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雛で毒蛇を釣る

「面白い奴だと思ったんだがなぁぁ」


雛を置いて先に帰宅した八来は家の電気も付けずに暗い居間で不機嫌に呟いた。


頑なに戦うことを拒否する態度が、そして闘いを『家の恥』と侮辱されたことが心底不愉快で仕方ない。

八来にとって『戦』と『闘う』ことは己の存在と生を証明する唯一の手段。雛はその手段を持っているにも関わらずそれを否定する。それが八来には理解できなかった。


(それに俺の攻撃を受け止めた時の眼…下手すればあのガキは)


先程のやり取りを思い出し、  「理解できない」 と渋い顔をして煙草を咥えライターで火を付ける。


《八来様、おかえりなさいませ》


突如聞こえてきた女の声に八来の両肩が跳ね上がる。


「んなっ!?」


家に入った時に気配など一つも感じなかった。雛とは違う落ち着いた大人っぽい声は上から聞こえてきたが、今度は自分のすぐ後ろの壁から声が聞こえてきた。


《驚かせてしまい申し訳ございません、私はこの家のハウスコンピューターのPC-NH-21九十九メイド型と申します》


名乗り終えると同時に目の前に一人の女性が現れた。藍色の着物にフリルの付いた白い前掛けという女給スタイル。瞳の色は澄んだ水色、肌の色は好けるように白く髪の色は常時桃色から水色と頭頂部から毛先まで波のようにグラデーションで変化していく。

嫋やかな笑顔を向ける女の姿は時折幽霊のように向こう側まで見えるほど透けている。


「ハウスコンピューター?立体画像付きとはまたハイテクな」


機械などの技術の進歩は妖怪や精霊の出現によりさらに飛躍的に進化した。この国は古来より長く使われたものに魂が宿り人を模して動き出す。そう、付喪神の存在がある。長い時を経て使われたAIは魂を宿し付喪神へと進化した。


陰陽庁は付喪神と化したコンピューターを管理し、複製、様々な厳しい条件付きではあるが一般へと販売していった。勿論値段はかなり高額で豪邸が一軒余裕で建てることが出来る。


「家の管理用付喪神を購入した覚えは無ぇんだが?天照の差し金か?」


《はい、天照大神様の命によりこの家の管理を仰せつかりました》


(ああ、成程。監視か)


世間知らずの雛だけでは自分の監視は荷が重すぎる。それで大金積んでこのコンピューターに監視役をさせたか。


「で、ハウスコンピューターって何が出来るんだ?」


《お声かけくだされば家の照明のオンオフからお風呂、コンセントでつながっている家電の管理が出来ます。その他、本部からの特別指令を携帯を通じて連絡させていただくことも可能です》


「うわ、すげぇ。流石セレブ御用達の付喪神さまだ」


特別指令が来るという事は、逆に言えばこちらの生活のあれこれも天照に筒抜けになる、ということも在りうるかもしれない。うわ、この仮説こわい。


《八来様、八塩様が先ほどあなた様と交戦された場所から動いていません。通信機能を使って呼び出しいたしましょうか?》


「俺達の携帯電話のGPS追跡までお手の物って訳か?」


交戦のことまで筒抜けになっていたという事実に先ほどの仮説が当たったな、と八来は苦笑する。


《どうしましょうか?》


「…放っておけ。暫くすりゃ帰ってくるだろ」


先程のやり取りからすでに三十分以上も経過している。箱入りのお嬢様の事だから、途方に暮れて路上で

べそをかいているかもしれない。


《八塩様は世間の事には疎い方なので、 「荷物を持ってあげるよ」 「飴あげるからこっちへおいで」 などと言われたら疑いもせず付いていくでしょう。確率の計算をしたところ99%という数字が出ました。もしも、暴行されて死に至るような事態が発生した場合、天照大神様から呪いを受けている八来様も死亡します》


これは遠間回しに 「雛の身が心配なので、迎えに行ってあげたら?」 という意味なのだろうか?


「……」


確かに、雛に死なれるのは困る。あのクソ女神も面倒くさい呪いをかけてくれたものだとため息をつきたくなる。


(雛が誘拐されたら、か)


思えば自由の身になってから一度もまともに戦っていない。誘拐などというセコイ真似をする奴らにこの苛立ちを全てぶつけたい、ぐちゃぐちゃになるまで壊したい、そして出来ることなら命のやり取りを心の底から楽しみたい。


紛ツ神以外の場合は特殊能力持ちの人間か妖怪だとなお良し。よく力の無い人間をいたぶる奴がいるが、あいつらは自分もまた狩られるという立場にあるということが解っていない。そういうやつらの喧嘩を買って十分に楽しんで立場をよーく分からせてやるのも八来は好きだった。

お徳用骨付き肉もとい肉サンドバックが向こうから歩み寄ってきてくれるのだから、存分に技を試してやらなければ失礼だろう。


「…ん?」


不意に金属がジャラ…と重く擦れるような音が聞こえた。一度だけではない、その後何度も激しくジャラジャラと激しさを増していく。

兎に角うるさい、物凄く五月蠅い。だが、目の前のハウスコンピューターは何も聞こえていないのか何も反応せず無表情のまま立っていた。


「お前さん、聞こえているのか?それとも無視してるのか?」


《何か異常がございましたか?私のセンサーでは何も異常は感知できておりません》


聞こえていなかったか。

やれやれとため息をつくと、鎖の幻聴を振り払うように頭を軽く左右に振る。


「天照から直々に俺の監視を受けてるなら、『縁繋ノ鎖』についての情報を持ってねぇか?例えば、急に鎖を打ち鳴らす音が聞こえる理由とか」


《それは繋がれた相手に危険が迫った時のアラーム機能です。八塩様はたった今、三名の男性と接触されました》


何だそれは?相変わらずあの女神様はふざけたことに全力だな。アラーム音にしろもう少し何かあっただろ!ジャラジャラ物凄く五月蠅いし他の音が聞き取りづらいし後日改良を要請するから覚えてろよ!!


「えーと、PC-NH-21…で名前合ってるか?」


《正式名称が長くて呼び辛いようでしたら『パソ子』と呼んでいただいて構いません》


「パソ子、雛の奴の現在地はさっきと変わらないのか?」


《いえ、近辺の公園の林の奥へと移動しています》


あ、よく薄い本とか男性向けのアレな本みたいな展開になる奴だ。これは確かにマズイ。


「出かけてくる。戸締り頼むな」


《かしこまりました、お気を付けて》


八来はすっかり短くなった煙草を灰皿に押し付け、新しい煙草に火を付けて銜えると足早に家を出た。


(さっそく婦女暴行するような屑退治が出来る。ウォーミングアップに丁度いいな。それに雛のやつを傷ものにされて精神壊されでもしたら今後の扱いがめんどくさくなる。それだけは勘弁してもらいたい)


自分だけではなく繋がっている人間まで壊れるのは流石にごめん被りたい八来だった。


****


「あ、あの…すいません、荷物を持っていただいて」


雛はあの後、地べたに座り込んではらはら涙を流しているところを三人の若者に声を掛けられ、大荷物は大変だろうと家まで送ってもらうことになった。

だが、ルートは大幅に外れ何故か公園の奥の林へと彼らは進んでいくが雛は「きっと近道なんですね」と一人納得し怪しむことなく付いて行っている。流石は純真無垢。


「家まで持っていただくのは申し訳ないので、ここまでで大丈夫ですよ」


声を掛けるが男たちは雛を無視して更に進む。


「…あの…?」


雛の疑問の声に男たちの足が一斉に止まる。持っていた荷物をどさりと乱暴に床に投げ捨てるとニヤリと粘つくような下品な笑顔を彼女に向けた。


「それじゃあ、お礼してもらっていいかなぁ」


三人のうち、過剰なほど 両耳にピアスを開けた男が雛へと歩み寄る。


「重たいもの持ってやってたんだ、お礼するのが常識だよなぁ?」


両腕にタトゥーを彫っている男がニヤニヤ笑いながら舐めるように雛の頭のてっぺんからつま先まで視線を向ける。


「世の中ギブアンドテイクって知ってるよねー?」


丸坊主の男が雛の手首をいきなり無遠慮に掴んだ。


「はい、では私の家でお茶でもいかがでしょうか?」


雛はにっこりと微笑みながら答えるが、男達は何故か派手に吹き出し堪え切れず大笑いしだした。


「?」


私、何か可笑しなことを言いましたか?と雛は小首をかしげるが男達の笑いは未だおさまらない。


「うっわ!何だこの餓鬼!今どき珍しくね!?」


坊主頭の男が笑いながら雛の肩を掴もうとする。だが、上半身を僅かに左に動かしただけでそれを躱した。


「ごめんなさい、ちょっと手が痛いです…」


申し訳なさそうに雛は訴えるが男は手を躱されたことに立腹したのか「うるせぇよ!」と怒鳴りつけ雛の手首を一層強く握った。


「痛い!」


雛は声を上げながら掴まれた手を巻き込むように回して己の胸元へと引き寄せる。すると、男の手はあっさり雛の手首から外れてしまった。武道でいうところの解手をした後、流石に鈍い雛も男たちの様子が怖くなりすべるような足捌きで後方へと間合いを取った。


(何だろう…この人達は?優しい人のはずなのに何か怖い)


「妙な真似するじゃねぇか…。おい、さっさと捕まえてお礼してもらうぞ!」


タトゥーの男が声を上げると残り二人が雛の左右に移動して両腕を掴む。解手で手を外されないように腕を絡ませてある為外せない。


「どうする?殴って意識失わせたほうがいいか?」


「意識あった方が興奮しねぇか?」


「じゃ、このままいくか?」


男達はげらげらと品の無い笑い声をあげると、タトゥーの男が雛の上着の襟に手をかけた。


「…い、嫌っ…」


これから何をされるかなど雛には解らない。だが、何か酷いことをされるだろうという事だけは感じた。



嫌だ 怖い 恐い 止めて 止めて !!



殴られる、そう予感して顎を引き目を閉じた。だが、いつまで経っても何も衝撃は起きない。代わりに  「カシャリ!」  というカメラのシャッター音が響いた。


「あ?何だオッサン?」


「通りすがりだ。アホな餓鬼が嫌がる幼女もどきを無理やりエロ本であるある展開にしようとしているから、写真撮っていただけだ。悪いか?」


聞き覚えのある声に目を開けると、そこには携帯電話を片手に男三人に鋭い視線を向けている八来の姿があった。


「見てるだけならさっさと立ち去れよ」


「そうもいかないんでね」


喋りながら八来は携帯を持ったまま無造作に三人に近づく。


「邪魔する気か?あ?」


タトゥーの男が無防備に近づいてきた八来の顔面目掛け拳を放つ。それは武道経験者のそれではなく、八来にしてみれば型もなっていないし腰も入っていない全くのど素人。

パンチや蹴りは本来筋力だけで放つものではない。足の運びや腕の動きなど全身を使ってこそ大きな威力を生む。


「おう、そのつもりだが?」


鈍い音と共に 「いぃっ?!」 と間抜けな声が上がった。

声の主は八来ではなく攻撃を仕掛けたタトゥーの男。顔面に拳が当たる瞬間、僅かに身を庇めて顎を引き、一撃を額で受けたのだ。

男の腕が伸びきり、拳の威力が完全に発揮される前に距離を詰めて受けたので額はそれほど痛まない。寧ろ、威力の乗っていない拳に頭突きを食らった男の方がダメージが大きい。


「そっちから攻撃をしてきたって事で、これから俺のすることは正当防衛になるなぁぁぁぁ」


携帯電話を上着の内ポケットにしまうと、相手の右腕を掴んで引き寄せて逆間接目掛け己の肘を叩き込む。ごきり、と嫌な音を立てて男の右腕はあらぬ方向に曲がり、甲高い悲鳴が上がった。間髪入れずに男の髪の毛を掴んで引き下げると顔面に膝を叩き込んでやった。


「っあ…」


タトゥーの男は白目をぐるんと白目を向き、膝から崩れ落ちて動かなくなった。それを一瞥することなく、残った二人へと滑るような動きで一気に間合いを詰める。


「次」


先程の楽しそうな様子から一遍、飽きたのか何の感情も篭らない声で言い放つと雛を拘束していた坊主頭の脳天に踵落としを喰らわせる。更に八来の軸足が跳ね上がり今度は顎を捕らえた。


「ラスト」


空中で体を捻って着地すると、一足飛びでピアス男の目の前にまで迫った。男は咄嗟に雛の体を盾にしようと引き寄せるが、その時にはもう目の前から八来は消えていた。


「…つまらねぇなぁ」


男の首筋にひやりとした感触が当たる。背後に回り込むと同時に男のズボンのポケットから見えていた小型のナイフを抜き取り、相手の首に押し当てたのだ。


「動くんじゃねぇぞ?ちょっとでもおかしな素振りしようものなら即座にお前の頸動脈に刃がめり込む事になる。死にたくなかったらまず女を離せ」


ピアスの男は ひぃ! と情けない声を上げると雛の手を離す。男の自由になった手を後方に捻り上げ、膝裏を蹴って体勢を崩すとその喉元に再びナイフの刃を当てる。念のため膝裏を踏みつけて動きを封じるのも忘れない。


「八来さん!」


「雛も動くな。動いたらこの男が血の海に沈むことになるぜ?」


「え?」


八来の言葉の意味が分からず、雛の足が止まった。被害者と加害者、完全に立場が入れ替わってしまった上に何やらややこしいこのシチュエーション。


「一つ勘違いしているみたいだが、俺はお前を助けにここに来たわけじゃない。一年閉じ込められてた運動不足を解消しに遊びに来ただけだ」


準備運動にもなりゃしなかったがな、と残念そうにため息をつく。

因みにこの言葉は誤魔化しではなく本心からの言葉であり、その証拠に公園に駆けつけてすぐに雛の姿を発見したがぎりぎりまで手を出さずに少し離れた場所から傍観していたのだ。


「雛、お前何やってんだ?こんな雑魚相手にとっ捕まりやがって…。お決まりの『はしたない』や『恥』だからか?くっだらねぇ…」


闘う事について頑なに拒否するのは幼い頃から親に言われ続けてきた言葉のせいだろう。子供が生まれて初めて学習するのは親の言葉。それを使った教育という名の洗脳と支配。それが未だに雛にまとわりついている。


「お前な、いい加減にしろと言っただろ。確かに、時と場合によっちゃお前らの言うように闘う事ははしたないかもしれん」


「時と、場合、ですか…?」


「そうだ、例えば力の弱いやつ、闘う術を持たないような奴、敵意の無い奴を一方的にいたぶる事。そういうのはみっともないし、犯罪だわな」


分かるか?と問うと雛は何回も首を上下に動かした。


「お前は犯罪や弱い者いじめをしたくないだろ?なら、それでいい。だが、さっきの状況はどうだ」


明らかに敵意を持ってきた相手に抗う術を持ちながら、相手の言いなりになろうとしていた。


「悪意に抵抗するのは、はしたない行為なのか?己の身を守ることもそうなのか?良く考えてみろ」


それに、と付け加えて八来が口の端で笑う。


「さっきの解手の時や俺がこいつの仲間をのした時、お前はどんな表情をしていた?ああ、表情は分からねぇか…。じゃあ、どんな気持ちだった?」


「っ!?」


雛の体がぴくりと震え、何かを思い出すように視線は左斜め下へと移る。


八来は見ていたのだ。雛の目が興奮に見開き、何かに飢えているように切なげに眉を寄せて己の動きを見ていたことを。

買い物帰りに、八来の攻撃を受け止めた雛の目も同じだった。

間違いなく、雛は八来と同種の人間だ。



闘う事が 心底楽しいと思う戦闘狂。



雛は感じていた。鼓動が早まり、体の芯が熱くなるような興奮を。


「そんじゃ…」


悪魔のような笑みを浮かべたまま、八来は小声で男に何かを耳打ちする。男は震えながらその言葉に何度も頷いた。


「えっくしょん!」


何かを言い終わると、八来は突然大きなくしゃみをする。すると彼の足の力が緩まったのか足を引いて逃れると素早く立ち上がり、上着の内ポケットに隠してあった小さな折り畳みナイフを手に雛へと襲い掛かった。


「えっ!?」


己へと真っ直ぐに向けられた刃に驚きの声を上げるが、その視線は冷静に相手を見つめていた。


(空いた手も前に突き出している…体も半身の構えじゃない)


僅かに体を右に反らすと、相手の刃が先ほどまで雛がいた空間を通り過ぎる。そのまま男の横を通り過ぎると二人の位置が完全に入れ替わった。


「すいません、その持ち方は危ないですよ?」


男は雛の声に肩越しに振り返る。雛はどこか遠慮がちに声を掛けるが、その体は男の次の攻撃に備えてなのかやや半身の構えをとっている。

対して男は腕をがむしゃらに振り回し再び雛へ襲い掛かる。


「えい」


場違いなほど、気合いの入っていない声と共に男のナイフの柄を真下から蹴り上げる。するとナイフは男の手からすっぽ抜け、くるくると宙を舞った。

男は突然の事に呆気に取られていたがすぐに正気に戻り手を伸ばして空中のナイフを掴もうとする。


「てやっ」


可愛らしい声と共に投げられた石は見事ナイフの柄に当たり、更に飛距離を伸ばして飛んでいく。そして、遥か彼方の林へと吸い込まれ木に深く突き刺さった。


「……」


男は呆然とナイフが飛んでいった方向を見つめていたが、やがてゆっくりと雛を振り返る。正確には彼女の遥か後ろの方でこちらに睨みを利かせている八来の方を見ていた。


先ほど自分に 「あの女を動けなくなるくらい痛めつけたら訴えるような真似はしないでやる。あと、逃げたら殺す」 と男は囁いた。そして芝居がかったくしゃみと共に解放し少女へとけしかけた。全く、狂っている。こういう人間に逆らおうものなら一体何をされるか…。


八来は殺気に満ちた目で奪ったナイフを片手でくるくる回し、苛立たしいと言わんばかりに大きな舌打ちまで放つ。


早くしろ


そう急かされているのは明らかで、男は額に嫌な汗を浮かべると雛へと掴みかかる。そのまま押し倒してしまえば対格差でこちらに利がある。後は首を絞めてしまえばいい。


だが、その思惑は見事に外れることとなる。

小柄な少女をの上着を掴んだまでは良かったが、それからどう動かしても彼女は倒れない。しかも掴んだ瞬間、全く体重を感じさせなかったというのも不気味だ。


(足腰の強さだけじゃねぇな)


八来はそのやり取りを見てにんまりと笑う。


雛の尋常ではない足腰の強さもさることながら、上手く相手の力を逃がしているようだ。引かれたなら前へ、押されたなら後ろへと瞬間的に力を逃がしている。重いと思ったものが実際軽い、もしくはその逆の場合人は力が無理に思わぬ方へとかかる。雛はそれを相手の力を受け流すことによって再現していたのだ。


「あの…大丈夫ですか?」


今現在襲われている真っ最中の少女が、何故か自分を心配している。男にはその目が自分を酷く憐れんでいるように見えた。

雛としては純粋に彼を心配しているだけで、掴みかかってきたのも先ほどの状況で錯乱してしまったのだろうと勝手に解釈していた。そしてズボンのポケットから糊のきいたハンカチを取り出し、男の額の汗を拭う。


馬鹿にしているのか?ふざけてんのか?


「ざっけんなぁぁぁぁぁ!!!!」


雛の行動に男の瞳孔は一気に開き、口角から泡を飛ばして叫ぶと雛の細首に手をかける。

男の指に力が入る瞬間、雛の目の前からその姿が掻き消えた。


「え?」


その代わり、目の前には3m近くもあろうかという大きな大きな銀色の蛙が黒い霧を纏いながら姿を現した。

体は銀色に鈍く光る鉄板、大きな目玉は所々薄く日々の入った赤いガラス玉、背中のイボはボーリングの玉や鉄球で出来ていた。

銀色の蛙は咥えていた男の体をするりと飲み込むと、大きな口を開ける。中から舌の代わりに丸められた薄い鉄板が覗いている。


「出やがったな…紛ツ神」

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