覚醒!狐狸のお囃子
前々から雛の事はおかしいとは思っていた。
本来は防護にしか使用できない結界を攻撃用に転化させる能力を持ち、篭手の形状にも変化させ防御と攻撃にも使用させることができる結界師は今まで見たことが無い。。
異常に高い運動能力は四神部隊の隊長格に勝るとも劣らない。そして内に眠る尋常ではない戦いへの飢えは時に狂気的だ。
人間にしては、雛はおかしいとは思っていた。
「これはこれは……普通、王子様の口付けでお姫様は目覚めるといいますがね」
法園寺蓮生はこれが素の口調と声なのだろう。先ほどまでのキンキンとした少女の声ではなく、中性的で落ち着いた声と口調でどこか感心したように変貌した雛を眺めている。
「段ボール箱入りのお姫様は人工呼吸一つで劇的に覚醒するんだな。知らなかったぜ」
お姫様を覚醒させた白馬の王子様もとい白髪のおじさまは、腕を組みながら呑気な事を口にする。だが、その言葉とは裏腹に内心はひどく興奮していた。
この女は次に何を見せてくれるのか?どうやって魅せてくれるのか?
ああ、ゾクゾクする!楽しみで楽しみで堪らない!!
キシッ、キシ……と、歯車の軋むような音が裏十五童子の体から聞こえてくる。雛のすぐそばにいた二体の片腕が一度袖の中に引っ込んだかと思うと、カシャリと音を立てて出てきたのは銀色に鈍く光る刃。更に別の二体は足の膝が曲げると長い刃物が出てきた。二体づつ手を繋ぎ激しく体を回転させながら雛へと迫る。
雛は無表情で親指に中指と薬指を合わせて影絵の狐の形にすると十五童子に指先を向ける。
《狐狸火》
けぇぇぇぇんっ!!
きゅぅうぅぅぅぅ!!
何処からともなく聞こえる狐と狸の鳴き声。雛の指先に巨大な青白い火球が発生し、回転してこちらに突進してくる四体に向けて発射された。火球はあっという間に四体の裏十五童子を呑み込んで爆発。爆発音の後には焼け焦げた床とかつて十五童子であった破片が散らばるだけだった。
裏十五童子の破片が遥か後方の八来達の所にも飛んで来る。八来は難なく杖ではじき、小夢は蓮生の前に進み出ると素手で破片を叩き落とす。
「あれが、雛なん?あの娘、人間ちゃうの?」
「人間ですよ」
主を守りながらも雛の変わりように動揺する小夢。蓮生はくすりと笑うとどこか懐かしいものを見る様な目で雛の戦いぶりを見ていた。
「あんた、あいつの何を知っているんだ?」
「熱烈なベーゼをして覚醒させた王子様には、これが終わったら教えて差し上げますよ」
人差し指を己の唇に当て、ウィンクしてみせる。その仕草と姿は可愛らしい十代の少女そのものだが、声は中性的ではあるが成人した大人のそれだ。
《響結界・狐狸囃子》
狸と狐の鳴き声が一層激しさを増す中、雛が裏十五童子と間合いが離れすぎているにも拘らず何もない空間へと正拳突きを放つ。
どぉんっっ!!
太鼓のような音が空間を震わせ、それに続いて地下闘技場のあらゆる場所で同じような音が立て続けに響いた。すると、遥か前方にいた裏十五童子の内、三体の体に大穴が空いた。
連続して雛が拳の連撃を放つと、再び太鼓の音が鳴り響く。そして遠く離れた場所の十五童子の体に次々と穴が空き砕け散っていく。
「おやおや、あれは『音響変換拳』!彼女も使えるとは」
「『音響変換拳』?初めて聞くな、何だそりゃ?」
「文字通り、音を使った特殊な技ですよ。空気中に音を反響させる特殊な結界を張り、それを殴打することで衝撃波を発生させて攻撃する格闘術です。うちの家令も音を操る能力があるので雛さんと同じことが可能ですよ。ああ、芭蕉宮と闘ったあなたは身をもってよくご存じかと」
言われて先日の芭蕉宮との対戦を思い出す。あの男は刀を抜いた音を利用し、発生する音の波をより強力に衝撃波として使用していた。
更には八来に止めを刺したあの鈴の音。特殊結界により音の衝撃を何倍にも強力にして八来に向けたのだ。
どぉぉぉんっ!!!
法園寺のと会話をしている間に一層大きな太鼓の音が響き渡ると、残った裏十五童子全てが砕け散った。
「雛、ご苦労さん」
八来のねぎらいの言葉に、雛はゆっくりと振り返り―――――――
轟っ!!
狐狸火を八来目掛けて発射した。
「おいおい、オイタが過ぎるぜ?」
八来は動揺することなく、背から大蛇を八体生やすと集中放水で火球を消化した。水蒸気で視界が塞がれる中、八来は杖を無造作に真横に突き出す。すると、甲高い金属音が響き音が聞こえた方向から再び狐狸火が飛んで来る。
(杖弾いて即、火球発射か。反応速度がいつもの倍になってねぇか?)
再び狸と狐の鳴き声が響き始め、八来の周りの空気が振動を始める。
「遊び足りないようだな……、いいぜ、相手してやるよ雛。」
八来は杖を構えると、後ろの蓮生にちらりと目配せする。
(ちょっと派手に行くから隙を見て逃げろ)
(分かりました。ですが、逃げるのは容易ではないようで?)
いつの間にか小夢と蓮生の背後から狐狸火が発生し二人を焼き尽くそうと迫る。
「主!」
咄嗟に蓮生を抱きかかえて逃げようとする小夢だったが、火球は一層大きく膨れ上がり二人を飲み込もうとする。
間に合わない、ならばせめてと蓮生を突き飛ばし小夢は一人火球に飲まれていく。




