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裏弁財天のゲリラライヴ

法園寺蓮生(ほうえんじれお)――――――――――――。


第一次大厄災にて活躍した当時の諜報部隊副隊長。非常に優秀で、隠密や変装技術に長けていた。また、部下思いで知られ、八雷神の憑依による部下のスパイ行為によって起きた『岩二事件(いわじじけん)』の際は憑依された岩二狐九狸丸を庇い隊長と対立したほどである。

第一次大厄災終結直後、数名の隊員とともに突然退役。彼の退役には『累神』岩二狐九狸丸が絡んでいたのでは? というのは当時の四神部隊内で専らの噂になった

退役後の彼が何をしているかは誰も知らない。


と、言うのが表でしか知られていない情報。

法園寺家は代々優秀な忍の家系であり数多くのボディガードを輩出している名門中の名門だ。当主の蓮生は先祖に伽羅香の精霊をもち、竜を番にし彼の心臓を貰った半竜神でもある。変装の名人であり、当主の性別と素顔は身内であっても知るものはごく一部のみ。

そして、第一次大厄災にて部下に憑りつき操っていた炎雷神をバイクで轢き自慢の針で大ダメージを与えた伝説の男。

今では八雷神を含め曲者揃いの黄龍部隊をまとめ上げるリーダーであり、彼等の監視役でもある。実力は健在で、細針一本で荒神で悪名高き八雷神達が涙を流して許しを請うほどだ。


「伝説の人物がこんな所でなにしてんねん……」


萌え萌えポーズを決める蓮生の後ろで小夢が人差し指をこめかみに当てながら呆れている。


《何?って、助けに来たに決まってるでしょ?あのままだったら二人ともやられていたじゃない!》


「はいはい、感謝しておりますよ主様」


蓮生と会話をしながらも小夢はマイクを握りしめ、周囲を見回し何かのチャンスをじっと待っているようだった。


《……ゲリラコントはお済で?》


裏弁天は瘴気の曲を延々演奏しながら蓮生と小夢の話が終わるのを待っていた。蓮生の乱入で苛立ったためか口調や雰囲気が素に戻ってしまっている。


《そうそう!折角皆素敵なファイトをしていたのに!それをめちゃめちゃにするなんて許せないです!解体屋名『辨典鈷像(べんてんこぞう)』法園寺蓮生、怒っちゃいました!!》


《怒ったら、何?私を…………じゃなかった。私を倒すの???そんなのって★ありえな~~~い!!!許さないのは、こっちの方よ!!》


裏弁天がキャラを戻すとギターを掻き鳴らし、蓮生の乱入にて弱まっていた瘴気の歌が、更に禍々しさと威力を増す。瘴気と身の内から響く痛みに一瞬顔をしかめながらも小夢がマイクのスイッチを入れた。


《―――――――――――――――――っ♪》


裏弁天の歌声と小夢の歌声が重なり、会場のあちこちで爆発音が響いた。


「えっ!?」


見ると爆発したのは会場に設置してあったスピーカーだけだった。全てのスピーカーが爆発し、破片をまき散らして沈黙していくのを見届けた後に小夢は裏弁天に 「ざまぁ」 と舌を出す。


《ど、どうして!?蝙蝠の超音波くらいではビクともしない強化スピーカーなんでしょ!?それがどうして!!》


《正解はーコ・レ♪》


蓮生の細い指先には針が一本握られている。因みに針治療用のモノではなく布団針並みにごつくて長いものだ。


《うちの主がレフェリーやっている時にこっそり仕掛けておいた『気』が篭った特別製の針や。こいつは特定の妖気に反応して爆発するって訳。さて、これでアンタは音の攻撃は出来へんよ》


後は、地上に通じる扉が開錠されるまで怪我人を救助し、紛ツ神を退治するだけ。

雛は三人が会話をしている間に怪我人の救助へ向かい、邪魔な紛ツ神退治をしていた。


「主、開錠の件はあんさんの部下にさせてるん?」


「さっき通路でアーク君に会ったからセキュリティルームへ案内してあげたの!あの子ならカイに次いでハッキング上手でしょ?」


―――――――――――その頃、アークは。


「ちょ!地下闘技場のセキュリティハッキングがムリ茶漬けぇ!!ムズ過ぎわろたぁ!!!」


その太い指がコントロールパネルの上を超高速で動き回り、扉の解除コードを打ち込みボタンを押しレバーを引きと大忙しだ。

その合間に、


「ブレザー蓮生たん萌え萌えキュン!!でござるぅぅぅぅぅ!!!」


気力回復という名の萌えもモニターでバッチリ補充していた。





「扉の開錠はアーク君に任せるとして、私は怪我人や瘴気にやられた人を治療するから小夢ちゃんは裏弁天ちゃんがこちらの邪魔しないようにお願いね」


にっこり微笑みかけると、蓮生の姿がかき消える。


「OK、主」


瞬時に怪我人を庇い闘う雛の元へと移動する蓮生。その二人を睨み付け、ギターの弦に指を掛ける裏弁天に飛び蹴りを仕掛ける小夢。


「お前の相手はウチや!!」


翼を使って空中で加速し、常人の目では捉えきれない速さで繰り出された蹴りを裏弁天は掌で難なく受け止めた。


「はぃ!?」


裏弁天は背中から銀色に鈍く光る二本の腕を生やし、そのうちの一本を使って小夢の蹴りを受け止めたのだ。

蹴りを仕掛けた足には人の手の柔らかい感触は伝わってこない。冷たく硬い金属の指が小夢の足に食い込んでいた。


「アタシ、戦闘向きじゃないんだけどねー。面倒くさ……」


マイクの電源を切り、ダウナー系に戻るともう一本の腕も伸ばし小夢の両足首をしっかりと掴みそのまま地面へと叩きつける。


「似非関西弁の熱血系って嫌いなのよ。汗臭そうでキモいわ」


すかさず小夢の鳩尾を踏みつけ、その顔に唾を飛ばす。


「うちも……、アンタみたいな、なんちゃってアイドルって嫌いやわ。わざとらしいかわい子ぶりっ子って気色悪っ!」


小夢が舌を出すと裏弁天は眉を八の字にして再度踵を繰り出す。だが、それは素早く真横に転がって躱されてしまう。


「戦闘向きやないってホンマやな。ウチの所の非戦闘員の方がもう少しええ動きするよ?」


「……ムカつく」


裏弁天が憎々し気な顔で演奏を続ける中、小夢はギターを狙って攻撃を仕掛ける。


(痛みは無うなったけど、瘴気で具合悪くなりそうや!)


吸血鬼ハーフという種族の為、瘴気にはある程度耐性はあるといってもこの濃度は流石に気分が悪くなってしまう。

雛の方へと一瞬視線を向けると、例の結界を全身に張り巡らせ金色の粒子をまき散らしながら大蛇の紛ツ神の頭を砕き、胴体を叩き割り、牙を折り取っていく。常人では三秒と持たず気絶してしまう濃度の瘴気は彼女にとっては全く通用しないようだ。


「戦闘は不得意だけど、弱いとは言ってないわよー」


小夢の拳を背中の金属の腕二本で払い、がら空きの上半身にギターの胴払いを仕掛ける。小夢は即座に膝と肘でギターのボディ部分を挟み込んで砕いた。武器破壊の一瞬の隙をついて、こめかみ狙いのハイキックを仕掛けるが背中の銀色の腕に弾かれる。


「替えのギターはあるから」


小夢の腕を弾いた反動を生かして後方へと飛び退くと、舌打ちをしながら腹に手を当てる。ずぶりと腕が腹に沈み込み、勢い良く腕を引き抜くと新しいギターが引き出された。


「まだまだライヴは終わらせる気ないしー☆」


演奏を再開させようとしたその体がぐらりと揺らぎ、白目を向いて地面に倒れてしまった。


「悪質な乱入行為は、駄目ですよ!」


倒れた裏弁財天の背後には、彼女の首筋に手刀を当てた雛が怒りで頬を膨らませていた。どこか場違いの台詞を吐くと、小夢の元へと慌てて走り寄る。


「大丈夫ですか?」


「ああ、平気。倒れたやつの救助は……主一人で事足りるもんな」


観客席を見ると、ゆったりと散歩でもしているかのような足取りで紛ツ神に近づき手に持った針一本で次々に消滅させていく法園寺がいた。まだ意識のある観客や選手には針で気力回復や止血などの応急処置もこなしていく。


「法園寺さんが、『救助は引き受けるから、小夢の手伝いをお願いね』と」


「ウチ一人でも大丈夫やっちゅーのに。つくづくあの人は過保護やね」


「あの御方は何者なのでしょう?お名前が同じなので蓮聖さんのご親戚ですか?」


「話せば長くなるから、このゴタゴタ片付いたら説明したるわ」


無双中の法園寺を凝視する雛の肩に手を置き、倒れている裏弁財天に視線を戻し――――――――二人は息を飲んだ。


「ふ……ざけるんじゃなわよ……このブスどもがぁ!!!」


ゆらり、と地面から身を起こす。その足元には黒い泥の様なものが渦を巻いていた。瘴気を圧縮した泥から銀色の尾がずるりと這い出てくる。


「『宇賀神★大召喚』!!そして『トラウマを起こさないで』メドレーでいくよ!!」


怒りで血走った目を二人に向け、凄まじい早弾きを披露し始めた。コードも音響機器も無いのに辺りにはエレキギターの音色が大音量で響き渡り、裏弁天の足元からは巨大な蛇の尾が四本出現し雛と小夢を薙ぎ払う。

二人は両腕を交差させ、衝撃を受ける瞬間後方に自ら飛んでダメージを押さえる。あわや壁に激突と思われたが、空中で体を反転。壁に足を付き、反動で裏弁財天の方へと飛んでいく。


「「せいっ!!」」


同時に触手へと蹴りを放つ雛と小夢。今度は触手が耐え切れずはじき飛ばされた。

裏弁天の正面へと着地すると、雛は結界を纏い、小夢は翼を広げて彼女へと殴り掛かる。


「ばぁか」


裏弁財天が舌を出して鼻で笑う。曲調が変わり、先ほどよりもやや穏やかな曲が流れた。


「あ……」


すると、小夢は胸を押さえて膝を折り、雛は耳を塞いで立ち止まった。


『出来損ないが』


雛の耳に、母親の冷たい声が響く。脳裏には侮蔑の表情を浮かべる母の姿が浮かぶ。


『力も使えないとは……生まれてきた価値も無い』


続いて、父の落胆した声がする。いつも冷めた目で雛を見つめていた父の姿も浮かんだ。


「あぁ……」


薄暗い離れで、たった独りぼっち。たまに父母が訪れるが、遠くで雛を見て彼女を批判する言葉を吐くだけ。

近づいても来てくれない。

顔もまともに見てくれない。


『はしたない面汚しが』


その一言に、雛の身体がびくりと震え出す。


「ご、ごめんなさい……」


目に涙を溜め、がくりと膝をつく。


『お前など』


やめてください。


『生まれてこなければよかったのに』


止めてください!!


耳を塞ぎ、涙がこぼれぬよう俯きながら雛は心の奥で叫び続ける。


『死んでしまえばいいものを』


母の言葉と願いを叶えるように、雛の身体を銀色の尾が貫いた。




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