飛べない鳥の頭は疑問だらけ
この日本において『大厄災』は二度起きている。
最初は130年前、そして2度目は1年前。
戦の主犯は『八雷神』という八柱の神だった。
130年前、伊邪那美神の体から生まれた彼らは天照大御神、月詠の命、須佐之男命の三神と地上の人間妖怪神々全てに対して宣戦布告をし、戦を仕掛けてきた。
八柱の主張は 「地上の全権をかけて我等と戦え!」 。これに対し、三神は 「我らが全力で戦えば地上は焼け野原。人間妖怪神々も全て滅ぶ」とし、代理戦争を持ち掛けた。八雷神は紛ツ神を、三神は人間と妖と神で対抗組織を作り戦わせた。この対抗組織こそ『四神部隊』の前身だった。
一年にわたる戦いの末、勝利したのは三神率いる対抗組織。
「…と、今の歴史の教科書では書いているんだよな、ぴよっ子?」
八来と芭蕉宮の会話を雛は首を傾げて聞いていた。その会話に何か引っかかるものがあり考え事をしていたがカイに呼ばれてハッと我に返る。
「え?す、すいません!考え事をしていました」
「だぁからよー」
カイはもう一度先ほどの大厄災と八雷神の話を繰り返す。
「はい、教科書でそのように教わりました」
「お前、八雷神の八柱の名前を思い出そうとしていたんじゃないか?」
「はい!カイ神父、何で分かったんですか!?」
「八来が芭蕉宮の事を『鳴雷神』と呼んだ。それが八雷神の一柱の名前だからな」
八雷神の全ての名は『大雷神』『火雷神』『黒雷神』『析雷神』『若雷神』『土雷神』『鳴雷神』『伏雷神』。
何故、八来は芭蕉宮の名前を『鳴雷神』と呼んだのか?
疑問を持った時、雛の頭に浮かんだのは黄龍のメンバー全員の一文字の呼び名。『大』『黒』『裂』『若』『鳴』『影』。
法園寺以外のメンバーは八雷神の名前に当てはまる。
「カイ、貴方はまたそうやって八塩さんをからかうような事を」
法園寺が咎めるがカイはどこ吹く風。ペンを片手でくるくると回してニヤニヤと笑う。
「ヒント教えただけじゃねーの。全部は教えてないからいいだろ?」
「カイの兄者は好感度MAXまで上げないと真実を教えてくれないのでごじゃるよー乙女ゲームの真ヒロイン並みに口説くのが難しいのですよドゥフフフフ。あイテっ!!」
まん丸の顔を更に膨らませてグフグフ笑うアークの額にカイの投げたペンが見事ヒットした。
「八来さんは何か思い出したみたいなので、後で全部聞いてみてはいかがでしょうか?」
竜八の一言に雛は納得し、カイは 「全部終わってからな」 と、中年二人の闘いに再び視線を戻す。
「八来さん、先ほどより動きが良くなった!」
雛も同じく二人の闘いへと視線を戻す。
「これなら、勝てるんじゃ……?」
「いや、駄目だ」
銀龍の否定に雛の笑顔が一瞬で固まる。
「何故ですか!?」
「いや、ほら、見てごらん」
八来の踵落としを間一髪で後方に飛びのいて交わした芭蕉宮が反撃に移った。八来の右の回し蹴りを同じく右の回し蹴りで受け止め、右の蹴りをフェイントにした左の蹴りも同じ技で受ける。
全く同じタイミングで同じ速さで蹴り技が相殺されていく。ならばと掌底やカウンターフックなども織り交ぜていくが、まるで予知していたように同じ技で潰される。
「ぴよっ子、どうして俺達が八来が勝てないって予想したか分かるか?これだよこれ!鳴海はな、技の癖も動きも八来と同じなんだよ。キャラだけじゃなくて技のあれこれの癖も被るってのは滅茶苦茶やりづらいってーのな」
「彼は真面目だから事前に八来さんの事を丹念に調べていたんですよ。元々キャラ被り…もとい似ていたところが多かったし癖も似てましたからね」
法園寺の言葉に雛は困惑する。確かに雰囲気など似ているところはあるが、偶然癖が似ているというだけでここまで完璧に八来の技を同じもので返せるのだろうか?
「疑問も色々あるでしょうが、他人の空似で似た者同士が成せる技とでも思っておいてください」
今のところは、と法園寺が小声で付け加えた。
他人の空似?
雛の頭にはまた新しい疑問が浮かぶ。
先程二人の対峙する姿を見て思ったのは、八来と芭蕉宮が全く同じ人物のように見えた事。
ああ、分からないことが多すぎる。
脳内は疑問符だらけで、八来の闘いは未だ不安ばかり胸を過る。




