女の子同士のおしゃべり(not物理)とたこ焼きと
明けましておめでとうございます!
今年も作品共々よろしくお願いいたします!!
―――――時間は異変の少し前に戻る。
「ふぅ……」
簡単だが顔の傷の治療を済ませ、濡れタオルで顔の晴れを冷やす。瞼の上の腫れはカミソリで傷を付けて血を出したのでひどくならずに済んだ。
「楽しかったな……」
控室に続く廊下を歩きながら、先ほどの小夢との対戦を思い出し独り言を呟いてしまう。
試合が終わって時間が経っても興奮は胸の内でまだ続いている。殴り合った感触、互いの技を返し合うあの駆け引きのスリル。雛にとって初めての同性とのおしゃべり(拳での語り合い)だった
また会いたい、と頬に手を当て物憂げにため息をつく。
「何や、ため息ついてどうした?」
聞き覚えのある声に振り向くと、雛と同じ様にタオルで顔を冷やしている小夢の姿があった。
「こゆ……ツバキさん!」
「さっき振りやなー修羅雪姫ちゃん」
片手を上げ、気さくな態度で挨拶をする。
「次の試合まで時間あるやろ?他の試合は見なくてもええの?」
「いえ……その……まだツバキさんとの戦いの余韻が」
そこで雛の腹がずぎゅるるるるるる!!!と凄まじい音を鳴り響かせた。慌てて両手で腹を押さえるが音は鳴りやまず。
「ははははっ!!アンタ可愛い顔して凄い音させるんやなっ!!」
「す、すいません……は、恥ずかしいぃぃ」
「あんだけ激しく動き回って腹が減るとは大物やな。せや、この奥の自販機でなんか買うたるわ」
手を引かれ、通路の奥に並んだ自動販売機の前へと連れて来られた。
「これは、何でしょうか?」
少し大きめの巨大な箱を見上げながら問う雛に小夢は「嘘やん!」とツッコミを入れてしまった。
「自動販売機。知らんの?」
若い娘が自動販売機を知らないという事があるのか?いや、あった……。
「思い出しました。学校の購買部前にこれとよく似たものがたくさん並んでいました!あの時には円柱型の物と四角いものが沢山並んでいましたね」
「……缶ジュースや紙パックの飲み物知らんのか?」
「?」
小夢の問いに雛はお得意の首傾げのポーズをとり、小夢は本日二度目の「嘘やん」を口にした。
「ホンマ、今までどんな生活を送ってきたんやアンタは……。まぁええわ、好きな物選び」
雛の記憶の中の自動販売機と違い、目の前のそれはおにぎりや焼きそばがパネルに印刷されている。
「これは、何でしょうか?」
雛が指差したのはたこ焼きのパネル。山奥育ちの段ボール箱入り元お嬢様はたこ焼きの存在をご存じなかった様だ。
「この茶色い丸っこいのの中にタコが入ってるんよ。食うてみる?一つ奢っちゃるから」
雛が返事を返す前に小夢は小銭を入れてタッチパネルを押す。すると、取り出し口に白い紙製の箱がポンと置かれる。
「食べ」
小夢の一連の動作を眺めていた雛の手に紙製の小さな箱が置かれた。ふたを開けるとほこほことたこ焼きから湯気が上がっている。
「食べ方知らんやろ?付属の青のりとかつお節、あとソースとマヨネーズかけて食べ」
自販機横のベンチに腰掛けると、小夢がテキパキと付属のソースなどをかけてくれた。
爪楊枝をたこ焼きに刺し、鰹節おどるたこ焼きを一口齧る。
「!?」
雛の目が最大まで見開かれた!!
外はカリカリ、中は熱々トロトロ、そしてタコのぐみぐみとした食感!!
「美味しいです…!」
一言呟くと、後は無言でたこ焼きを次々平らげる。瞬く間にたこ焼きは全て雛の胃袋の中へ消えていった。
「ああもう、口の端に青のり付いてるで」
食べ終わり手を合わせる雛の口元を、自販機の横に付属されていた紙ナプキンで拭ってやる。
突然の小夢の行動に雛は驚くが、されるがまま口の端の汚れを拭きとってもらう。
「よし、もうええよ。何や試合中の反応はめっちゃええのに普段は案外ぽーっとしとるんやねぇ」
「ありがとうございます、すいません!」
「謝らんでええよ。しっかしホンマ、アンタは可愛いわーお姫様みたいやね」
「お姫様?私がですか?!」
「そ、お姫様。ふわっふわの髪に綺麗な肌、小さい頃に読んだ絵本に出てくるお姫様みたいにチャーミングや」
雛は今までの生活から分かるように褒められ慣れていない。なので、小夢の言葉を理解するのに数秒かかってしまった。
「え?え?!わ、わたし……」
両手で頬を挟み、真っ赤な顔であわあわと顔を左右に振る。
「だって、私、ツバキさんみたいに綺麗で美人じゃないし、全然大人の立ち居振る舞いも出来ないし」
「ふぇっ!?」
今度は小夢が赤くなる番だった。
小夢もあまり褒められ慣れていない上に、男性と思われることが多く面と向かってハッキリと『綺麗』『美人』と褒められたことなどほぼ無い。恋人と彼女が護衛担当しているお姫様以外には。
「な、ななななな!?び、美人って!?ど、どどどどこがや!!??」
「色が白くて、お顔がスッと整っていて、とても綺麗な翠色の瞳をしていて、美人で羨ましいです!」
「あ、アンタだって、小柄で可愛くて、綺麗な肌しているしほんのり桜色のほっぺして!!抱きしめたくなるくらい可愛いわ!!!」
先程まで拳で語り合っていた乙女二人が、今度はお互いの容姿を素直に褒めちぎる。小夢が
ボーイッシュな外見なのではたから見ると恋人同士がお互いの外見を褒めまくっているというラブラブな光景に見えなくもない。第三者もしくはアークがいたらこう言っていただろう――――――――――「お家でやれ!!」と。
お互いを褒めた後、相手の素直な言葉がクリティカルヒットした女二人は赤い顔で黙って俯いていた。
「こんな可愛い子がいつも傍におるって……八来とかいうオッサンには勿体ないわー。一体どんな顔してるのか見てみたいわ」
雛に聞こえないようにぽそりと呟く小夢。
彼女はまだ知らない……その八来が自分の愛しい男とほぼ同じ顔だという事に。
「そろそろアンタの次の対戦相手が決まる頃やないの?一緒に見に行こ」
「はい!」
たこ焼きで取りあえず腹の音はおさまったが、空腹は解消しきれていない。正直、あと十個ほど購入したかったが悲しいかな雛はお金を持っていない。時間も無いので諦めることにした。
(次の対戦が終わったら、八来さんに連絡して相談しよう)
次の試合は早く終わらせよう。
その願いが叶わない事を試合会場の扉をくぐった瞬間に雛は察してしまった。
「何…や?アレは!?」
先程まで熱気に包まれていた会場は、今は悲鳴と破壊音に包まれていた。あちこちに出現した紛ツ神、逃げ惑う人々、観客を庇い応戦する選手たち。
その中で一人だけ異質な存在があった。
その少女は全身に濃い瘴気を纏わせ、倒れていく人々をつまらなさそうに見ている。
「あ、まぁだ二人いたのー?前回の優勝者と今大会の優勝候補だっけー?さっさと片付けてーアジトに戻ろーっと」
会場の中心瘴気を纏った少女は、雛と小夢の姿を見つけるとエレキギター片手に気だるげなため息をついた。




