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累神となった妖怪 絶望と厄を抱えた男

「おーぅ!さっすがは我らがアイドル雛たん!見事なデビュー戦勝利!!あーもー闘うエンジェル!!」


「相手は雑魚じゃねーか。勝って当たり前だってーの」


はしゃぐアークとは対照的に八来は喜びも感動もしていない。観客から喝采を浴びながらリングを降りる雛をただじっと見つめていた。


「わー、雛ちゃんに対してはツンデレ塩対応なのねー八来パパ。取り敢えず、雛たんの勝利を祝って乾杯しましょ?」


二人のグラスに満たされたのはライトボディの赤ワイン。アークがグラスを掲げると、隣の椅子に座っていた八来が軽くグラスを合わせる。

乾杯を交わす二人の視線の先では、別ブロックの初戦でツバキが勝利する姿があった。


「ツバキも勝ってるでごじゃるよー。おお、相手の顎に蹴り一発で勝利!わはー、二人が当たるの楽しみ♪」


「蹴りはまぁまぁか。吸血鬼は厄介な能力が多いからな……流石の雛でもちょっときついか?まぁどの道雛が勝つだろうけど」


「そういうところ!八来パッパ、そういう所ですぞ!父性とかパッパとか言われるのそういう所!!」


何やら肉が嬉しそうにツッコミ入れてきたので、肝臓の辺りに拳を一発入れて黙らせる。分厚いお肉も浸透剄を使えば無問題!


「雛たん、田舎では妖怪相手にちょっとはバトってたんでショー?なんとかなるんじゃない?」


やや経って復活したアークの問いに八来はやや苦い顔でグラスの中身を口にする。


「自来也や大蝦蟇の時に感じたんだが、雛は筋がいいが圧倒的な経験不足だな。妖怪相手にちょっとはやってただろうが、家の話を聞くに隠れてこっそりしてたんじゃないか?家庭の事情か勘しか知らないがあまり頻繁に妖怪退治なんて出来てなかったんだろうよ」


出会った時に雛は闘う事を拒否していたし、自来也や大蝦蟇と闘う時に多少判断が遅れるところが目についた。


「この大会で少しは経験を積んで欲しい」


自分との稽古では得られないものを雛に経験してほしい。そう思って地下闘技場の大会に出場することを了承したのだ。


「おやおや?八来パパの親心ぉ?」


アークが頬を膨らませて 「ぐふふふっ!」 と喜色悪い笑い方をしていたので額にデコピン(ビール瓶を砕くレベルの威力)をかまして黙らせる。


「雛とツバキ以外の試合はつまらんな」


他のブロックの試合を見ても、観客にとっては手に汗握る試合かもしれないが八来とアークにとっては退屈極まりないものだった。

観客を魅せる為にわざと危機に陥って見せたり、派手に見えるが威力の無い技を使ったり。三文芝居もいいところだと八来は鼻で笑う。


「んー、吾輩達レベルの闘いを一般人に求めるのは酷ってもんジャマイカ?」


赤くなった額を擦りながら涙目で答えるアーク。かなりの威力があったはずだが、涙目で済んでいるところを見ると彼はどうやら面の皮が物理的にもぶ厚いらしい。


「そういや、さっきの話でちょいと気になったんだが『特殊な妖怪』ってどんなやつなんだ?」


――――――――――――特殊な妖怪。


この一言で再びアークの目に冷たい光が見えた。片眉がぴくりと上がりワインを飲む手も止まる。

暫し考え事をするように目を閉じ、再び目を開けると 「オッケー、話すでごじゃるよ!」 といつものように明るく答え陽気にサムズアップする。


「んー、昨今は妖怪同士もしくは人と妖怪のハーフって珍しくないでごじゃるよね?あと、属性の相反するもの同士の子供ってのも」


「割とごろごろいるじゃねぇか。それがどうした?」


様々な種族や妖怪、神が溢れるこの時代にハーフなどは珍しくない。しかも、属性が相反する者同士でも確率はやや低いが子供を作ることは可能だ。


「吾輩達が戦争吹っ掛ける前の時代って、異種族ハーフって少なくて、属性真逆夫婦の子供ってゼロだったんですよーぅ。そんな時に狸妖怪と狐妖怪の間に子供が生まれたって訳。前例無いもんだからまぁ周りはパニックしますよねー」


しかも、本来なら敵対する者同士の夫婦ということもあり同族達には受け入れられなかった。


「相の子はどういう訳か変化の能力も何もない妖怪だった。しかも狸の身体に狐の尻尾が生えているから見た目も相まって同族に一家そろって迫害されましたー。まぁ、仕方がないか」


両親がいない間に子供は狸妖怪たちの手によって、とある山の中に連れて行かれてしまった。同族から疎まれ、不吉の象徴と呼ばれていた子狸はそこで結界の中に閉じ込められてしまう。

偶然、その山に死に場所を求めてやって来た一人の男と共に。


「間の悪い事に、そこの山に強力な紛ツ神が発生した。力のない子狸は偶然出会った男と逃げ回り、一人と一匹は紛ツ神に喰われてしまう」


紛ツ神の体内の中で徐々に生気を喰われる中、男は子狸を助ける為に自分の身体と魂を捧げてしまった。


「おい、身体を……って、まさか?」


「そのまさか。古来より妖怪は人を喰って力を付けてたって聞いたことあるでショ?現代では禁忌となったそれを行ってしまったという訳でごじゃる」


嫌がる狸に男が無理やり我が身と魂を喰わせた結果、子狸は強力な力を手に入れ紛ツ神を打ち倒す。


「手に入れたのは人間の姿に化ける能力と、強力な炎の妖術。生まれが特殊なせいかは分かりませぬが、潜在能力はあったんでしょうなー。それが人間喰って能力解放された感じだったみたい。魂も狐と狸と人の三種類混じって面白いことになってた訳」


「三種混合の妖怪か。キメラもしくは鵺みたいなもんかね?」


「天照達は裏で『累神(るいじん)』と呼んでた。確かにキメラや鵺とは違うしー」


「『累神』……?何だそりゃ」


元・四神部隊にいた八来でさえ聞いたことがない単語に首をひねる。


「災いの巻き添えになった神の成り損ない、って意味だって天照BBAは言ってましたねー。確かに、その後で災いの巻き添えになりまくってえらい事になってた」


「神様モドキなのにそりゃ災難なこった」


「愛してた人や信じてた人、挙句世界に次々裏切られて絶望して吾輩達レベルの『厄災』になりかけてたんでござるよ。それを鎮めたのが法園寺蓮生と当時の朱雀部隊の隊長だった訳」


「どうやってそんなヤバい奴鎮めたんだよ」


「今度本人に聞いてみたら?」


「その妖怪生きてるのか?」


純粋な妖怪の寿命は長い。だが、ハーフの寿命は妖怪であってもそこそこは短いと聞く。


「いんや、随分昔に亡くなってる。でも、色々あって転生してるから。八雷神に」


「へ?」


今、何か凄い単語を聞いたような気がする……?


「正確には狸に自分を喰わせて融合しちゃった男の方だけど。芭蕉宮の兄者がそれだから」


「ややこしいな!つうか、喰われた時点で死んでるから記憶はないんじゃねぇのか?」


「魂融合したから、喰わせた後の記憶もあるって言ってましたぞ?第一次大厄祭の時に我々がやっちまったことを覚えているからか吾輩達とはあまり関わりたくないっていってた。絶対あの時のこと怒ってるパティーン!」


八来の脳裏に芭蕉宮の幸薄そうな顔が浮かんだ。厄を背負ってそうだとは思ったが、まさか前世から大厄を背負っていたとは思わなかった。

馬鹿は死ななきゃ治らない、そして薄幸は死んでも治らなかった……嗚呼無常。


「因みにー、妖怪の名は 『岩二(いわじ) 狐九狸丸(こくりまる)』 って言うんでごじゃる。大厄祭で吾輩達が憑依して操って色々やっちゃったせいで裏切者扱いされて、世間に物理的にも殺されそうになったのDEATH!妖怪たちの間ではまだ当時の事覚えている奴もいるから、面倒な事を避けるためにあまり名前は出さないでね♪あ、雛たんにはこの情報共有していいから!」


「……分かった」


前々世で自殺しようとしたら、紛ツ神に襲われて見ず知らずの子狸に体だけでなく魂までも食わせた男。

絶望の果てに叶った自殺。だが、魂と記憶は融合という形でその後も残り続けた。

きっと、絶望を抱えたまま。


(しかし、まぁ何というか……)


裏切られた絶望感は人に期待した結果起こるもので、自分の様に何も期待しなければ苦しむことも無かっただろうに。

思えば、紛ツ神に成る前の自分は仲間と師と大切な者に裏切られて絶望していた。すべてが終わったと、目の前が真っ黒に塗りつぶされたような思いをした。

だが、今の八来には怒りはあるが絶望感は無い。


(理解出来んな)



昔の自分ならば、きっと芭蕉宮に多少なりとも同情して涙を流していた事だろう。


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