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毒蛇と風舞剣舞

八来は紛ツ神になってより強くなった。

それは自分自身が一番理解している。何せ、人ではなくなってしまったのだから当たり前だ。

強くなったはいいが、酷く心の奥底が乾く。

渇きを癒してくれそうなヒヨコを見つけたはいいが、闘鶏レベルになるまではまだまだ時間が掛かりそうだ。

さて、ヒヨコが成長するまでの間に渇きを誤魔化してくれるような奴はいないか?日々そう思っている。


今、目の前で対峙している男は期待していいのかもしれない。

血を吐きながら部屋に入ってきた時には、何処の死にかけだ?と思ったものだ。だが、いざ戦うと決まった時はどうだろう、先ほどとは顔つきも目つきも別人のようだ。

力を抜いているように見えるが、どうにも油断ならない。

あの男の凄まじい闘気につい反応してこちらも闘気と瘴気を出してしまった。普段は闘いの場でも瘴気を出さないようにしていたが、それが 『つられ』 たのだ。


あり得ない!相手はただの人間だ。それが何故こんな化け物じみた闘気を放つ!?何故、結界なしに特濃の瘴気の満ちた部屋で立っていることが出来るのだ!?


杖を持つ手はいつの間にか汗ばみ、口元には歪んだ笑みが浮かぶ。


疑問は浮かぶ。だが、それ以上に期待が湧き上がる。心が躍る。

いける、イケる、こいつは雛とは別の意味で楽しませてくれそうだ!!


「八来、貴様は俺を…いや、俺達を覚えているか?」


「あ?以前、会ったことがあんのかぁぁぁぁ?思い出せねぇぇなぁぁぁ」


虫食い状態の自分の記憶を探っても、黄龍のメンバーたちと関わった記憶は一切ない。


「そうか」


素っ気ない一言だった。

だが、次の瞬間芭蕉宮の体から更に爆発的な闘気が放たれる。そして一陣の風が八来の横を薙ぐように通り過ぎていく。


「芭蕉宮…アンタ、外見とは逆に結構アツい男なんだなぁぁぁぁぁぁぁ」


八来は元居た場所からいつの間にか斜め後ろへと移動していた。その両目を覆う前髪は斜めからバッサリと斬られ、額には一筋短く赤い線が刻まれている。


「前髪が長いと視界が悪くて闘いづらいだろう?」


刀を脇に挟み、両手をズボンのポケットに突っ込んだままニコリともしない芭蕉宮。一瞬で移動し、八来を斬り付けて再び元の位置へと彼は戻っていた。


「言ってくれるじゃねぇかぁぁぁぁ!」


八来は指先で額の血を拭う。幸い、皮一枚で斬られており出血は少ない。


「残念、斬れなかったなぁ…首ぃぃぃ!!」


まだ余裕とばかりに笑い飛ばすが、その背は汗でびっしょりと濡れている。


(ちぃと本気でかからねぇと、簡単に首獲られるやつだぁぁぁぁぁぁぁ!!!)


首を狙った一撃を咄嗟にかわしたものの額を浅く斬られ前髪をバッサリ持っていかれた。その人間離れした早業にぞくりとするが、同時に胸の奥でくすぶっていた物に火がつくのを感じた。


「…下手な紛ツ神や四神部隊の隊長よりも強いなぁぁ。いいぜぇ、いいぜぇぇぇぇ!!!」


思い出せる範囲の記憶では、ここまでの速さで抜刀する者は見たことがない。動きはギリギリ見える上、剥き出しの闘気から動きを読むことは容易い。紛ツ神と成った自分の反応速度なら躱すことは出来るはずだ。


「そんじゃあぁぁぁ気合い入れていくかぁぁぁぁ!!!」


構えを解き、杖を持つ手を逆手にして背に回しそのまま芭蕉宮へと一気に接近する。背と足一直線になるように杖を隠し相手に攻撃を読ませないようにするためだ。

そして間合いに入った瞬間、その無防備な鳩尾に杖で突きを入れる。


「はっはぁぁぁぁっ!!」


またも一陣の風が吹いたが、殺気を読んで姿勢を低くして交わすと死角から背に生えた蛇を一匹芭蕉宮の懐へと潜り込ませる。

だが、


「読めてんだよ、この蛇使い」


冷たい声と共に、八来の手に違和感が走る。


パキンっ!と乾いた音と共に、カンっ!と甲高い音が響く。


最初に響いた音は蛇の首が跳ね飛ばされる音、次に響いた音は杖が真っ二つに斬られる音だった。

続いて、肉を裂く音と氷を詰め込まれたような冷たさ、そして焼ける様な熱さが身体を駆け巡る。


肩から斜めに切られたと気付いた時にはすでに遅く、八来の上半身からは血しぶきが噴き出していた。


(俺と蛇と杖、まとめて斬りやがった、だと!?)


赤く塗り返された視界の向こう、僅かに見えたそこには芭蕉宮のどこか悲しそうな顔があった。


(何で…そんな顔しやがる?お前は一体…)


確か、こんな光景を 前にも 見た よ う  な   ?


薄れゆく意識の中、耳に飛び込んで来たのは雛の叫び声だった。


「八来さぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」



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