踊れや踊れ、大蛇と鳴神様
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「「はははははははははははははははははははははははははははっ!!!」」
笑い合う二人の男。二人は鏡のように同じ笑みを浮かべながら片方は刀を、もう片方は杖を振るいお互いの武器をはじく。
その合間に蹴りが拳が隙間を縫うように相手を狙う。
余裕とばかりに笑みは崩さず拳には拳を、蹴りには蹴りを、武器には武器で返していく。
それは誰が見ても互角に見えただろう。
だが、八来は内心焦りを感じていた。
(被るのはキャラだけにしろやこの野郎ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!)
技を放つ一撃目の足の運び、躱し方、蹴りや拳を撃つタイミングと速さ、それらは全く同じ。まるで鏡に写った自分と戦っているような気分だった。
唯一違うのは持っている武器と技。しかし、杖術は対剣術用の武術。杖術で躱される技も研究済みなのか中々決定打を出させてはくれない。
(いや、もう一つ違いがあったじゃねぇか)
間合いを取り剣術の片手突きのように杖を持つと、もう片方の手を杖先に添える。腰を落とし、一直線に芭蕉宮へと突進する。
突きを警戒し、芭蕉宮は左足を軸にして右へと四十五度動く。そして目の前を通り過ぎようとした八来が杖先を右手で掴みそのまま鳩尾を狙って先端を押してくる。
「見え見えだ!」
それを予想して既に芭蕉宮は真上から杖を斬る為に刀を振り下ろしていた。
刃が杖に食い込む瞬間、八来の手が乱れた映像のように大きく歪む。
「なっ…」
八来の手がブレたかと思うと、肩から先が銀色の蛇となり刃に巻き付き動きを止める。
驚く芭蕉宮の目前に左腕を変化させて作った蛇が迫る。
金属製の蛇が八来の様なニタリとした笑みを浮かべると口を開け、ダイヤモンドさえも削る勢いの水を発射する。
芭蕉宮は刀を手放し後方に体を反らして躱すと、そのまま地面に手を付きバク転の要領で後ろへと間合いを取る。その際、回転の勢いを利用して踵で八来の顎を蹴りつけるが躱されてしまう。
「おいおい、剣士様が大事なだぁぁいじな刀手放しちゃヤバいんじゃねーの?」
両腕を元に戻すと杖を手の中に押し込んで体内に戻す。芭蕉宮の刀を中段に構えると腰を落とし先ほどと同じ様に片手突きの体勢で相手の鳩尾を狙う。その背には四匹の蛇が口を開けて殺人水鉄砲の発射準備をしている。
獲物を取られ、刀と水のビームに狙われながらも芭蕉宮は少しも慌てた素振りが無い。カイに視線を送ると、カイはいい笑顔で親指を上に立て左から右へと首の前で動かした。
『死なない程度にヤッてよし』
リーダーの合図に軽く頷くとすぅ、と軽く息を吸う。
刃が芭蕉宮の体に届くまであと数センチというところで彼は口を開く。
「っ!!!??」
突如、八来の体は見えない大きな壁の様なものにぶつかり後方へと吹き飛ばされる。突然の事に受け身も取れず、八来は頭から床へと叩きつけられた。
「おいおい、鳴―。手加減してんじゃねーよ!仕留めるんだったらもうちょい本気出せー!」
カイの野次に 「黙れ」 と無表情で吐き捨てる芭蕉宮。
「二度目のダウンか。解体屋のストリートファイトルールならあと一回でお前の負けだぞ?」
「うるせぇ!」
刀を持ったまま、ややふらつく足で立ち上がる。
(やべぇ、マジ油断してた。こいつらの能力…いや、この男の能力は俺のと相性最悪じゃねぇか)
先程思い出した記憶の中にあったのは、芭蕉宮が刀を使わずに遠くの八来を攻撃出来た事。
風による衝撃波ではないのは分かった。風を切る音もないし、鋭利な刃物で切られたような跡も無い。
大きな壁で殴られたようなあの感覚。そして直前に芭蕉宮が口を開いた理由。
「『音』だったな、お前の能力は」
八来の問いに芭蕉宮は手を前に真っ直ぐ伸ばし、中指と親指をくっつけてパチン!と弾く。
その音で周囲に再び衝撃が走った。
八来は音の衝撃を防ぎきれずにまたも全身にダメージを負って倒れそうになるが何とか堪える。
不思議な事に衝撃の中心にいる芭蕉宮は全くダメージを受けていない。
(まずい…水の中でも音の衝撃は伝わるじゃねぇか!!)
「そろそろ、愛刀を返してもらおうか」
芭蕉宮が片手を開くと、刀は八来の手を離れて主の手の中へと返る。
「カイからお許しをもらった事だし、もう少し本気を出してやろう」
再び息を吸い、口を開く。人の耳には聞こえない超音波が八来の鳩尾を叩いた。
「ぃ……っ!」
一瞬、視界が白くなり再び意識が戻った時にはすぐ傍まで白刃が迫っていた。
どうする?どうする!八来は蓄積されたダメージで鈍った頭を何とか回転させる。このままだと遅かれ早かれ倒される。ならば、それならば!
目を見開くと、背中から蛇を八体生やし大量の水を一斉に放出させる。芭蕉宮は刀を引き、口から音の衝撃波を飛ばしながら横っ飛びに水のレーザーを躱す。八来も衝撃波を横に転がりながら躱すが、蛇の攻撃は芭蕉宮を狙い続ける。指パッチンの音の衝撃波を出そうにも蛇の攻撃が激しく指を鳴らす暇もない。
お互いの攻撃を躱しながら走り続け、決定打が出ないまま時間だけが過ぎていく。
いつしか蛇の吐き出した水で足元は濡れ、足首の高さまで水位が上がる。
「あ、鳴三のダンナ、ヤバいぞ」
足元が濡れるといけないから、と雛をお姫様抱っこしようとして 「大丈夫です」 ときっぱり断られた銀龍が呟く。
水が床一面に広がってから八来の動きが徐々に早くなってきていた。よくよく見ると、八来の足はアメンボのように水面をすべるように移動している。
「行くぜぇぇぇぇ!!!」
八来は掌から杖を取り出し、芭蕉宮の前まで素早く接近すると杖を横一文字に振るう。
激しい音を立てながら水しぶきが壁のように上がる。
芭蕉宮は腕で飛沫から目を庇い、前を見るが水の壁が消えた後には誰もいない。まさかと思い上を見ると何かがふわりと舞っている。
それが八来の上着だと気が付いた時には遅かった。足元の水が渦を巻き、足首を捻り上げる。
崩れ落ちるその背に迫る杖。
そして、激しい音共に水の柱が立った。




