表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/96

決着と彼らの正体

****


瘴気の濃度が、瘴気の渦が激しさを増していく。

雛は体内と体の表面を覆う結界を維持していたがそれもそろそろ限界に達しようとしていた。

芭蕉宮が『音』の攻撃を開始してから瘴気がまた悪化していった。

八来から発せられる瘴気ではない。結界の力を強めよく目を凝らしてみると、紫色の靄の様な瘴気が八来と芭蕉宮の両者から発生している。

その時、視界の端にも同じような瘴気の靄が映る。


(えっ!?)


天照と法園寺を除く全員の体を殻のように瘴気の靄が覆っていたのだ。


(もしかして、あの方たちが結界なしにこの空間にいられるのは…)


雛の脳裏に一つの仮定が浮かぶ。

彼等からは妖気も何も感じなかった。だが、八来が芭蕉宮の事を『鳴雷神』と読んでいた事と彼らのコードネーム。そこから導き出された答え、信じがたいがそれしか答えが浮かばない。


「お、決着つきそうでござるな」


アークの呑気な声とは裏腹に八来と芭蕉宮はまだ死闘を繰り広げている。

そうだ、それよりも今は大事なことがある。二人の勝負を見届けなければ。


水の勢いに足首をやられ、崩れ落ちる芭蕉宮の背に八来の杖が迫る。その先端には渦を巻く水のドリルが発生していた。

水の刃は芭蕉宮の背をえぐる。

背に杖が刺さったまま芭蕉宮は体を捻り杖をしっかり掴み口を開ける。そうはさせぬと八来の手のひらが彼の口を塞いだ。

指を鳴らすのを見越して背の蛇がレーザーで指の関節を砕くと芭蕉宮の口からくぐもった声がした。

勝てる、そう八来の口元が歪んだが芭蕉宮が素早く懐から取り出したある物に思わず舌打ちした。

折れた指に引っかかっていたのは赤い組紐。輪になったその先には大きな鈴が一つぶら下がっている。


り ぃぃぃぃぃ ん っ!!


澄んだ音と共に二人の足場から大きな水の柱が噴き上がった。

雛は水の飛沫から両手で顔を覆い、再び目を開けると二人はずぶ濡れの状態で立っていた。

衣服のあちこちは破れ、八来は体の至る所が斬られ肉がえぐられている。

芭蕉宮も同じく衣服は大きく裂け、右の背に穴が空き、口からは血交じりの泡を吹いていた。刀を杖代わりにやっとの状態で立っている。


「しゃあねぇ…ダウン三回で、負けって事…にしといて、やる…」


八来は言い終わると、白目を向いたまま膝から崩れ落ち水面にぷかりと力なく浮かぶ。

それを見届けると、芭蕉宮はごぼりと血を吐き水しぶきを上げながら派手に背中から崩れ落ちた。


二人の勝負の決着を見届け、雛は一筋涙を流し固まっていた。

涙の理由は分からない。ただ、二人の闘いを見ていてもやもやとした気持ちになっていた。

二人の闘いのレベルはとんでもなく高い。いつかは私もあのような戦いを出来るようになりたい。そして八来と闘いたい。


「ほら、八来さんの所に行ってあげてください」


羨ましさと悔しさが入り混じった涙だと気が付かない雛は竜八に促されるまま頬を伝うそれを拭いもせず八来の元へと走る。


「大丈夫ですか!?」


ずぶ濡れになるのも構わず、水に手を突っ込み八来を助け起こす。


「そう見えるか?」


勝負に負けたのかムスッとして答える。全身の傷の修復は始まっているが、ダメージが大きかったのか前回の大蝦蟇戦よりも治りが遅い。


「では、約束通り八来と八塩の双方はこれより黄龍部隊に入隊してもらう」


濡れるのが嫌なのか、天照は空中を歩くように移動して満面の笑顔で言い放つ。

その後ろではカイがいやらしい笑顔で親指を立てていた。


「しゃあねぇ、約束は約束だからな。だが、雛はどうすんだ?こいつ一応別部隊に入隊してるんだろう?二重在籍はまずくないか」


「一身上の都合により除隊しておく」


「えええええええええええっ!!!!」


雛の顔色が青を通り越して土気色になる。突然の解雇宣言に支えていた八来の体を水の中に放り出してしまった。


「ひゃああああああ!!!八来さんすいませんゴメンナサイっ!!!」


再び助け起こすと八割修復の済んだ右手でアイアンクローをされてしまった。


「ひな…落ち着けやこの野郎…」


「じゅびばぜん…」


「ぴよっ子、どうせ天照が上手くやってくれる。新しくできた部隊に所属させるとか適当な事言っていればいいだろう。どうせ遠くに離れてるんだ、分かりっこないだろ」


「はい…」


「黄龍部隊は別の部隊と違って色々ややこしいし忙しいのでござるよ。二つの部隊の仕事は新人の雛殿でなくても難しいから仕方ないでござるよ。元気出してくだされ」


カイとアークに慰められるがそれでも雛の表情は晴れない。

彼女の狭く閉じた世界では実家と親は絶対であり、未だ自分は体よく追い出されたとは分かっていない。

能力も弱い、出来損ないの自分が少しでも認めてもらえるには入隊して頑張る事だと思っていた。


「雛。だから、天照が異動だ何だとお前の実家に伝えてくれるから大丈夫だって言ってるだろ。な?」


芭蕉宮に睨まれ、天照は意外そうに目を丸くして 「あ、ああ…」 と了承する。


「さて、入隊おめでとう。つきましてはコードネームを付けたり色々したいところだが…」


ついとカイが指を差す。その先にはごぼごぼと水の中に沈みながら血を吐き続ける芭蕉宮が。


「鳴が復活してからでいいか?」


「構わねぇよ。あいつもどうせ直ぐに治るんだろう?人じゃねぇからな」


雛は八来の言葉に顔を伏せる。


「どうした?雛」


「あ~、ヒント一杯~あげたし~そろそろ気が付いちゃった~?」


「天照、歓迎会前にバラしたほうがいいんじゃないか?ぴよっ子が不安がってるし」


「そうじゃな」


空中を歩きながら雛の前へと進み出る。両手に腰を当て、前かがみになり彼女の顔を覗き込んだ。


「雛、お主が気づいたことを申してみよ」


言われて雛は視線を斜め下に移す。不安そうな顔でおずおずと遠慮気味に口を開いた。


「皆さんは妖気を感じないし、完全に人の体をしているので最初は能力者と思っていました。ですが紛ツ神以上の皆さんの瘴気やコードネーム、芭蕉宮さんの能力から得た私の答えは『八雷神』…130年前に地上を狙った黄泉の神…」


言い終わり、恐る恐る視線を上げる。

目の前にいたのは笑顔、笑顔、笑顔。そのどれもが人間の顔。

だが、人の筈なのに、それなのに、彼等は、



「「「「「「「「「正解」」」」」」」」」


声を揃えて笑っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ