VIPルームでネタバレを
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あなたは何のために強くなるの?
そう問われれば迷わず応える 『大切な人の為』 と。
その人の為に全て捧げられる
感情 身体 人生
そして命を懸けた
大切な人をこの世に留めておくために
もう絶望しなくていいように
強くなって 強くなって 助けたいんだ
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「俺が若い頃よりも観客の数がえらい事になってんなぁ」
「八来パパの若い頃よりも娯楽性が強くなったでごじゃるからー。相変わらず賭け事は禁止だけど、総合格闘技もしくは異種族格闘技観戦の中では一番盛り上がってる感じぃ?地下アイドルならぬ地下闘技場アイドルも爆誕しているのですしおすし」
地下闘技場のVIP用観戦ルームから下の闘技場の会場を眺めるアークと八来。
「しっかし、流石は八雷神様だなぁぁぁ。政府のお偉いさんや部隊長専用のVIPルームに顔パスとは恐れ入ったぜ」
「黄龍部隊入隊特典の一つでごじゃるよー♪と、言っても特別な時にしか使えないけど」
「特別?」
アークの表情が僅かに曇る。眉根を寄せ、大げさに頭を横に振ってわざとらしいため息をついた。
「最近、ここの付近で行方不明事件が多発してるんでごじゃるよ。念のため地下闘技場で何か起きないか見てろってーカイ兄者と我らのボスからお達しがあったの」
「ボスねぇ。相変わらず天照は忙しいな」
「うんにゃ、天照のBBAじゃないYO!」
「え?」
革張りで座り心地も高級感溢れる椅子に腰かけるアーク。勿論、椅子はみちみちギシギシと不穏な音を上げている。
「まぁ、雇い主は天照なんだけどー。我々への指示や監視とか何かあった時の制裁役は別にいるの。その人が大ボスって訳ですぞ」
「天照じゃないとすると、他の三神の二人のどちらかか?」
天照でないとすれば弟神の月詠か素戔嗚か?
「ぶっぶー!ですぞ。お茶会で会えるけど、事前に耳に入れといてもいいか。アーク兄者から8割ネタバレ解禁って言われたし」
椅子から立ちあがり、部屋の隅に置いてある冷蔵庫へとのっしのっし歩いて行く。
「第一次大厄災……吾輩達は《大厄祭》と呼んで派手にやったあの大戦の時にちょっとルール違反をしたことがあってね」
アークの話はこうだ。
当時、天照達とは『我々は代理を立てて戦う。決して代理である民草の闘いに手を出すな』という決まりがあったにも関わらず、八雷神は特殊な妖怪に憑依し情報操作を行ったのだ。
彼等は『我々は悪神だ!ルールは破るためにある!一つくらい破った方が面白いだろう!』という悪役三下の様な小物臭い考えでルールを破り、それが四神部隊にバレてしまう。
この事態に一番激怒したのは天照達三神ではなく、なんと憑依された妖怪の上司。当時の諜報部隊の副隊長だった。
「まさか、バイクに跨って一人で特攻かけてくるとは思わなかった……」
遠い目をするアーク。その顔に滲んでいるのは油かそれとも冷や汗か?
「もう、ひどいんですゾ?我々を『寄生虫』呼ばわりしてバイクに跨ったまま太い針飛ばして針鼠の刑に処すのぉぉぉぉ!部下に憑依して人質に取ってるってのに構いやしない!いや、そもそもルール違反した拙者達が悪いんだけどね?まさかそんなに部下想いの神殺しがいるなんて聞いてないし!!あの男のお蔭ですっごい戦力削られた!マジオワタ\(^o^)/」
「出来た上司じゃねーか」
クックッと、アークの過去のトラウマ話を心底愉快と笑いながら八来は聞いていた。
「で、その部下思いの素晴らしい上司様が今のお前たちのボスってか。はははは、ざまぁねーな」
「そう、龍を伴侶に持つ半身半神となった元人間。黄龍部隊とは別に天照の懐刀となった両性の『神殺し』。名は法園寺 蓮生」
その名を聞いた瞬間、八来の頭の奥がずきり、と痛む。脳裏に映るのは白衣姿で微笑むやたらと整った顔の男。
『 』
嬉しそうに男は名を呼ぶ。聞いたことのない名を いや 違う それは 俺の 俺達の
「八来パパ?」
頬に冷たい物を押しあてられ、八来は我に返る。
「……あ?」
頬に当てられたのは、よく冷えたビールの瓶。銘柄を見ればそれは海外産で庶民にはお高い物だと分かった。
「突然ぼーっとしてどうしたでごじゃる?」
「いや、何でもねぇよ」
先程のやたら鮮明な光景は何だったんだろうか?あれも失われた記憶の一部なのだろうか?
「いやはや、そんなこんなで戦いに敗れた吾輩達はルール違反をしたという事で、天照に千年契約で従うという罰の他にもう一つ罰を増やされたんでごじゃるよ」
八来の手にグラスを渡し、水面張力ぎりぎりまでビールを注ぐ。
「八来パパは気が付かないでござるか?我々の違和感に。さてはてそれを踏まえて吾輩達はどんな追加の罰を受けたのでしょうか!」
八来はグラスのビールを喉を鳴らして一気に飲む。華やかで軽い口当たりと柑橘系の味と香りのするもので飲みやすい。個人的にはもう少し重めの物が好きだが、これはこれで美味い。
「……お前達は天照と違ってあまりにも『人間臭い』」
本部の地下で芭蕉宮と闘った時、八雷神達は結界の替わりに濃く重い瘴気を使ってダメージを軽減させていた。だが、事が終わると跡形もなく瘴気を消してしまった。
大人しくしていると、彼等は人と全く変わらない。気配も匂いも。
「匂いまで誤魔化すっつーのは化けるのが上手い妖怪や神様でもちょいと難しい。それを踏まえて俺が導き出した答えは、お前達は人に化けてるんじゃない、身体は人間をそのまんま使用しているな?」
紛ツ神と成った八来は嗅覚や気配、瘴気や神気などに酷く敏感になった。その八来が普段の八雷神からは瘴気も何も感じられないというのはおかしい。よって、こんな結論が出たが答えは如何に?
「いやぁ、八来パパ鋭ぉい!」
にこにこといつもと変わらない笑顔でアークはもう一本ビールの栓を開け、今度は自分のグラスと八来のグラスにそれぞれ注いでいく。
「そう、我々は本来の力が出ないように大幅に力を封じられ、人として生きるように命じられた」
芝居がかった仕草で両手を広げ、闘いが始まるのを今か今かと待ち構えている観客に向けてグラスを高く掲げる。
「正確には八雷神としての本体は故郷の冥界に封じられ、分霊を作りそれを人間の魂と融合させて転生させられた」
振り返るアークの顔はいつもと同じように笑っている。だが、その体からは瘴気が僅かばかり漂い、目元には怪しい光が見える。声も口調もいつもよりも落ち着いているが、そこに静かな怒りが含まれている。
「勿論、転生前の人の魂に事情を話して融合を承諾してもらったので合法だ。ああ、この話は八塩に話してもいいが他には漏らさないでもらいたい」
話しているうちにいつのまにかアークの口調がいつものまだるっこしい独特のものから、普通のものへと変わっていく。
「一般人が聞いたらえらい事になるな。原点回帰派が聞いたらまた騒動の種になるぞ?お前たちはもうそういう事はしないのか?」
口の端で皮肉気な笑みを浮かべ、意地悪な質問をしてみた。アークはふっと目を伏せたが、すぐに笑顔に戻る。
「あ、大丈夫♪負けて天照やボスに土下座三昧だけど、別に今の世界を破壊しようなんて思ってないでござるよー?みんなそれぞれ変に馴染んじゃったり、裏切れない理由とかそれぞれあるから。吾輩、オタク生活を自ら崩壊させるなんて出来ないぃぃぃ!!折角作り出したマイスィートハニーであるVRアイドル『クイン・テッド』たんを死なせるなんて出来ない!同人活動だって辞めたくないでごじゃるぅぅぅぅ!!!」
そしていつもの調子に戻ると、ポケットから携帯電話を取り出して待ち受けを見せてくる。そこには迷彩模様のズボンとジャケットを着用したポニーテールの勝気そうな美少女が映っていた。
「そいつがお前の二次元彼女か?」
「最愛の嫁でございますぅぅぅ!!可愛いでしょ?超可愛いでしょー?」
ぶちゅぶちゅと音を立てて愛しのクインの待ち受けに口付けする。
「そういや、参加者のリスト見たが雛が気にかけていた奴ってお前の目から見てもそんなに強いのか?」
正直、うっとおしいので話を逸らす為に一つ聞いてみた。
「強いでごじゃるよー?まぁ、見てのお楽しみでごじゃるよ。雛たんと当たったら、八来パッパも満足できそうなものが見れるかもー?」
ぐふぐふと喜色の悪い笑い声を上げながら、アークはグラスの酒をあおる。
「その『パパ』とか『パッパ』とか言うの止めろ。俺は独身で、餓鬼なんざこさえた事は無い」
「えー?雛たんのお父さんポジなのにー?」
「なんだそりゃ?ゾッとしねぇな。百歩譲って師弟関係だ、師弟関係」
「ほーん?師弟関係、ねぇ」
アークがニマニマと腹の立つ笑顔を浮かべていたので、その肉厚の頬を片方思い切り抓ってやった。




