
頭を下にして落ちたかと思うと、棒の中心を持ち回転させて槍を次々へし折っていく。
「すごい…」
目の前で行われるのは圧倒的な破壊行為。人非ざる者と成った男と、妖怪を模した人外の戦い。それが何故、こんなにも
「羨ましいのでしょうか…」
心が躍る。どうしようもなくもどかしい思いが全身を駆け巡っていく。今日で一体何回目だろうか…こんなにも、こんなにも母の言いつけに背きたくなったのは。
ああ、拳を当てたい
勢いよく回し蹴りを放って当てたい
当たった時の衝撃が手から腕へと当たるあの瞬間をもう一度味わいたい
跳んで 跳ねて 回って 駆けて 私の持てる全てを使って
「戦いたい」
うっとりするような吐息と共に零れた言葉を八来は聞き逃さなかった。
「そうそう、そうやって正直でいろよ…」
紛ツ神にも雛の言葉が聞こえたのか理解できたのかは不明だが、まるでその言葉に応えるように大きく口を開けて背中をぶるりと震わせた。すると背に尻から首まで一本の線が入り、そこを中心として左右に開き、何かが徐々に上へとせり上がってくる。
そこから現れたのは先ほど雛を襲ったピアスの男。だが、どういう訳かぼろぼろの忍者装束を纏い、腕にはこれまた使い古された篭手を装備していた。蛙が新しく赤いゴム製の舌を伸ばして喉の奥から忍び頭巾を取り出して男に被せる。すると白目を向いていた男が目を覚ました。
『は!?え!?俺、何してたっけ…え?これどういう状況!!?』
男は直立不動のまま、目だけを動かして喚く。目の前には先ほどのおっかないオッサンと幼女(※成人済)がいる。しかも自分は金属製の大きな何かの背に立っている。ナニコレどうなってるの?
「お、二体二でやろうってかぁぁぁ?」
八来は楽しそうに言うと再び棒を構え、雛は何故か潤んだ目で興奮気味にはぁはぁと荒い息を繰り返している。
男は思った。 詳しくは分からないが言えることはただ一つ 「俺マジでピンチ」 だ!!
『動かねぇし!どーなってんだよ畜生!!』
喚く男を蛙のゴム製の舌が捉え、雛目掛けてぶん投げた。
「あ」
間の抜けた声と共に、雛はジャングルジムから飛び降りる。男の体は雛のいた空間を通り抜けて遥か後方の木へ激突し、派手に土煙を巻き上げた。
「雛、一つ言っておく」
「ひゃあ!?は、八来さんいつの間に!?」
いつの間にか雛の背後へと移動した八来は雛の両肩に手を置いてその耳元に囁いた。
「お前が実家で言われたことは忘れろ。それはお前の家の常識であって、この都市で生きる連中全員の常識じゃねぇからな。家を出たんならもうお前は実家の言葉に縛られる必要はない。だから」
土煙の中から何かが飛び出してきた。それを合図に八来は雛の背を軽く押す。
「好きなように闘え。実家からグダグダ言われたら俺や天照がきっちり説得してやる」
八来の言葉に雛は頷くと、満面の笑みで己の顔面を目掛けて飛んできた十字手裏剣を裏拳で叩き落とした。
「分かりました…」
恥 家名に泥を塗る行為
でも、この場所では違う
己の心を やりたいことを肯定してくれた人がいた
闘う事が非常識ではないと教えてくれた
嬉しい 凄く嬉しい
良いのですね?
私が こんな私が
「…己の心に正直に生きても」
雛は己に言い聞かせるように呟くと、半身の構えを取り右手を前に左手をやや後ろに構えて相手を待った。
(お爺様、再び酔っても宜しいのですね?)
構えを取った雛の脳裏に亡き祖父の姿が浮かんだ。
****
雛の祖父、八塩 久枝丸。彼は味方が誰もいない実家で唯一彼女の味方だった。
神社の神主ながら古武術の腕は達人級。代々伝わる秘術と鍛えぬいた己の肉体で悪さをする妖怪や紛ツ神を数多く退治してきた。
幼い雛の武術の才能を見抜き、秘術が使えずとも生き残れるよう己の持つ全ての武術を教えこんだ。更には、裏山でサバイバルの技術や独自の鍛錬法も叩き込み一人きりで生きていけるよう教育を施した。今思えば、自分亡き後この家で孤立するであろう雛の為に教えてくれたのだろう。
事実、祖父が亡くなった後両親からの虐待という名の放置が始まり、食事もまともに用意してもらえなくなった雛は家を抜け出して裏山で木の実や果物、動物を狩って生きていくことが出来た。
「雛、お前は凄いなぁ。流石は儂の自慢の孫娘じゃ!」
鍛錬中は厳しい祖父であったが、根は超が付くほどの孫馬鹿で鍛錬が終わると深いしわが刻まれた顔をくしゃくしゃにし猛禽類のような鋭い目じりを下げて雛を褒めまくりこれでもかと可愛がった。
それに答えるように雛の実力は凄まじいスピードで上がり、9歳の頃にはそこいらの粋がったチンピラなら苦も無く制圧できるまでになっていた。
そしてこの頃、悪さをする妖怪や人間と闘っている最中にいつも奇妙な感覚に襲われるようになる。相手と対峙した時、五月蝿い位心臓が高鳴り頭がほわほわクラクラするのだ。
だが、相手に一撃をいれようと足を踏み出した瞬間それは無くなる。その代わりに己の全身の感覚全てがいつもの倍鋭敏に研ぎ澄まされる。そして、どうしようもない位に『楽しい』と感じる。ほわほわとクラクラ、そして研ぎ澄まされる感覚が闘いの最中にぐるぐると繰り返される。
相手から見れば、目の前の年端のいかない少女はまるで酔っているかのような様子から一転、恐ろしいほど重く正確な一撃が放たれるのだ。そしてまた熱に浮かされた顔で微笑むと予想外な攻撃をしてくるのだ。
これを見て祖父は 「雛は闘いに酔うておるのだな」 と笑った。
「酔う?とは何ですか」
「心を奪われることだ。雛は闘う事が心底好きで楽しいのじゃろ」
縁側で昼間から瓢箪に淹れた酒を飲み、隣に座って茶を啜る孫娘の頭を撫でる。
「闘いの時は存分に酔うがいい。命がけの闘いこそが我等にとって最高の美酒。存分に飲み干して大いに酔え」
祖父の体から漂う強い酒の匂い。その匂いに雛は闘っている時の様な酔いを感じて少しクラクラした。酔う事は楽しいし大好きだし気持ちいい。もっと、もっとこんな思いをしたい。お爺様の教えを受けてもっともっと『酔い』たい。
だが、雛の願いはこの半年後、祖父が紛ツ神の強襲を受け亡くなった為に絶たれることとなる。
それから父母は雛への無関心を深め、妹が生まれると使用人 に彼女の世話をさせ時々しか様子を見に来なくなってしまった。様子見といっても彼女の姿を見て何かにつけ 「はしたない子」「秘術も使えない出来損ない」 などと説教をするだけだったが。
それでも雛は離れに人がいないのをいいことに、こっそり部屋を抜け出し裏の林で一人稽古に励んでいた。
幸い、家の者が雛に無関心だったおかげて今までずっと気づかれることはなかった。母には闘う事ははしたないと言われたが、それを雛は独特のオツムで 「一人で稽古をするのは『闘う』事ではないので大丈夫」 と捉えていた。なのでブランクは無く身体能力を磨くことは出来た。
(ずっと稽古を続けていてよかった)
本当はまた闘いたかった。
八来さんが闘うのを見て昔の様に胸が高鳴った。
頭のてっぺんからつま先まで思い通りに動かすことは難しい。技を出すタイミング、体の運び、頭で考えた通りにするのは難しい。だが、全て思い通りにできた時の快感、最高の体の動きを相手に叩き込んだ時、喜びが溢れる。
技と技とのぶつかり合い、ギリギリのやり取りの中にある『最高の瞬間』が大好きだ。
「八塩雛、この戦いに全力で『酔って』いきます!」
雲の上にでもいるかのような浮遊感の中、雛は嬉しさのあまり高々と宣言した。
『何?何で体が勝手に動くんだよぉぉぉぉ!?』
男は叫びながら砂煙から出ると、背負っていた日本刀を抜いて斬りかかってくる。やや前かがみの状態で抜き放たれた刃は弧を描いて雛の肩を狙う。雛は素早く男の懐に潜り込んで刃を躱すと、鳩尾に腰の入った拳の一撃を当てる。
その速さと無駄の無い動きは八来の目から見ても十分な威力があった。だが、
カァァァァンッ!!
突如分厚い鉄板を叩いたような音が辺りに響き、雛は慌てて後方へと滑るように移動して間合いを広げる。
威力のある一撃は男の忍び装束の鳩尾部分を破り確かに内部まで浸透したはずだった。だが、破れた布から覗くのは薄い鉄板。
見たところずいぶん薄い様だが、広範囲に広がった罅は一瞬で消え失せる。それが僅かに波打ったかと思えば次の瞬間には細かい棘を持ち、沢山の丸い凹凸を浮かばせている。そして瞬きの間に有刺鉄線がいつの間にか巻き付かれているなど目まぐるしく形を変えていった。
雛の手には棘で刺されたような傷がいくつもあり、ぼたぼたと地に赤い滴を落としている。拳が当たった瞬間は何の変哲も無い薄い鉄板で割った感触はあった。だが、次の瞬間に鉄板に有刺鉄線が張られ拳を引き抜くタイミングで刺されてしまった。
間合いを離し、再び男へ向かおうとしたその時ズボンのポケットの中に入れた八来の携帯電話からパソ子の声が聞こえ足を止める。
《データ照合検索結果0件。新種の紛ツ神ですので十分警戒してください》
新種の紛ツ神だと!?
パソ子の声に八来は蛙の体当たりを躱しつつ、首をひねった。
言われてみれば今までの紛ツ神は破壊と殺戮の本能のみで動き、体は不用品とされたガラクタで構成されている。
だが、雛と対峙する男は纏っている衣服や装備品は紛ツ神と同じく廃棄品だが服の内側に再生可能の金属を潜ませ、更に素体は生きている人間。今までのパターンではありえない。
《新種の紛ツ神は呼称を『自来也』といたします。引き続き討伐をお願いいたします》
「大蝦蟇に自来也ときたもんだ。てぇことはさしずめ俺は大蛇丸かね」
冗談めいて呟く八来の影が揺らめき、月の光の下でぐねぐねと形を変えていく。そしてそれは八本の首を持つ大蛇となった。
****
「はは…やはり久しぶりだと、ドジを踏んでしまいますね」
利き腕から血を流しながらも雛の表情は明るかった。間合いを取ると怪我をした手にハンカチを巻いて止血する。こんな事なら手の保護用の皮の手袋を持ってくるべきだったと後悔した。
(これは厄介ですね。今まで会った妖怪さんにはこの様な能力を持った方はいなかったですし…。ん~、能力的に未熟ですが『アレ』を試してみましょうか?)
息を整えて前方を見据えると紛ツ神『自来也』は悩むような雛の表情に勝ちを確信したのか下品にゲラゲラと笑いだした。
何故か変な服を着せられ、体の自由は効かないが人をコケにしたクソガキをいたぶることが出来るのはひどく気持ちがいい。きつくお仕置きをした後、あのおっかないオッサンも始末してやろう。
自分の体の自由が利かないという事をすっかり忘れ、どうやって少女(実際には成人済み)に先ほどの仕返しをしてやろうと思案していると少女は目を閉じ大きく深呼吸する。
『どうしたぁ~?怖くなったかお嬢ちゃ 《グシャッ》 っ!!!?』
自来也の言葉が雛の顔面正拳突きによって中断された。
自来也の内臓特殊金属は顔面の攻撃に備えて黒い鉄仮面を生成してガード。勿論、棘も付けたが雛の拳は棘を砕き鉄仮面を割ってしまった。
「……あ、良かった。成功しました!」
勢いよく吹っ飛んでいった自来也にホッとした顔をしながら追撃するべく追いかける。
彼を追い越し、背後に回るとその背中に蹴りの一撃をお見舞いする。自来也は瞬間的に鉄板と有刺鉄線を生成するが、またも雛の一撃はそれを粉砕して生身の体にダメージを与える。
(雛のやつ、一体どうして!?)
のらりくらりと蛙の攻撃をかわしながら雛の戦いぶりを横目でちらちら見ていた八来はあることに気が付く。自来也の返り血が雛の拳から僅かに浮いている。まるで見えない何かにコーティングされているようだ。
(もしや、あれが雛の家の『秘術』か?)
天照には雛が多少は実家に伝わる秘術を使える、という話しか聞いていない。
「パソ子の奴が何か詳しく知ってねぇかな…」
呟く八来の頭上に大きく飛び上がった大蝦蟇がボディプレスを仕掛けてくる。
迫りくる銀色の巨体を見上げると素早く横に移動する。大蝦蟇の攻撃範囲外に入るにも拘らず、八来は何故か杖術の構えを取った。
半身の構えを取ると刀と同じ持ち方をしていた手―――前に持っていた右手を逆手に変え縦から真横へと棒を振る。そのまま頭のすぐ上へと持ち上げる。
直後、刀で言えば刃に当たる部分に大蝦蟇の横腹が当たった。
「ぃえぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
裂帛の気合いと後ろの足を前へ滑るように移動させ、同時に右手に捻りを加えて棒を横から縦前方へと振り下ろす。
大蝦蟇の横腹に棒の先端が突き刺さり、そのまま前方へと飛んでいく。
「もうちぃぃぃぃっと遊んでいたかったがなぁぁぁぁ!雛達の方が面白そうだからお前はもういらねぇぇぇよぉぉぉぉ!!」
大きく跳躍し、蝦蟇の頭に棒を深く突き刺す。すると棒を中心にヒビが広がりやがて全身へとまわっていく。
棒を突き刺した直後、大蝦蟇への興味を無くしたのか八来は踵を返し雛の方へと向かった。その背に薄いガラスが罅割れるような甲高い音が聞こえてきたが一瞥もせず歩みを続ける。
大蝦蟇だったものは粉々に砕け、黒い塵の様になって夜空に溶けていった。