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地下闘技場に舞い降りた血生臭い天使

「お客さんも集まった事だし、いつまでも素のまんまはエンターティナーとしては失格よねー」


ツインテールに和服をベースとしたゴシックロリータ姿の少女は無気力に呟くと一度上半身を倒して下を向く。そして勢いよく上半身を起こすとそこには先ほどまでの無気力な表情は完全に消えていた。胸元に小型のワイヤレスマイクを付けると息を大きく吸い込む。


《はーーーい♪皆、元気にやってるーーー?皆のアイドル、『(うら)七福神(しちふくじん)』の『裏弁財天(うらべんざいてん)』ちゃんだよーーーー☆略して裏弁天ちゃんって呼んでもいいよーーーーーー♪》


人差し指を真っ直ぐ天井にあげ、片足を上げてウィンクを一つ。満面の笑顔、底抜けに明るい声、まるで別人のように挨拶をした。


《今日は地下闘技場で突然☆乱入!しちゃいましたーーーー!エキシビジョン?のんのん♪これからは私の独壇場!!最高のステージにするのでヨロシクね♪》


小柄な体でエレキギターを構え、弦を一本弾く。すると、周囲にはギターの音ではなく悲鳴が上がった。見ると、観客席に新たな紛ツ神が出現し人々を襲っていく。一つ一つ弦を弾くたびにエレキギターからは悲鳴や怨嗟の声が奏でられていった。


「何や、あの女?ギター弾く度に瘴気の濃度が上がっていってるやん。アイツ、妖怪?」


以前、大蝦蟇戦の時は携帯電話が自動で作動してパソ子が敵の名前や能力を教えてくれたが、何故か今は沈黙したままになっている。


「雛!兎に角、一般人の救助や!こいつら片付けながらやるで!」


「はい!!」


観客を襲う紛ツ神を退治すべく観客席に向かう二人。

裏弁天は雛と小夜を横目で見つつニヤリと口元に笑みを浮かべた。


《ではみんな聞いてねーーー♪新曲『脱がなきゃ琵琶も弾けないの?』》


突如、地下闘技場の全てのスピーカーから大音量でエレキギターの音と共に裏弁天の歌声が響いた。


「っ!!??」


その歌声を聞いた全ての人々と妖怪は耳を押さえてその場にしゃがみ込む。裏弁天の声を耳にした途端、激しい頭痛と眩暈に襲われ力の弱い者から次々に昏倒していった。


「な……何、これ」


雛は即座に全身に結界を張って音の衝撃に耐える。小夢は口を開け自らの超音波で音を相殺していた。


「小夢さん、行けますか?」


「ん」


多少ダメージを受けるものの立ち上がって動けるまでに攻撃を緩和すると、倒れた人々に攻撃を仕掛けようとする紛ツ神の前に立ちはだかる。銀色ノ鱗を纏い、体のあちこちに穴が空いたガラクタの大蛇が赤い硝子玉の目を光らせてゴム製の舌をチロリと口から覗かせる。


《ん~?ライヴ中は私語は止めてね!ってお約束が分からない子がいるよ~?そういうお客様には退場願います☆》


裏弁天がギター鳴らすとスピーカーから流れる音楽が更に音量を増した。


「ひっ!!」


「ちぃっ!!」


雛の結界と小夢の超音波での相殺でも間に合わない程の瘴気と、頭痛だけではなく体の内側から何本もの太い針で刺されたような激痛に二人も床に崩れ落ちる。


《これでよし♪ではでは引き続き私のライヴを楽しんでねーーー❤》


ニッコリと笑うと、ギター演奏だけではなくノリノリでダンスまで披露し始める。

悲鳴、赤く染まる観客席と闘技場、倒れる人々、それを追いかける紛ツ神、ロックが掛かり開かないドア、地下闘技場は紛ツ神の狩場と化していった。

雛と小夢は瘴気と激痛に目を見開いたまま歯を食いしばって必死に耐えている。そんな彼女たちを飲み込もうと大蛇が大口を開けた。


《HEY、HEY!!!ちょーーーーーーっと待ったぁぁぁぁ!!!!》


裏弁天の曲に被さるように陽気な声が会場に響き渡った。


《今日はエキシヴィジョンは無しだぞぉぉぉぉぉぉぉ!!!ここは地下闘技場!!戦士たちの神聖な戦いの場所!!それを乱入して汚そうなどセコンド&司会者は許さないぜぇぇーーーーーーーー!!!》


非常口のドアを蹴破りながら一人の桃色アフロ……Mr.ハートメンが現れた。


《選手の皆―――――!!怪我人担いでここから逃げてくれーーーー!!地上への入り口はまだロックされているがあと少しで開錠される!!!それまで文字通りファイトだぁぁぁ!!!!》


叫びながら闘技場を猛ダッシュし観客席へと跳躍する。空中で見事なトリプルアクセルを決めると大蛇に呑み込まれかかった雛と小夢の前へと着地する。


《はい、退場ぅ!!》


蹴りの一発で大蛇の頭部を砕き、倒れている二人の首筋に針を刺す。


「あれ?痛くない……」


首筋に針を打たれた瞬間、瘴気によるダメージや痛みがほとんど消え失せた。二人は起き上がると陽気なスマイルを浮かべているハートマンを不思議な目で見ていた。


「Mr.ハートメン、アンタの正体まさか……」


小夢は首筋の針を抜き、針とハートメンを二往復して見た。どうやら、彼の中身がよく知っている人物だと勘付いたらしい。


《イエス、君が思っている人物だよーーーーー?私の可愛い蝙蝠ちゃんーーーー!》


手に持っていたマイクを小夢に渡す。その際何か一言彼女の耳元で囁いていたが、雛には聞こえなかった。


《乱入者ちゃん?私が何者か知りたくないかいーーーーー?》


何処からかもう一本予備のマイクを取り出すと、オーバーリアクションでビシッっっ!!!と裏弁天を指差す。


《……ふざけんな》


素に戻り、ぼそりと呟く裏弁天を無視してハートメンは更に陽気に言葉を続ける。


《ある時は通りすがりのモブ、またある時は地下闘技場入場チケットを受け取る係員、またある時は地下闘技場に突如舞い降りたスーパーエンターティナーな桃色アフロの司会者………しかして、その実態は》


突如、ハートメンの身体が光り輝き衣装が宙を舞う。


《法園寺家当主!法園寺蓮生ちゃんで~す♪》


光が収まり、次に雛が目にした者はブレザー姿の可愛らしい少女であった。

法園寺蓮生と名乗る少女はくるりと一回転すると両頬を人差し指でぷにりと押して天使のような微笑みを浮かべた。


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