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黄龍部隊

「え…えええええええっ!?」


雛は悲鳴のような声を上げ、八来は 「やっぱりかよ」 とどこか呆れた声を出す。


「す、凄いですね、八来さん。ど、どうして、分かったんですか?」


「髪の色、耳の形、後は紅茶の匂いだ。最初に会った時にお前から微かに紅茶に近い匂いがしたんだよ。あの神父と同じ身体的特徴に雛の持ってきたあの紅茶の様な薔薇の香り、もしやと思ってカマかけたらビンゴだっただけだ」


「わ、わぁ、す、凄いですね!し、初見で見破られたのは、は、初めてですよ!」


「カイ、正体バレたんだから、いい加減猫被るのナシにしたらどうだ?二重人格と思われるぞ?」


黒いコートの男の言葉に、カイは口の端を吊り上げる。すると、先ほどまでの凶悪な表情に戻り青い瞳は金色へと変わる。


「そうだな。本性明かしたんだから、いつまでも演技したままじゃなくてもいいか。ひひっ」


神父のあまりの変貌ぶりに雛は目を白黒させ、挙句自分の両頬を引っ張る。 八来はその手を掴んでやめさせる。


「雛、落ち着け、皮千切れるぞ。脳内処理が追い付かないのは分かるが落ち着いて状況を受け入れろ。今目の前で下品な笑い方しているのが奴の本性で、今までのは演技だったんだ」


「は…はい」


だが、目の前で行われた『人が変わる瞬間』という出来事をすぐに受け入れて処理することは出来ない。

あんなに綺麗な花を丹精込めて育て、見ず知らずの雛に優しい声を掛け、空腹で倒れそうになった時にも手を貸してチョコレートまでくれたカイ神父が。あの優しさがすべて演技だったなどとはとてもではないが受け入れがたい。


「あー、カイが混乱させたー。可哀想にな、こんな下品な神父に騙されて」


黒コートの男が雛の前にしゃがみ込み、目線を合わせると微笑みかける。雛の頭に手を置き、撫でようとするが彼女のすぐ後ろの八来の殺気の籠った視線にすぐさま手を引っ込める。


「俺の名前は『飛崎(とびざき) 三郎(さぶろう)』。ここのメンバーには『銀龍(インロン)』もしくは『(くろ)』って呼ばれてるんだ。宜しくねー♪」


銀龍と名乗る男は背後の八来へと 「あんたもね♪」 とウィンクする。

八来の背筋にびっしりと鳥肌が立った。何故だろう、この銀龍という男のねっとりとした視線は…?


「ああああ!銀龍兄者、抜け駆けずるいでござるぅぅぅぅ!!拙者もラブリープリンセス雛たんとお話したいでござるぅぅぅぅ!!」


肉塊…もとい横幅も大きい男が突如として声を張り上げる。銀龍はやれやれと立ちあがり場所を譲る。


「はいはい、ちょっと落ち着けよ。ほれ、バトンタッチ」


その大きな手を太い男の顔の前に差し出すと、男はもっちりむっくむくとした巨大な手で軽くパンっ!と音が鳴るように手を合わせた。


「拙者、阿久津(あくつ) 天馬(てんま)と申す者でござる!!『(ふせ)』もしくは『アーク』と呼んでね♪ぬああああっ!きゃわたん!!ふわんふわんの髪に愛くるしいお目目!!小柄でおぱーーーいが大きいとかもう天使?マジ天使ぃ!!ふわふわの可愛いお洋服いっぱーーーい着せてお写真撮りたいでござるよ!!あああ我々の隊に是非入隊してほしいでござるよ!!ここの隊はおにゃのこが入っても既にお手付きだったりするからぁぁぁぁ!!!」


巨大な肉、もといアークはその太い腕で己を抱き締め巨体をグネグネさせながら顔を真っ赤にして一気にまくしたてる。


「と、いう訳で八来パパ!娘の雛ちゃんを是非吾輩のお手製のきゃわたんなお洋服で着飾らせてお写真を撮影しまくる許可をくだちぃぃぃぃ!」


びっだーん!と激しく床に己の肉を打ち付け五体投地する。

八来はというと道端の吐しゃ物を見るような目つきでアークを見ると、背中から蛇を一体出した。紛ツ神の蛇はその大きな顎をあんぐりと開けて床に這いつくばっている物体を飲み込もうとする。


「申し訳ありません、クズ豚がとんだご無礼を」


アークと龍の間に小柄な子供が立ちはだかる。キチンと両足を揃え、45度の角度で八来に向かって丁寧に礼をした。


「そこで地面と仲良くしている肥満体には私からもお仕置き込みで心にも体にもよく言って聞かせますので。どうか背中のソレを収めて頂けませんか?」


子供の申し出に八来は舌打ちしつつ背の蛇を引っ込める。


「自己紹介が遅れて申し訳ありません。私は(さくら) 竜八りゅうやと申します。通称『(わか)』そこのたれ目でくっそだらしない髪型の男の病院で看護師をしています。因みに、男性名ですが両性ですので性別はありません。外見年齢は幼いですが年齢は18歳。どうぞお見知りおきを」


竜八の後ろでは、着物を羽織った男が 「だらしない~髪型の男って~だ~れかな~?ねぇ~竜八くぅ~ん」 と首をひねっていた。


「そんじゃ~つ~ぎは僕ね~。僕は~斎賀(さいが) 刻守(ときもり)~っていうの~。『(さく)』ともいうよ~♪よ~ろしくね~。開業医してるから~何かあったら~いらっしゃ~い♪」


「お前の背後で今まさに『何か』が起こってるぞ?」


八来が指差す先にはスーツの男が激しく咳き込み、ハンカチを真っ赤に染めていた。


「あ~、あれはい~つものこと~。お薬~ちゃ~んと持ってきた~?」


吐血という大事が起こっているが、八来と雛を除く全員は 「いつものこと」 と特に気にしていない様子だ。


「言われなくとも」


スーツの男は胸ポケットから小さな茶色の小瓶を取り出し蓋を開けると中身を一気に飲み干し、口の端から僅かに滲んだ赤い液体をハンカチで拭った。


「…失礼した。俺の名前は芭蕉宮(ばしょうみや) 鳴三(なるみ)だ。ここの連中には『(なる)』とも呼ばれている」


「これで一応私以外のメンバーの紹介は終わったかな?私は先程名乗ったから省かせてもらう」


法園寺はメンバーの前へと歩み出ると淡々と説明を始めた。


「我等は『黄龍部隊(こうりゅうぶたい)』。活動内容は他の部隊と同じ様に紛ツ神の破壊や犯罪者の捕縛、時に隠蔽工作なども行う。そして、『原点回帰派(げんてんかいきは)』の討伐やそれに関わる犯罪を阻止することが主な活動だ」


《原点回帰派》という単語に八来の片眉が僅かに動く。


「あのテロリスト集団、最近はめっきり大人しくなったんじゃねぇのかぁぁぁ?」


《原点回帰派》とは130年前に出来たテロリスト集団だ。

人と妖と神はそもそも別れるべきであり、今の様に親密に交わり妖と神の価値を下げるべきではない。遥か昔のように人は神を敬い、妖を恐れるべきである。と、言うのが彼らの主張。故に現状は異常であるとし、全てを元の世界に作り替えるとあちこちでテロ行為に及んでいた。

そして、130年前の『第一次大厄災』では天照達三神に敵対する集団『八雷神(やくさいかづちのかみ)』と共に大規模なテロ行為を行った。


「いんや、一年前の『第二次大厄災』の時に背後でガッツリ絡んでいやがった。お前を捕らえた連中の中に幹部が紛れていたのが分かった。最近も何やらガサゴソ裏で悪い事しているみたいだし」


カイの言葉に今度は八来の目つきが更に鋭くなる。


「ほぉぉぉぉぉう?俺をとっ捕まえて頭と体を弄ったクソ集団のバックがあの『原点回帰派』だったのかぁぁぁぁ!!ははははははははは!!そうかそうか!俺は首謀者を潰したと思っていたが、違ったのかぁあぁぁ!!」


「首謀者は~まぁだ捕まってないよ~?だ~から~僕達で色々~調べてる最中なんだよ~。でも~中々尻尾出さないし~困ってるんだ~」


「紛ツ神の出現も増えるし、忙しくなってきたと思った矢先にあんた達が新種に遭遇したって言うじゃねぇか。これから先、そういうのが増えるんじゃねぇかって考えると頭が痛い。だから」


銀龍はぴっと人差し指を立てると八来と雛を指差す。


「八来のダンナと雛ちゃんに黄龍部隊に入ってほしい訳ー」


「入隊のメリットは?」


「八来パパにひどい事をした連中の情報は遠慮なく伝えるし、我々と一緒に奴らをけちょんけちょんに出来る権利が貰えるでござるよ!!雛ちゃんには拙者特製のきゃわたんなお洋服が貰える!!」


話が脱線しかけたアークの後頭部に鳴三のチョップが入る。


「八塩の嬢ちゃん、あんたは『八岐大蛇』の紛ツ神と相棒になったという事は大なり小なり原点回帰派のしでかすことに巻き込まれることになる。その被害を少しでも俺達は減らすことが可能だ。だから、二人揃って入隊してはくれないか?」


「嫌だと言ったら」


鳴海の申し出に戸惑う雛を差し置いて、八来は小馬鹿にしたように笑う。


「そう言えば、八来は自分より弱いものには従わないと言っておったわ。どれ、ここいらで一つ手合わせしてみてはどうじゃ?」


天照は部屋の隅に畳を敷き、ちゃぶ台を用意する。


「成程、では我々の誰かが勝利したら八来さんと八塩さんは我々の隊の一員になってくれるのですね?」


では、と竜八が袖を捲り右腕を掲げた。


「じゃんけんで決めるのか?いやいや、竜八、今日はこの日をずっと待ってた鳴に譲ってやらねぇか?」


八来と雛を抜かした全員が驚いたように目を丸くし、鳴三を見る。本人も驚いているようで、自分を指差して全員をぐるりと見回した。


「カイ、いいのか?俺で…」


「いいのいいの。ただし、余計な事は喋るな。一年前のこと位はくっちゃべって思い出させてやれ」


「分かった。一年前の話『だけ』だな」


「そ。それ以外はNGだ。破ったらお仕置きだ」


お仕置き―――その単語に鳴三の口元が僅かに引き攣った。


「あんたが俺の相手をしてくれるのかぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ああ、カイからお許しが出たんでな。他のメンバーには悪いがお前と一戦やらせてもらう。そして」


眼鏡を外しスーツのポケットへ。そして両手を静かに合わせる。左右に手を広げたかと思うと彼の手から一振りの日本刀が姿を現した。


「俺が勝たせてもらう」

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