似ているようで違う
少女の様なあどけない女は、夢見る少女の様な瞳で歪んだ愛をはっきりと口にした。
その宣言を聞き、小夢の背筋が一気に寒くなり額から顎の下へと冷や汗が伝ってぽたりとテーブルに落ちる。
(この女の思考は、どないなってるんや!?)
アークやカイから聞いた話だと、彼女は名の通りまるで親鳥の後を追う雛の様に八来の傍を離れない、そして特別に彼を慕っているのだと聞いていた。
だから自分と同じ様に、年の離れた男性に恋をしているのだと勝手に勘違いをしてしまった。
この娘の強くなろうとしている理由は自分と同じように『大切な人の為』なのに、根本的なものが違う!
自分は彼を守る為に、強くなった。
恋焦がれて焼け死んで、でも死にきれずに戻ってきた。
命がけの愛。
それは雛も同じなのに、彼女と自分では愛し方が違う。
「アンタのところも、負けず劣らず激しい愛し方してるんやなぁ」
額に手を当てると、眉間にしわを寄せて俯いた。
人の幸せも愛もそれぞれとは言うが、ここまでぶっ飛んでいる愛し方は中々お目にかかれないのでは?
そう言えば、憎き八来という男もかなり頭の中身はぶっ飛びに飛んでいるらしい。この弟子にしてあの師匠ありともいうべきか。
「愛?」
「そう、愛」
「愛……なんでしょうか?」
「ウチに聞くなや。愛かどうかはアンタ自身じゃなきゃ分からんことや」
雛はまた小首をかしげて視線を上に向ける。また考え事をしているようだ。
「そろそろアンタの次の試合が始まる時間とちゃうか?」
「あ!すいません!!」
「えーよ、誘ったのウチやし謝らんでええからさっさと行き」
「はい、失礼しました!!」
丁寧に頭を下げて控室を出て行く雛。
それをひらひらと手を振って見送り、ドアが完全にしますと同時に小夢は頭を抱えた。
「恋も愛も知らん分からん……か。一体どんだけヘビーな生活しとったん?それともあれは性格か?」
性格は変わっているところはあるが基本は素直でいい子、人の良さがぽわぽわと滲み出ていた。外見は小さくて可愛らしく、見ていると庇護欲を掻き立てられる。
あんなに可愛い子が学校に居たら、周りの男は放っておかなさそうなものだが……。
「あんなに可愛いのにねぇ……」
鍔木 小夢 19歳、身長は179cmで顔はボーイッシュ。ふわふわ甘めな可愛い事とは無縁の生活だったことと自分には全く似合わないのもあってか、彼女は可愛らしいものに目が無い。
ふわふわの髪にくりくりの大きな瞳に小柄な身長の雛はハッキリ言って撫で繰り回したくなる程に可愛らしかった。
「胸めっっちゃでかいのは腹立つけど」
己の胸を見てため息をつくのは仕方ない。嗚呼悲しきは断崖絶壁!このせいで余計に女としては見られなかった……。
《しもしもー?小夢ちゃーぁん?》
携帯が鳴り、操作してもいないのに相手の声が聞こえる。流石は交流御用達パソ子内臓携帯、自動で通話になるのは止めてくれ。
「なんやねん、アーク。今ちょいと自爆して落ち込んでたんやから」
《いやいや~、さっき雛たん拉致ったでしょー?ガールズトーク如何でしたぁ?》
「どうもこうもあるかい!何やあの娘!どういう育ちしてるん!?夢見る乙女の顔でとんでもない爆弾発言かましていきよったわ!」
《へぇ~、あの雛たんが?どんなの?》
「八来と死合いたい……要は殺し合い一騎打ちしたい言いよった!」
携帯電話から男二人分の笑い声が聞こえる。
《わぁお、雛たんの大胆な告白ぅwwww生で聞きたかったでござるよ!あー、そうそう頑張っている小夢ちゃんに未来のダーリンからメッセージ預かってるから聞く?》
「当たり前や」
芭蕉宮からの電話とあって携帯電話柄を持つ手に若干力が入り、耳に神経を集中させる。
《小夢、頑張っているな》
聞こえてきたのは落ち着いた声。だが、
「おっさん、誰や?」
あるぇー?というアークの声が聞こえる。
「よう声似てるけど別人や!本物の鳴三の方がもっとイケボや出直してこいボケが!!」
《ひゃははははははっ!!俺と芭蕉宮の声はよく似ているってアークが言っていたのにな!あっさりバレたか》
「うっわ、癇に障る笑い方やな。誰や?」
《お前さんが目の敵にしている八来忠継だ。あ、お前の未来の旦那をのしちまった、そう言ったほうが良かったか?》
「……お前が」
《まぁ、そう怒るな……と、いっても無駄だろうな。その怒りは是非雛にぶつけてくれたまえ。健闘を祈る》
「さっきからおちょくってるんか!」
《おお、こわ。あんまり怒るとブスになるぞ?》
「さっきから舐めくさっとことをベラベラと!ええのか?ウチが本気であの娘を潰しても!!」
《ああ、全力でやってくれ。その方がアイツもいい経験ができるだろう》
小馬鹿にしていた声のトーンが穏やかに、優しくなった。
《それに、アイツは負けないだろうからな。何せ俺と将来死合うんだ、ここで負ける訳が無い》
「何や……それ」
呆れた。弟子が弟子なら師匠も師匠だ。この二人は同じ、似た者同士。
互いが、死合う事を望んでいるという滅多にお目にかかれないカップルだ。
「あんたら、両想いかい……」
《ははははは!そんなロマンチックなもんかい?》
確かに、ロマンチックの正反対を爆走している。血生臭すぎて正直理解に苦しむところだ。
「歪んでる」
《元がひねくれてるんでね》
「はいはい、そろそろええか?あの娘の試合、ウチも見たいから」
《おや残念、秒で片付いたぜ?》
「そうかい」
あの素直で正直な女の事だ、開始のゴングの音と共に全力で秒殺したのだろう。
「他に用はないんかい?」
《あ、さっきカイの兄者から連絡があって、引き続き周囲への警戒を怠るなって》
「了解」
黄龍部隊の一員として、法園寺家家令の将来の妻として与えられた任務は果たす。
それが、愛しい芭蕉宮鳴三への愛の形の一つだから。
「愛に命を差し出すという点では同じ、か」
携帯電話の通話を切り、小夢は一人呟くと控室をあとにした。




