吸血鬼の特効薬は愛する人の赤くて黒い液体~緊急時にイチャつくな~
火が、熱が小夢の肌のすぐそこまで迫る。
「小夢ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
開いたドアから飛び出した人影が、突き飛ばされた蓮生を肩に担ぎ、続いて火球に包まれかけた小夢も担いでその場から飛び去る。
「鳴三!」
小夢を肩に担ぎあげたのは彼女の婚約者であり、黄龍部隊のメンバーでもある芭蕉宮鳴三だった。
「喋るな、舌を噛むぞ」
小夢を見もせずにどこか冷たい声で返す。その声に彼女は俯き、己の無力さと弱さに強く唇を噛んだ。
芭蕉宮は観客席の奥へと二人を降ろすと、追いかけてきた火球へと向き直り刀の鯉口を切った。芭蕉宮の刀を中心に瘴気が渦を巻き、一刀のもとに火球が真っ二つに斬られ消滅する。
「芭蕉宮、ご苦労です♪」
蓮生は座席に座るとニコニコと手を振る。明るい少女モードに戻った主に対し、法園寺家家令はゆっくりと振り向き蓮生の前で片膝をついて頭を下げる。
「お館様、到着が遅れて申し訳ございませんでした」
「いいえ、謝ることは何もありませんよ♪ここのセキュリティーはアーク君が何とかしてくれたから助かりました❤お外の妙な結界は貴方と他のメンバーが処理してくれたんですよね?お蔭で大きな犠牲が出ずに済んでよかった☆」
「ありがとうございます。…………お館様、その格好と話し方について、後ほどお話があります」
芭蕉宮は頭を抱え、頭痛を堪えているのか苦い顔で頬を引きつらせている。ご主人さまはというと、握った手を顎の下に当てて可愛くポーズを決めながら「わぁん、怒られる」とおっしゃっている。
「いやはや、やはり芭蕉宮は流石ですね♪他の方は名乗らないと私の正体が分からないんですよ?あ、小夢ちゃんは私の針を見て気が付きましたね❤えらいえらい♪」
「一体何年貴方にお仕えしていると思っているのですか?」
「前世からだと百年超えているもんね♪」
芭蕉宮は胃の腑を押さえると、ロングコートの裏ポケットに入れていた茶色い小瓶を取り出してコルクの蓋を開けると一気に中身を飲み干した。黄龍部隊の薬師であるマッドドクター斎賀刻守特製の胃薬は今日もすこぶる苦い。
「鳴三……ごめん、ウチは……」
小夢はしゃがみ込み、申し訳なさそうに目を伏せる。何も出来なかった、そう言おうとしたが再び迫る火球に言葉を止めた。
「今は何も言うな」
火球を斬り消滅させると、しゃがみ込む小夢の頭を子供にしてやるようにくしゃりと撫でる。その仕草は八来が雛にしてやるものと驚くほど同じだったが、それを指摘できる者はここにはいない。
「……分かった」
頷く小夢の顔はまだ暗い。
小夢が力を欲するのは、更なる高みを目指すのは全て鳴三の為。彼を守り、もう二度と絶望させないためだ。
なのに、今大会では雛に負け、遥か前方で繰り広げられている八来と雛の闘いをただ黙って見るだけしかできない。
無力で、惨めで、情けない……。
「小夢」
まだ年若い婚約者の前で鳴三は刀の先を人差し指に当て、薄く横に引いた。一文字の赤の線からどろりと血が流れ出る。
「事が終わったら泣き言いくらでも聞いてやる」
人差し指を小夢の柔らかい唇に押し当てた。唇を割って入った血液を舐め取ると、小夢の体が熱くなり傷が徐々に癒えていく。
愛する人の血液の味に、恍惚とする吸血鬼。普段は凛々しいその目つきはとろんと下がり僅かに潤んでいた。頬は僅かに赤く色づき、息遣いがやや粗くなる。
(十九の娘が何とまぁ……)
色っぽいその表情に芭蕉宮は僅かに頬を染め目を逸らす。内心は 「相手はまだ未成年、相手はまだ未成年、相手はまだ未成年………」 と自分に言い聞かせるように呪文を繰り返している。
「芭蕉宮、貴方は本当にまじめですよねぇ」
蓮生はそんな二人を微笑ましく見守っていた。
――――――――――一方、セキュリティールームのアークはというと
「お前ら、何イチャついてんの!?けしからん、もっとやれ!!!」
闘技場内の紛ツ神の情報を外の仲間に送りつつ、モニターに映った年の差イチャイチャに思わず吠えていた。
狸亜、今回のタイトルに軽く二十分悩んだ……センスをください神様ぁ!!
感想やレビューいただけたら嬉しいです。今まで書いていませんでしたが、感想やレビューくれくれ病にかかってます作者。飢えてます、はい。




